電波の先へ

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title 無題
おはよう
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title 無題
おはようございます
今日も頑張りましょう!
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title 無題
無論だ
またメールする
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ピロリロリン♪

毎朝響く受信音
何気ない毎日の朝は彼からのメールで始まる
たった数行の文だけど、それが彼らしくて、逆に好き

神龍寺に転校して、1ヶ月
王城にいた私は、まだみんなの面影を探してる
優しい桜庭くんに、おもしろい大田原さん…
キャプテンの高見さんに、それから…
真面目な進さん
アメフト部のマネージャーだった私は、みんなが懐かしくて仕方ない
隣の県だから距離も遠いし、遊びに行けない
そんな私に進さんからメールが来たのは、つい一週間前
始まりは桜庭くんからのメール
 
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title 進がおかしい
君が転校してから進がおかしいんだ。
いつにもまして集中力がない…
何があったのか君から聞いてほしい
進のアドレス教えるから、よろしく頼むよ
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突然のメールに驚いたけど、
早速進さんにメールした

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title 大丈夫ですか?
こんにちは、美空です
最近進さんが何か変わったと桜庭くんからききました。
大丈夫ですか?
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ピロリロリン♪

二時間後、返事がきた

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title 無題
すまない.めえるをみたらなおつた
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随分とメールを打つのに苦労したみたい
そういえば機械は苦手だったっけ
よくわからないけど、進さんは大丈夫みたい
とりあえず桜庭くんにメールしよう
それから、私は進さんとメールを時々するようになった

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title 無題
進は治ったみたいだ。ありがとう
俺の狙いは当たったみたいだな(笑)
時々メールしてやってほしい
この前、進がメールの打ち方を教えてほしいって言ってきたんだ
珍しいよね
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「やぁ、おはよう」
「おはようございます。えっと…金剛さん」
「覚えててくれたんだ、光栄だな。でも出来れば、阿含って呼んでほしい」
「あ、阿含さん」
「うん、ありがとう」

転校して初日に話しかけてくれたのが、金剛阿含さんだ
にこやかに笑って、ようこそ神龍寺へって言ってくれた
今でも、よく話しかけてくれる

「この前の話、考えてくれた?」
「でも、あの…私は王城の…」
「そっか、まだなんだ。いいよ、気長に待つから」

実は数日前、阿含さんにアメフト部のマネージャーに誘われた
私は王城のマネージャーでいたいから、入るつもりはないけれど、なかなか断れない

「小春ちゃんは神龍寺の生徒なんだ。もう王城に居場所はないよ。そこ、忘れないでね」

グサッと、心に何かが刺さる
痛くて、重い事実。
確かに王城には私の居場所はない

「自分で王城のマネージャーだからと、言うだけは自由
所詮はハリボテのマネージャーだ
それより現実を見て、今を生きた方がいい」
「考えて、おきます」

阿含さんからの言葉に、私は頭を悩ませた
私は一体、何をすべきなのか
神龍寺ナーガは私を必要としてくれてる
でも…
あと一歩で進さんの顔がよぎる
私は教室へ足を進めた

「あ、阿含さん。少し厳しいんじゃないッスか」
「だからモテねぇんだよ、お前は。ああいう真面目ちゃんは、少し厳しい現実を見せるのが一番なんだよ」

考え事をする日が増えた
その様子はメールに表れているらしく、時々進さんに心配された

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title 無題
大丈夫か?
最近悩んでるようだが
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title 大丈夫です。心配しないでください
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ピロリロリン♪

送信した後にミスに気づいた
タイトルに本文を打ってしまった
これじゃあ焦ったのバレバレだよ…
今は放課後
帰り道に進さんとメールしていた
進さんももうすぐ部活が始まるみたいなのに、長めにメールに付き合ってくれてる

