誤解とサイン

「桜庭くんのサイン貰ってきて!!」

そうクラスの子に頼まれたのは、わずか30分前
アメフト部にいる桜庭春人くんは、超人気の芸能人だ
だからアメフト部のマネージャーである私に、女の子がしばしば頼みにくる
ファンレターを渡してとか、プレゼントを渡してとか…
私も嫌ではないし、むしろ応援してるというか、とにかくいつもは行動する
けど…

「でも、今はちょっと…」

今アメフト部は秋大会に向けて追い込みをかけてる時期だ
そんな時に私からこういったことを頼むのは、気が引けてしまう

「一生のお願いだから!!!」
「うぅ…」

そして今に至る
私の片手には白い色紙が握られている
(だってあんなにキラキラしてる目で見られたら、断れないよ…
駄目だなぁ、私…)
はぁ、とため息をつく
今はとりあえず部活に行くしかない
部室に桜庭くんいないといいけど…

「あ、美空ー!」
「…ん?
 さ、ささ、桜庭くん!?」

噂をすればなんとやらってやつ!?
笑顔でこっちに向かってくるのは、なんと桜庭くんだ
相変わらず爽やかだなぁ…ってそんな場合じゃない!!
今はできれば会いたくなかった
だってもし桜庭くんに頼んだら、

『不謹慎にも程があるよ』
『それでもマネージャーなのかい?』

なんて言われたら、どうしよう
考えただけで泣けてくる

ズサッ…

無意識に一歩ずつ後ずさる
今は気持ちの整理ができてないし、逃げよう!
私は桜庭くんとは逆方向に向いて走り去った

「…ちょっ!!…美空!?」

***

逃げてしまった
桜庭くんから逃げてしまった
しかもあからさまに
傷つけちゃったかな
これじゃあ逆効果なんじゃあ…
とぼとぼと廊下を歩く
進さんに頼むしかないかな
でもやっぱり同じように言われちゃうかも…
これって、テストの問題を解くより難しいかもしれない…!!
このまま帰りたいけど、皆が必死に練習してるのに私だけ帰ることなんてできない
考えた末、やっぱり同じ決断になった

よし、部活いこう。

***


部活では既に皆揃っていて、自主トレーニングをしているようだ
まずは桜庭くんの位置を把握する
高見さんとストレッチをしている姿が見えた
なるべく離れた場所に移動しよう
その瞬間、
チラッと桜庭くんがこっちを見る
バレちゃたかな、避けてるの…
その後もなんだか部活に身が入らなくて、ダラダラと過ごしてしまった

「何かあったのか?」

部活が終わり、帰る支度をしていると進さんに話しかけられた
私のことを気にかけてくれたらしい

「いえ、大したことじゃないんです。すいませんでした」
「ならいいが、何かあったら言え」
「はい、ありがとうございます」

その後も何人かの人に体調とかを聞かれた
私そんなにおかしかったんだ…
周りに気を使わせちゃ、王城ホワイトナイツのマネージャー失格だよね
やっぱり桜庭くんに言うしかない!
桜庭くんの帰りを待つため、私は校門に立っていた
なんだか変に緊張するな
今更ながらなんでサインに振り回されてるんだろう…

「…美空?」

数分後、桜庭くんがやってきた
私は意を決して話しかける

「ちょっとお話が…」

あるんですけど、と言う前に体が傾く
視界が暗くなる
体が何かに包まれる
これは、腕?
私、桜庭くんに抱きしめられてる!?

「さ、ささ…桜庭くん」

体中の血が沸騰しそう
心臓がバクバクいって、めがぐるぐる回る
どうしたの?一体何が!
こんな場面誰かに見られたらあらぬ誤解を…!!
腕から逃れようとしたとき、桜庭くんが呟いた

「どうして、」
「…えっ?」
「俺さ、何か悪いことしたかな」
「ち、違っ」
「そりゃ進みたいにアメフトは強くないけどさ、俺だって」

ぎゅっと桜庭くんの手に力が入る
ちょっと震えてるみたい

「……」

しばらくの沈黙が私たちを包む

「凡人だけど、バカだけど」
「そ、そんなことない!」
「こうみえて臆病だし、ヘタレだし」
「違いますっ!」

思いっきり声をあげる
少し体を離して、真っすぐ桜庭くんの目を見た
迷ってるみたい…
桜庭くんはやっぱり誤解してる
私のせいだ

「桜庭くんは人一倍努力してます!私はずっと見てきました。いつか桜庭くんは進さんのように敵に恐れられる存在になるって、私は信じてますから!」
「……小春…」
「だから、だからその…手を…」
「手? わっ!ごごごめん!!」

顔を真っ赤にして私を突き放す
ようやく桜庭くんから離れる
あのままじゃまともに話できない所だった

「桜庭くん、実は…」

……説明中……

「…と、いうわけです。誤解させてしまってすいません」
「な、なんだ。そういうことか…」

何から何まで全て打ち明けた
ほっと胸をなで下ろす桜庭くん
私がもっとハッキリ言ってれば良かったんだ

「気にしないでいいよ。それより俺はてっきり嫌われたのかと…」
「そんなわけありませんよ。今の桜庭くん、私好きです」
「すっ…!!?」

ぼんっ、と一気に赤くなる桜庭くん
風船のようみたい

「王城ホワイトナイツのみんな、私大好きなんですから」
「あ、あはは。 …そーいうことね」

一気に普段の肌色に戻る
やかんみたい…
でも冷静な桜庭くんが珍しい
今日は意外な一面を見れたかも
ちょっと嬉しかったりするな

「とにかく良かった。…じゃあ遅くなるといけないし、帰ろうか、美空」
「はい」

こうして、波乱の1日は幕を閉じた
とにかく、桜庭くんと仲良くなれたみたいで一件落着だ


fin.

(あ、桜庭くん。誰にでも抱きつくクセ、直したほうがいいですよ?)
(…君さ、まさか俺が進とかにも抱きつくと思ってる?)
(違うんですか?)
(……手ごわいなぁ…)

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