乙女ゲーム | ナノ

訪れた平穏

『ワカさん?』
「あぁ、ちょっと出かけるってさ」
「店長の話によると、古い友人が訪ねてくるので、少しこの街を案内したいらしい。いわゆる旧友というやつだ」
「旧友って言ってもさ、あの人、店長の前は何をやってたわけ?」
「俺は知りませんね。シンは?」
「知るわけないだろ。俺は一番あとにバイト入ったんだし」
「それもそうだな」
「小春も知らないの?あんた、結構店長と仲いいじゃん。昔の話とかしないわけ?」
『うーん。わかんないなぁ、センジョウではー。とかよく言うよね』
「確かに。なんだろうセンジョウって」

今日は早めに閉店したので、みんなでお掃除している
ワカさんはお出かけ中で、その理由について話をしてる
ワカさんの過去についてだ

「あの人若いよね。まだ二十代後半ってとこかな」
「どうでしょうね。なんにも知らないですからね」
「言いたくないってことか」
「秘密主義者なんだろう。気持ちはわからなくもないな。今の時代、物騒だからな」
「でも本名くらい教えてくれても…」
「……ねえ」

シンが思いついたように顔を上げて言う

「ワカさんならまだ近くにいるし。尾行でもしてみれば、わかるんじゃない」
「お、楽しそうだね。僕は賛成」
「駄目ですよ。まだ掃除終わってないんですから」
「全員で行かなきゃいいんじゃないか。あまり大人数だと気づかれる」
「はいはーい!私行きたいです!」
「あ、ずるーい!私も私も!」

なんだかんだ言って、みんなノリノリだ
そういう私も、ちょっと興味あったりする
結果じゃんけんで決めることにした


「「じゃんけーん」」

「「ぽん!!」」


***



「どうだ、見えるか?」
「大丈夫。まだバレてないみたい」
『ね、ねぇ…大丈夫かな』
「なに言ってんだよ。ちょっと見て帰ればいいだろ」
「そういう危なっかしいとこ、変わってないなーシンは」
「兄貴ずらすんな。そういうトーマもな!」
「はいはい」

シン、トーマ、私
この三人がジャンケンで勝った
サワやミネが行きたそうだったから変わってあげたかったけど、二人に止められてしまった
もう覚悟を決めるしかないみたい

「おい、ワカさんが走ったぞ!」
「追え!シン!」
「お前もだろ!」

そうしてシンとトーマが走り出す
私も続こうとした、その時
誰かに手首を握られて、路地に引っ張られた

『えっ!』

トーマとシンは走って行ってしまう
呼ぶことを忘れ、私は振り返った

「貴様、なぜつけて来た」
『て、店長!?』

黒いオーラを出している店長の姿があった
メガネの奥の目がギラリと光る

『す、すいません!ほんの出来心でっ!』
「出来心?まあいい。経緯を洗いざらい吐いてもらうぞ」
『…はいぃ…』

ごめん、みんな(泣
私はみんなとの会話を話し、なぜ尾行をしたのかも話した

「ほう、しかし、あのような尾行の仕方。戦場では死に値する」
『…はぁ』
「まず声が大きすぎる。シンやトーマの声が丸聞こえだ。次に気配。物音もするし、姿も隠せていない。貴様がいるとは想定外だったが」
『私影薄いんでしょうか』
「そうではない。いつも男性にばかり気配を集中させていたからだ。客の中には不届きものも多い」
『そういえば、私が声をかけられて困ってると、いつも店長が助けてくれますよね』
「女子供の命が最優先だ。そう教わった」
『そうなんですね。店長らしいです。店長…』
「なんだ」
『ごめんなさい』
「何がだ」
『だってせっかくのお友達との再会を邪魔してしまって…』
「彼とは数日前に会った」
『え!そうだったんですか?』
「今日は周辺の安全確認だ」
『そうですね〜、物騒ですものね』
「…貴様。なぜ聞かない」
『え?』
「私の過去を知りたいのだろう。なぜ聞かない」
『…店長が話してくれるまで、待つことにしました』
「一生話さないかもしれないぞ」
『そのときはその時です。無理に聞いても、誰も幸せにはなれません。』

少し間があく
店長が何か考えているみたいだった

「…私に幸せはない…はずだった」
『店長?』
「昔のことを思い出すと、今の生活が夢ではないかと。思う。こうしてお前と歩いているのも夢ではないかと。目をあければ、銃声が鳴り、人が死に、火の粉が降り注ぐ世界へ引きずられていく気がする」

そう話してるワカさんは、いつものワカさんじゃなくて
なんだか寂しそうな、悲しそうな目をしていた

『大丈夫です。店長はここにいます。私の前にいますよ。そして冥土の羊にはみんなが待ってます。どこかへなんて、行かせません!』
「……」
『みんな店長がいなくなったりしたら、困ります…。寂しいですし』
「それは、貴様個人の意見も含まれているのか」
『もちろんです!』
「…ッフ…どうだかな」

店長の口元が笑った気がした
初めて店長の笑顔を見た
なんて美しい人なんだろう…

「おい」
『はい!…あ、手…ごめんなさい』

思わずさっき手を握ってしまった
感情的になっちゃったからな

「いや、このままでいい」
『そうですか?じゃあ、帰りましょうか。冥土の羊へ!』



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