孤独の向こう

「美空さん。これ先生から」
「ありがとう」

クラスメートの小早川くん
静かで優しい、どこにでもいる高校生
他と違う所があるといえば、アメフト部に入ってること
練習風景は見たことがないけど、それなりに強いらしい


そんな彼が、ある日突然スターになった

「ひゅー♪やるなぁセナぁ!」
「サインくれよサイン!」
「私もっ!」

アメフト部での謎の選手
アイシールド21が彼と判明したのだ
もうみんなは大騒ぎ
先生まで握手を求める始末…
アメフトを詳しく知らない私でも、彼の噂はきいていた

「小早川ってスゴい奴なんだね」
「そうだね」

彼に比べたら、私なんて至って普通の女子高生
学力も、体力も普通
まさにザ・凡人
小早川くんは私と同じだと思ってた
ちょっとドジだけど芯が強い
そんな一般人が彼のイメージだったのに

「す、助っ人かぁ…明日なら…」
「おっ!マジで?サンキュー!」

目の前の距離は遠い
彼は違う世界の住人だった
ただ、それだけのことなのに…
なんだか寂しいのは何故だろう

「……。」

1人だけ取り残された
そんな気持ちになるのは、何故だろう

「小春?気分でも悪いの?」
「あ、うん。ちょっと保健室行ってくる」

なんだかその場所にいたくなくて、保健室へ逃げてしまった
小早川くんとはなんでもないのに
むしろクラスメートとして応援してあげたいのに
ちょっと苦しい

「はぁ…」

寝れば治るよね
次に目を開いた時は、綺麗な世界が待ってますように

私は静かに目を閉じた


***


「うぅん…」

あれからどのくらいたっただろうか
窓の外には夕日が見える
爆睡してしまったみたい
保健室の先生を探すと、置き手紙があった
【出張に行ってくるので、鍵を閉めて帰って下さい(^^)/】
なんという放置主義
まぁ休ませてもらったから仕方ないか…
私は鍵を閉めて昇降口に向かった

「あ、今帰り?」
「…うん」
「俺も今終わったんだ」

今一番会いたくない人に会ってしまった
小早川くんは制服で下駄箱にいた
ちょうど部活終わったんだろうか
まったく運がない
神様も今日くらい私に味方してくれたっていいじゃない

「よ、良かったら一緒に帰らない?」
「えっ……」

まさかのお誘い
前の小早川くんじゃないみたい
前ならカミカミのグダグダなのに

「うん。いいよ」

でもやっぱり断れない
たとえ苦しくても、今の時間は失いたくない
そんな気がしたからだ

「今日体調悪かったみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫。寝たら治っちゃった」
「はは!そっか。よく寝てたもんね!」
「……え?」
「ああ!?いや、違うんだ!えっと…!」

よく寝てた?
どうして小早川くんが私の寝る様子知ってるの?
もしかして…見に来てくれたのかな

「小早川くんお見舞い来てくれた?」
「いや、あの…うん。ごめん勝手に寝顔見て」
「こっちこそ!ありがとう。嬉しい」
「そ、そっか!」

でも恥ずかしいな
よだれとか半目とか大丈夫だったかな…
あえて墓穴を掘らないように触れないでおこう

「そういえば、今日も部活お疲れ様」

きっと小早川くんのことだから
あんなに強くなるにはいっぱい練習したんだろうな
努力家なのは彼の好きなところでもある

「あぁ、今日は部活なかったんだ!ヒル魔さんが留守で」
「お休み?…あれ?」

…待てよ?
じゃあなんで小早川くんはここにいるの?
部活ない生徒なら、とっくに家に帰ってる時間だ

「委員会でもあったの?」
「いいや。なんで……あ!!!」

めちゃくちゃ慌ててる
さっきから慌ただしい
今日はなんだか落ち着かないみたいだ

「待っててくれたんだ」
「いやー、そ、そう。…はぁ…」
「どうしたの?ため息なんてついて」
「カッコ悪いとこ見せまくりだなって。やっぱダメダメだな俺…」

ずーんと落ち込んでしまった
普通なら慰めるべきなんだろうけど、
私はなんだか嬉しくなってしまった
自然と笑みが溢れる

「ははは!やっぱり小早川くんだ」
「え?俺?」
「うん。いつもの小早川くん」

たとえ周りの状況が変わっても
やっぱり彼は彼だ
いつものおっちょこちょいで、ドジっ子な
私の好きな小早川くんだった

「ありがと、元気でた!」
「それはよかったけど…」
「ねえ、今度試合観に行ってもいい?」
「…ッ うん!是非来て欲しい!」

馬鹿だな私って
何を悩んでたんだろう
こんなにも近いじゃない、私たちの距離

「じゃあ、私ここで!ありがとね」
「あ、うん!こちらこそ!」
「じゃ……

背を向けて歩き出す

「小春っ!」
「!」

「試合!絶対勝つから!」


私たちの距離
もしかしたら、気がつかないうちに短くなってるかもしれない
ちょっとずつ、ちょっとずつ


fin.

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