Rainy,beat

「転校、することになった」

そう彼から告げられた夜、私は涙が止まらなかった
苦しくて、寂しくて…
負の感情が私を包んでいった

赤羽くんと出会ったのは、高校一年の春
席が隣だったし、私と中学が一緒のコータローくんと赤羽くんが仲良しだったことから、私たちは話す機会が多かった

「君とは音楽性が似ているようだ」

と言われた時があった
何を言いたいのかよくわからなかったけど、コータローくん曰わくほめ言葉らしい
要するに相性が良いとか、話しやすい的な意味みたい
私も赤羽くんとは話しやすいし、仲良くなりたいと思ってたから嬉しかった
無事に一年生を終え、二年生になるころ
赤羽くんが「放課後待っててくれくれないか」と言っていたから、私は昇降口で待っていた
いつも以上に真剣な顔で頼まれ、少し焦ってしまった
何か重要なことなのかな…

チャリ…

携帯についているギターのストラップを眺めた
これは文化祭の時赤羽くんからもらったものだ
《美空とは同じビートを奏でていきたい。これからもずっと…》
と言われたことを思い出す
優しい笑顔を浮かべていたから、ほめ言葉だよねと聞き返した記憶がある
最近だとやっと理解できるようになってきた彼の言葉が、今とても聞きたくなった
二年生でも同じクラスになれるといいなとか、修学旅行一緒に行けるかなとか
色々考えていると雲行きが怪しくなってきたことに気づく
傘を持っていないから、あまり降らないといいけど…

「早く来ないかな、赤羽くん」

そう呟やきながら、私は彼を待っていた

「すまない、遅くなってしまった」

部活を終えた赤羽くんが昇降口にやってきた
やっぱり真剣な顔で

「ううん。大丈夫」

それよりどうしたの?と訊こうとしたら、彼が先に口を開く

「転校、することになった」
「えっ…」

わずかな静寂
一瞬何を言われたのか理解できなかった
…冗談だよね
嘘だよね…?
…、うそ。ウソだよって言ってよ、赤羽くん

「だって、アメフトは?コータローくんたちは?」
「さっき伝えてきた」
「そんな…」

去年、赤羽くんとコータローくんのアメフト部は秋大会で準優勝して関東大会に進んだ
そのときはみんなで喜んで、笑って、赤羽くんだって嬉しそうだった

「だって言ってた。俺たちは最高のキックチームだって。赤羽くん言ってたじゃない!」
「……」

感情が溢れる
思ってもないことまで口からでて、気づけば涙を流していた

「私…ずっと赤羽くんみてきたからわかるよ。クールに振る舞っていても、実はコータローくんみたいな熱い人が大好きで…。仲間を裏切るようなことは絶対しない人だって!」
「…美空っ!」

その瞬間
私は雨の中を走った
もう自分が何を言いたいのかわからない
ただ…
あのまま赤羽くんを見るのはつらかった

***

「うぅ…」

次の日
私は見事に風邪を引いた
あのまますぐ布団にこもったから当たり前なんだけど
今は学校に行きたくないからちょうどいい
赤羽くんには悪いことをしてしまった
彼は人を裏切るような人間じゃないし、転校もすごく悩んだことだろう
それなのに…
私は自分の気持ちを押しつけ、彼を責めてしまった
また涙があふれてくる
こんなことじゃいけない
(明日は赤羽くんに謝ろう)
そう考えて、私はゆっくり目を閉じた


――ーその日私は夢を見た

誰かが私の涙をふいてくれる、リアルな夢
誰かが私の頬をなでてるような、そんな気がした
優しくてあったかい
いつまでも夢に溺れていれたらいいのに

―――


「そういえば昨日お客さんがきたわよ〜」
「お客さん?誰だった?」
「うーん、見たことないけど、小春の同級生みたいよ」
「誰だろう、寝てたから覚えてないなぁ…。学校行ったら聞いてみる」

「う、そ…」

朝学校に行くと、赤羽くんはいなかった

***

彼が転校して一週間
時は風のように過ぎていった
コータローくんも、アメフト部のみんなも、あれから元気がない
もちろん私もだけど
私は放課後になると、1人教室で物思いにふけっていた
私がなにより後悔しているのは、彼にお別れの言葉と謝罪の言葉を言えなかったこと
いつまでも心のどこかに引っかかってる
あの時の彼の顔
誰も座っていない隣の机
いつもならあの瞳が、私を見てくれるのに…


もう、会えない

「忘れられないよ…赤羽くん」


「呼んだかい」
「はい、呼びました…って!?」

勢いよく顔を上げて立ち上がると、彼は私をぎゅっと抱きしめた
ようやく赤羽くんだとわかる

「あ、赤羽くん!?学校は?どうしてここに…」
「君のビートが恋しくなって帰ってきた」
「えっ!?」 
「例えるなら演奏を終えたギタリストが、再びステージに上がりたくなるような気持ちさ」
「…うん?」

相変わらずのたとえだけど
この口調、この声…
私が待っていた人に間違いない

赤羽くん、赤羽くん…
会いたかった
私からも彼を抱きしめる

「お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」

顔を離して互いに見つめ合う
すると彼の指が私の右まぶたに触れる
知らないうちに泣いていたみたいだ
涙をぬぐってくれたらしい

「フー、また君は俺の前で泣くのか。これで三度目だ」
「?」

一度目はあの雨の日で、二度目が今…じゃないのかな
まさか知らないうちに泣いたことあった!?

「覚えていないならいい。それより…」

赤い瞳が私をまたじっと見つめる
流石にちょっと恥ずかしくなってきた

「文化祭の日、俺が言った言葉を覚えているか」
「えっと…、《君とは同じビートを奏でていきたい》みたいな感じだったかな」
「そう。君はあれをほめ言葉かと俺に訊いたな」
「うん」 

あの時赤羽くんは、確かそうだと言っていた
だから私はありがとうって答えた

「あれはほめ言葉じゃない」
「そ、そうだったの!? じゃあ…」


「告白の言葉だ」

「告白!?」

こ、告白ってあの、君が好きだ的なアレですか!?
てことは赤羽くんは私を??
す、すすすすき…
うえぇぇぇ!?

「あの時の言葉、もう一度言う」
(それって…もう一度告白するってことじゃ)

ちょっとまって!
心の準備が!まだっっ!!

「…君とは同じビートを奏でていきたい。これからもずっと…」
「は、はぃ…」
「返事を、聞かせてくれないか」

返事なんて…
そんなの決まってるよ
私の答えはただ一つ
私は前からずっと…

「…はい。私も赤羽くんと同じビートを奏でていきたいです!」

私たちは互いに笑いあった
お帰りなさい、赤羽くん

 
空が青く晴れた気がした


fin.

(赤羽くん、あの告白わかりずらいよ)
(フー、君にはちょっと難しかったかな)
(でも赤羽くんらしい素敵な告白だった!)
(…っ、恥ずかしくなるから、もう忘れてくれ)

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