※現代パロ※


大晦日、私は年越し蕎麦を啜りながらゆく年くる年を見るという日本人らしい有意義な時間を過ごしていた。年末にひとりだとか、そういうのは気にしていていない。気にしたら負けだ。それよりあと数分でハッピーニューイヤーだ。それまでに蕎麦を食べ終えなければならない。今年は、みんながよくやる明ける瞬間にジャンプをしようと思っているのだ。二十歳を過ぎた女が、しかもひとりでというのはとても痛い構図だが、元々痛い思考を持った二次元しか愛せない私なのだ、問題ない。そうこうしている内にカウントダウンが始まった。慌てて啜るスピードを早くする。ずるずるずずずーっ豪快な音をたてながら数十本の蕎麦が器から口へ、口から胃へ流し込まれていく。外国の人は嫌なんだろうなあこの音。日本育ちの純イギリス人のリドルだって、止めなよって言っていたし。私はこういう食べ方好きなんだけ、ん?リドル?あ、

「3、2、1、明けましておめでとうございます!!!!」
「ああああああリドルの誕じょぅあだっ!!〜っう・・・えもう明けたの?!てかお蕎麦!!ああああああ!もう!どうすれば!」

31日がリドルの誕生日(だった)事を思い出し、立ち上がるとテーブルの角に思いっ切り膝をぶつけ、テーブルはひっくり返り、蕎麦の汁をカーペットにぶちまけ、そして痛みと戦っている内にテレビが新年が告げ、もうかなりパニック状態だった。とにかく最優先すべき事はリドルへの謝罪の電話だ。ああソファにパソコン置いといて良かった。もう少しで蕎麦汁まみれになる所だった。本当に良かった。パソコンを機動させながら、数時間前の自分に感謝した。

リドルと話す時にいつも使うSkypeを開く。その瞬間ポップな音と共にメッセージが表示された。・・・リドルだった。「やあ」と、それだけ書かれていた。見た瞬間背筋が凍りつく。だってリドルから話しかけてくるなんて、今まで一度もない。それにこの「やあ」からただならぬ怒気が感じられる。たった二文字でここまでどす黒いオーラを出せる人間が他にいようか。(いやいない。)またポップな音と共にメッセージがあらわれた。

「ねえ」

さらに寒気が増す。やばいやばいやばい。ここは潔く謝ろう。カタカタとキーボードを慣らし謝罪文をつくる。

「誠に申し訳御座いませんでした。本当に無礼な事を致しました。決して忘れていたわけではないのです。ただ年末という事もあり、色々と立て込んでおりまして。お詫びに何でもいう事を聞きますのでどうぞお許しください」

上出来。今までの経験からいくと、このぐらいで大丈夫だ。ちなみにリドルと私は同い年である。悲しくなんてない。私と彼の立場の差に胸を痛めていると、彼は信じられない返事を書いてきた。

「は?」

こ、これだけ書いても満足しないのか。という事は史上最強に怒っているという事か。だめだ、為す手がない。こういう時は。

「うわっごめん。ちょっとお隣さんが呼んでる。ばいばい!!」

永遠にな、というのを心の中でつける。何も言われないように音速の早さでパソコンの電源に手を伸ばす。しかし、リドルの方が行動が早かった。液晶上に表示される電話マーク。小馬鹿にしたような着信音。相手はもちろんリドルだ。出なきゃ殺される、出てもきっと殺される。どうせ殺されるなら、せめて最後にリドルの声を聞いてから、なんて考えて通話ボタンを震えるマウスでクリックした。

「もしもし」

声色は明らかに怒っていた。

「・・・もしもし」
「あのさ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「・・・何に対しての謝罪なわけ?」

それを言わせるのかこいつは。どこまでも鬼畜なの奴だ。

「それは、」

そこではっと我に返った。今、リドルはイギリスで仕事をしている。だからそれでしょっちゅう行き違いが起きるのだ。Skypeも中々時間が合わない。そう、9時間の時差のせいで。くじかんのじさのせいで。クジカンノジサノセイデ。

「リドル!!!ハッピーバースデー!!!!おめでとう!!!」

そうさ、こっちが深夜ならあちらは昼だ。時差万歳!!今まで憎かった時差が急に神のように思えてくる。

「ありがとう」
「いやいやー本当は日付が変わった瞬間に祝おうと思ったんだけどねーごめんねーイギリスの時間よく分かんなくてねー本当にごめんねー」

もういいや、嘘をつきまくれ。機嫌をとれ。

「ふーんところでさ、僕のSkypeの場所どこって書かれてる?」
「んー?もちろんイギリスに決まって・・・」

あれ、おかしいな。日本って書かれてる。バグってるのかな。リドルが日本にいる?そんなわけないない。

「えーとなんかバグってるみた」
「どこって書いてある?」
「にほ」
「だよね。僕が言いたい事分かるかな?」

まさか、ガチで日本に帰ってきてる?だって、今年は帰れそうにないって二週間前に言ってたじゃん。

「・・・日本にいるって事?」
「やっと分かった?ていうか寒いから開けてよ」

同時に玄関から、バンッと大きな音がした。いやいやいやなんてホラー。

「早く」
「分かった分かった!」

玄関に向かい、おそるおそるドアを開けると、久しく見慣れていなかったリドルがにこやかな笑顔で立っていた。

「久しぶり。僕の誕生日忘れていてくれてありがとう。あと泊めさせてもらうよ」
「そんな勝手に」

私が止める前に、リドルは我が物顔で私の部屋にずかずか入っていった。私も後ろから跡を追う。

「へえ。君は呑気に蕎麦を食べながらテレビを見てたわけか。そりゃあ僕の誕生日も忘れるのも仕方ないよね」
「ご、ごめんなさい」
「謝る事ないよ。全く気にしてないから。誕生日なんて毎年あるものだし。あ、年末もか」

リドルはにこにこ笑っているが、目は笑っていなかった。それとやたらと誕生日を強調してくる。めちゃくちゃ気にしてるやん。

「本当にごめんなさい」

私はただひたすら謝るしかなかった。せっかく会えたのに何してるんだろう私。ちゃんと覚えていれば、リドルと甘い夜を過ごせていたかもしれないのに。大馬鹿野郎だ。

「・・・なんで泣いてるの」
「だって、」

ぐいっと腕を引っ張られ、リドルの胸板に顔を押しつけられた。リドルの、匂い。さらに涙が伝い落ちる。

「っう本当にごめんなさ、」
「冗談だよ」

リドルの声はもう怒っていなかった。しばらくリドルの胸の中で泣いた後、二人で蕎麦の後始末をした。(こぼした経緯を話したらリドルに鼻で笑われた)そして疲れたと二人でソファに腰を下ろすと、いつもよりソファが沈んでちょっぴり嬉しくなった。口角がゆるんでいたのか、リドルに気持ち悪いと言われてしまった。気にせず私はそのまま口角をつり上げて彼の方に向いた。二人分の重さ。リドルがいる証拠。しあわせ。

「リドル、ハッピーバースデー!!生まれてきてありがとう!」


God Bless you.



20111231
HappyBirthday!!
Tom・M・Riddle
Voldemort
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