僕を呼んで。

「おーい!雪男〜」
「兄さん…今忙しいんだけど」
「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらい!」

最近私のクラスによく彼がやってくる
名前は奥村燐くん
普通科の生徒で、クラスメイトの奥村雪男くんのお兄さんらしい
いつも真面目そうにしている奥村くんも、彼が来た時はなんだか気が緩んでるみたい

「あ、今日はご飯食べるから」
「おう!お前の大好きな肉じゃがだぞ!」
「…兄さん。恥ずかしいからやめてくれ」

廊下で話しているのに、教室の中にまで声が聞こえる
といっても私しかいないのだけど…
放課後はみんな部活や委員会に行っちゃうみたいだ
私もそろそろ何か部活にでも入ったほうがいいだろうか
そんなことを考えてると、教室に奥村くんが入ってきた

「すみません、騒がしくて…」
「ううん。素敵なお兄さんだと思うよ?羨ましいな」
「まぁ兄さんの料理だけは尊敬してます」
「ふふっ、料理だけ?」
「はい」
「あ、奥村くん忙しいんじゃ…」
「えっと…」

私が聞いたとたん言いづらそうに口ごもってしまった
聞いちゃいけないことだったかな…
奥村くんプライベート秘密にしてるんだよね

「ご、ごめん!言いづらかったらいいんだ」
「えっ、あの!!」
「それじゃあまた明日!!」

私は教室を飛び出した
今日はいつもより多めに話ができそうだったのに、逃げてしまった
逃げることは私の悪い癖だ
明日ちゃんと彼に謝らなきゃ…

ドンッ!!

「うっわ!」
「きゃ!」

廊下を走っていたら盛大に人にぶつかった
そして盛大に吹っ飛んだ
腰を思いっきり打って少し痛い

「いてて…」
「おい!大丈夫か!」

ぶつかったらしい男の子が手を伸ばしてきた
私は手を借りて立ち上がらせてもらった

「ごめんなさい!あなたこそ大丈夫?」
「おう。俺は体は丈夫だからな!」
「ふふ、よかった!…あれ?」

どこかで見た顔
どこかで聞いた声だと思った
そう、さっきまで…

「奥村…燐くん?」
「あぁ。俺は燐だけど…なんだ?俺を知ってるのか」
「私特1Aクラスなんだ」
「雪男のクラスメイト!」
「正解です」
「そっかあ〜雪男の友達かぁ〜」

なんだかとっても嬉しそうだ
例えるなら息子の友達に会った父親みたいな…?

「奥村くんは…」
「んぁ?燐でいい!水くせえなぁ〜へへっ」
「り、りんくん?」
「おう!俺らはもうトモダチだからな!」
「そうなの?」
「雪男のトモダチはいい奴に決まってるんだ。だから俺のトモダチ」

ちょっと言ってることがよくわからないけど、私は燐くんの友達になったらしい
友達が増えるのは嬉しいから、私は素直に喜んだ
普通科の子としては初めての友達かもしれない

「そうだ!雪男のやつまだ教室にいたか?」
「えっと…」

どうだろう
さっき逃げてきちゃったから、怒ってどこかに行っちゃったかも
すると燐くんが私の後ろを見て手を振った

「おーーい!」

誰か来るのかな?
と、振り返ってみると奥村くんの姿が…!!
こっちに向かって歩いてくる
気のせいか何だか怒ってるような…

「兄さん、また後で。さぁ、委員会に行こう」
「ええ?」
「お、おい!雪男!」

奥村くんは私の手を握って歩き出した
委員会って…私入ってなかったと思うんだけど…
どんどん進んで、私たちは屋上にたどり着いた

「奥村くん…」
「あっ…すみません。急に」
「ううん。さっきは逃げてごめんね」
「いえ、僕がいけないんです。それに言いたくないわけじゃなかったから」
「そうなの?」
「ただその…君と話がしたくて、兄さんを早く帰したかったんだ」

一瞬考えてみる
私に何か話があったってことかな…

「何かに勧誘するつもりだったとか!」
「なんでそうなるんだ…」
「私何も部活とか委員会とか入ってないから…」
「違います。それとさっきのことだけど…」
「燐くん?面白い人だよね。友達になっちゃった」

ピクッ

っと奥村くんも眉が動く

「…どうして」



「どうして兄さんのことは【燐】って呼ぶんですか」


ドキッ…

彼の真剣な表情に、心臓がはねる
顔がだんだん赤くなっていくのを感じる

「僕のことは【奥村】なのに」

気のせいか彼の顔もちょっと赤い

「…よ、呼べって言われたから……」
「それだけですか?」
「そ、それだけです」


「じゃあ…僕のこと【雪男】って呼んでください」


「…!!」


「呼んでください。僕の名前を」



じっと私のことを見つめている
私のことを待ってるんだ、私が呼ぶのを
しばらくの沈黙のあと、私は口を開いた


「ゆ…ゆきおくん」


その時見た雪男くんの笑顔は忘れられないほど素敵だった
夕日に照らされた私たちの影が、静かに伸びていく
心臓の鼓動が加速しているのを感じながら、私たちは言葉を交わしあった


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