俺には好きな人がいる。
その人は俺より1つ年上で、明るくて、友達もたくさんいて、どんな場面でも前向きで。
俺にはないものばかり持っている。
彼女に出会ったのは去年の秋だった。
ナンパに明け暮れていた俺は、なんとなく向かった駅で見つけたんだ。彼女の存在を。それから何回か駅で偶然会うようになって、俺は何か運命的な何かを期待していた
そして春。
彼女の面影を探しながら入学した学校で俺は出会った。やっぱり運命じゃね!と口に出すほど浮かれていた
ただ予想外だったのは、彼女が年上ということと…
「ニーナ、お前いい加減力をセーブする技術を身につけろ」
「うぃーす」
この人、不二山嵐先輩の存在だ。俺は最初この人が苦手だった。毎日毎日追いかけてくるし。何より、彼女と同じクラスだということが気にくわなかった
「嵐くーん、大迫先生が呼んでるよ」
「おう、今行く!」
気にくわねぇ。
「行ってらっしゃい」
気にくわねぇ。俺だってあと少し早く産まれてたら下の名前で呼ばれてたハズなのに。修学旅行も一緒に行ってたハズなのに。
「ニーナくんどうかした?嵐くんに怒られたとか」
「違うよ。あんたは気楽でいいなと思ってさ」
「何よそれ〜」
ちょっとほほを膨らます。ったく、どこかのハムスターみたいだ。やめてほしいね、こういう仕草
「あんたはさぁ」
「ん?」
「れ、恋愛とかしねぇの」
「うーん。したくないわけじゃないけど」
「へぇ、好きな人とかいちゃったりして」
「いるよ」
「ははは!ですよねー」
だよなー。やっぱりそうだよな。って…………え?
「ちょ、ちょっと待って。いるの?」
「いるよ?」
「そんな馬鹿な!」
「馬鹿とか言わないでよ…」
ヤバいぞ。俺が年の差とか気にしてる間に思わぬ強敵が現れていた!!ちくしょう!誰だ!うらやま…じゃない、どこの馬の骨だ!
「おーい、ニーナくんやい」
「あぁ。ごめん、告白とかしないの」
「私は見てるだけで幸せだから」
健気だぁぁぁああ!よりによって爆弾投下してきやがったよこの人!
「その人が笑ってるだけで幸せっていうか」
へへへ、と照れながら言う彼女。
ぐはぁっ!マジパネェ!マジパネェよ!俺のライフが0になりそうだ!いや、既にマイナスか…
「その人ってさ……誰?」
息を飲んで聞いてみる。嵐さんだったら勝てる自信ねぇなぁ。やっぱり幼なじみとかかなぁ。
「ふふ、秘密だよ」
「そんなぁ」
がっかりしてるフリをする。安堵した自分がいるのがわかる
「ニーナくんは?」
「俺?俺のことはいいんだよ」
「そんなぁ!ズルい!」
これじゃあ告白したって爆死が確実だ。自爆だ。俺もう立ち直れねぇよ…。いや、まだ大丈夫だ。付き合ってはないんだし。うん
「ニーナくん!」
「うわぁあっ」
「もう、さっきから何やってるの」
「ごめんごめん。お互い頑張ろう」
うん。頑張ろう俺
「ふふ、今日のニーナくん可愛いね」
なんだよこの生き物。一家に一匹いやいや、俺の家にだけ一匹欲しい。マジありえねぇよ。ふわふわした空気発しないでくれよ
「ニーナ!美空!そろそろ部室閉めるぞー」
「はーい」
「へーい」
こうして俺の1日は終わる。あぁ、今日も何もできなかった。そう家で後悔するけど、あの人のこと思い出す度に恥ずかしくなって、ベットにあるクッションを抱き締める。女々しいな俺
トゥルルルル…
「はい、もしもーし」
「こんばんは!私だよ」
「うぇぇ!先輩!?」
「今週の日曜暇かなぁ」
「暇暇!超暇!」
「嵐くんの誕生日プレゼント一緒に選んでほしくて」
「ぐっ…」
そして俺は今日も彼女に振り回される
「一緒に映画もみよう」
「マジで!」
こんな日々も悪くはないと、切った電話を眺めて足をバタバタさせる。そしてスケジュール帳に円をつけるのだ
「女々しいぜ俺…」
いつから俺はこうなった
そして今日も俺は明日も彼女に会えるんだと意気込んで、眠りにつく
「明日も頑張れ俺!」
クッションを抱き寄せて目を閉じる。さぁ、明日は何を話そうか
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