油断せずに行こう


「これも頼む」
「はーい」

ここは青春学園生徒会室
私生徒会の書記、美空小春
そして隣にいるのは生徒会長の手塚国光くん
彼は同い年なのにテニス部を全国制覇へと導いた超有名人だ
来年にはロンドンへのテニス留学も決まっている超超エリート
最初会ったとき私は緊張してたけど、次第に話すうちに趣味の話をしたりすることもある


「はい、終わったよ」
「すまないな美空」

そんな彼と私は同じ生徒会同士、こうやって放課後に作業することも少なくない
しかし…いったいどこの世界に、友人に対してすまないなと言う中学生がいるだろう
実際彼がいるのだけど

「手塚くん今日はテニス部に顔を出しに行かないの?」
「今日は大石に任せてある。大丈夫だ」
「そっか」

引退したとはいえ、やはり部活の現状が気になるようで、彼はよくテニス部に顔をだしているようだった。

「日が短くなってきたな。送っていこう」
「えぇ?いいよいいよ。私全然夜道とか怖くないから」

我ながら女らしさの欠片もない言葉だ
夜道できゃー!とか言って彼氏に抱きつく女がいるが、私はきゃー!と言いながら彼氏を殴ったりしそうな女だと自覚している
悩んでいる私を無視して、彼は昇降口へ歩き出す

「行くぞ」
「ちょっと手塚くん!」

彼は有無を言わずにカバンを持っていってしまった
地味に頑固なところがあるよなぁ…
でもせっかくだから送っていってもらおうか
きっとこんなことは一生に数回だろうから…
我ながら悲しい現実だ

「美空はバレー部だったな」
「うん。県大会止まりだけど」
「エースだときいた。すごいな」

帰り道
私と手塚くんは部活の話で盛り上がった
私からすれば全国制覇で部長の手塚くんの方が何倍もすごいですが…
きっとすごいなんて言葉は彼は聞き飽きているのだろう

「ありがとう。そうだ、今更だけど全国制覇おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
「ロンドンへはいつ行くの?」
「来年の4月ごろだ」

今は夏休み前だから、まだ結構な時間がある
けれど一緒に生徒会の仕事ができるのも4月まで
そう考えると少し寂しいな…
けど本人からしたら滅多にないチャンスだろうから、なるべく応援はしていきたい

「…美空」
「んー?」
「実は、改めて言いたいことがある」
「はい、なんでしょう」

実は中学生じゃなくて成人してましたとかのカミングアウトかな
もしそうだったら全然驚かないけど

「……俺は、前からお前が「あっ!手塚部長じゃないっすか!!」

私たちに話かけてきたのは、確かテニス部の二年生の桃城くんだ

「生徒会の帰りっすか?お疲れ様です部長」
「あぁ。桃、俺はもう部長じゃない」
「へへ、そうでしたね。あっ!もしかして俺話の邪魔しちゃいました?」

にやにやしながら手塚くんをみている

「それじゃあ失礼しますー」
「……」
「…?」

桃城くんは颯爽と去って行った
部活帰りだったのかな?

「美空」
「あ、はい」
「俺はずっと前から「やぁ手塚」…不二か」
「不二くんだ。今帰り?」

次に出会ったのは隣のクラスの不二周助くん
かなりの美形で、女子からの人気も高い

「そうだよ。君たちもかい」
「あぁ」
「それなら一緒に「不二」…何かな手塚」
「弟が不二に会いに来ていたぞ。もう会ったのか」
「裕太が?それは知らなかったな。探してくるよ」

じゃあねと軽く手を挙げて、彼も颯爽と去って行った
去り方もイケメンだなぁ…

「不二くん、弟さんに会えるかな」
「今日は難しいだろう」
「えぇ?」

でも弟さんが探してたって…
まさか嘘?まさかね

「ふぅ、話の続きだが…」
「あ、うん」
「実は前か「手塚だにゃ!」
「お前のこと「本当だ、ちーっす」
「……何なんだお前たちは」

今度は一年生の子と、同い年の菊丸くん
なんとなく手塚くんの機嫌が悪いような…

「へへーん、今日はおチビとお好み焼きなんだ♪」
「手塚部長は……行きませんよね」
「遠慮しておく」
「えーなんでなんで」
「菊丸先輩、行きましょう(ちらっ」
「へーい…」

なんだか一年生の子にちらちら見られる気がする…
面識ないから誰だか気になるのかな

「……(ちらっ」
「早く行け越前」
「…うぃーっす」

こうして2人は去っていった
テニス部遭遇率がすごいことに…
噂だと手塚くんは何かを引きつける技があるとか
もしかしてそれが…

「……」
「どうかした?」

手塚くんが当たりをキョロキョロしている
何かを確かめたようで、彼は私に向き直る

「去年の夏だ」
「うん?」
「去年の夏、俺はバレー部の練習を見たことがある。お前が体育館で練習している様子が見えた」

練習風景みられてたんだ…
はずかしいな、というか今初めてきいた

「真剣にボールに向き合っている姿を見て俺はテニスに通じる部分を感じたんだ。それからだ」
「…?」
「俺が美空から目が離せなくなったのは」

「えっ?」

め、目が離せないですか…
あれかな?きっと危なっかしいとか…
いやいや、これはもしかしなくてもこ、告白フラグ!?
いやいやいや、天下の手塚国光がそんなこと…


「…好きだ、小春」


えええええええ!?
ええええええええええええええ!

「特に付き合おうとは言わない。ただ伝えたかった。ロンドンに行く前に」

一年も前から片思いされてたってこと!?
あの手塚くんに?私が!?
きっと私の顔は真っ赤だろう
耳まで熱くなっているのを感じた
けどとっさにでた言葉は…

「ず、ずるいよ!」
「…?」
「言うだけ言ってロンドンに行くなんて…ずるい。残った私は?もし私が手塚くんを好きになって会いたくなったらどうすればいいの」
「美空…」
「…ご、ごめんなさい」

何を偉そうなことを言っているんだ私
彼女でも何でもないのに…!
頭の中が真っ白になる

「忘れて…!」

「っ!」
「きゃっ!」

背を向けて逃げようとしたそのとき、背中から暖かく抱きしめられた
大きな手に、包まれて背中に伝わる彼の鼓動
平気そうな顔をしていても、すごくドキドキしてる…彼も私も

「大丈夫だ」
「……」
「さっきの話は撤回する。俺が帰ってくるまで待ってて欲しい」
「…どのくらい?」
「わからない。けど約束しよう。必ず帰ってくる、お前の所に」
「…わ、わかりました」
「どうして敬語なんだ」
「急に恥ずかしくなって…」

私たちは暗い道端で抱き合っているカップルのように見えるだろう

「っす、すまん」
「う、うん」

手塚くんも気づいたのか、私から離れてくれた
ちょっと背中が寒くなったことが寂しい

「帰るか」
「そうだね」

私たちは互いにちらっと相手を見て、ちょっと笑った
帰るときにさり気なく手を繋いだ
手塚くんの手はやっぱり大きくて、ゴツゴツしてる男性の手だった

これからの私たちはどのようになるのか
それは誰にもわからないけれど、私は何か変化を感じた
心に芽生えた恋する気持ち
大切に大切に、育てていけるといいな

もちろん、彼と一緒に


「ねぇ手塚くん」
「なんだ」


「油断せずに行こう」






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