プルルルルッ

「わぁっ?!…って進さん!?」

着信音と同時に画面に表示されたのは、進清十郎の文字
今まで恥ずかしくて電話できなかったから、初めての進さんからの電話だ
ドキドキ、ドキドキと鼓動が早まる

「…もしもし?」

恐る恐る電話に出る
そこには凛とした彼の声が響いた

「何かあったのか?」
「大丈夫です。何もありませんよ」
「嘘をつくな。何を悩んでる」
「…なにも、ないんです」
「まさか、阿含に何かされたのか」
「えっ?!」

どうして阿含さんが出てくるの?!
でも面識はあるみたいだし、おかしくはないけど…

「阿含さんは何もしてません。ただ私が…」
「…俺が、何だって?」
「阿含さん!?」

背後に感じた気配
阿含さんは私の携帯の画面を見て、携帯を奪いとった

「よぉ、進。久しぶりだな。悪いが彼女は神龍寺ナーガが貰う。じゃーな」

プツッ

携帯が閉じられる
一瞬の出来事で何がなんだか…

「これで、晴れて君はマネージャーになれるよ。進が認めれば、君はもう悩まないよな?」
「進さん…が」

グイッと手首を捕まれて上に上げられる
目と目が合った

「ついでに、俺がいいこと教えてあげようか?」
「えっ、ちょっと…!?」

顔が近い!
身体も近い!
腕を解こうとしても、強すぎて歯が立たない

「だ、だだだ大丈夫です!間に合ってます!」
「そんな風には見えないね」

なんとか気を反らさないと…
チラリと周りを見る

「あれ?」

黒い影が動いてる
建物とかじゃなさそう

「ま、いいか。許可なんていらねーし」

ますます距離が!?
ちちちちちち近いぃ!!!

次の瞬間
ピタッと、
阿含さんの動きが止まる
私をつかむ阿含さんの腕が、さらに捕まれている

「あ″ぁん?」
「…その手を離せ。阿含」



腕の正体は、いるはずのない人――――



―――進清十郎その人だった



「進、なんでここに」
「その手を離せと言ってる。わからないのか」

いつになく進さんの目は鋭く光る

「おーこわいねえ。随分と感情を表すようになったな進」

ふわっと体が軽くなる
阿含さんの腕が私から離れる
少しよろけると、進さんが支えてくれた

「…今日はお前に免じて俺様が退いてやるよ。じゃーな」

阿含さんは何事もなかったかのように去っていった
何だったのかな、一体…

「ケガはないか?」
「はい。大丈夫……って進さん!!どうして此処にいるんです?!練習は?まさかこれは夢…!?私ったらついに夢にまで進さんが!」

「落ち着け」


***


一段落すると、進さんが説明してくれた
まず、電話の切られ方や、阿含さんの態度で私の安否が心配になった
次に桜庭さんに私の居場所を訪ねた
最後にここまで走ってきた

「って走って来たんですか!」
「あぁ」

車で1時間はかかる距離
30分もたたずに来るなんて有り得ない
でも現に彼はここにいる
そんなに走ったのに平気そうにしてるし…

「桜庭も一緒だったんだが。どこかに置いてきたらしいな」

さ、桜庭くん…
行き倒れてないといいけど

「帰るぞ」
「え?わわわっ!」

いきなり抱えられる
お、お姫様だっこ?

「お前は王城ホワイトナイツのマネージャーだ。誰にも渡さん」
「でも、私はもう…」

王城の生徒ではない
そう言おうとしたら、体に風が吹き付けた
進さんが私を抱えたまま走り出したんだ
あまりの速さに思わず首につかまった

「お前がいないと、俺が俺でなくなる。理由はわからないが、高見先輩がお前を連れ戻せばいいと言っていた」
「高見先輩…」
「お前の居場所は、王城ホワイトナイツだ。帰って来い小春」

真っ直ぐな瞳に見つめられる
考えるより先に口が動く

「…はいっ」


数日後、ヒル魔さんのおかげで私は再び王城に戻れた
彼が何をしたのかは知らない
大きな借りを作ってしまったのだということは聞いた
ただ進さんは、お前の存在に比べたらどうということはない、と言ってくれた

ピロリロリン♪

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title 無題
交差点で待っている
一緒に登校しよう
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今日もまた、私の朝はメールで始まる
メールを読んで、はにかみながら私は彼の元へ急ぐ


この電波の先のアナタへ、会いに行く



fin.

(何か忘れてませんか?)
(…何をだ?)
(おーい君達!桜庭を知らないか!?数日見てないんだが)
((……あ))





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