02


(…梅干ししかない!)

冷蔵庫を開くと、中にはパックに詰まった梅干しが入っていた。いや、梅干ししか入っていなかった。今日は朝から他の二人はヒーローの仕事をしに出かけている。1人残されたコハルは、部屋の掃除を終えて昼食を用意していた

(…うーん、こんなものかなぁ)

夕飯の残りの米と梅干しでオニギリを握る。あまり料理をしたことがない彼女だが、オニギリは作ることができた。

(とりあえず午後は街に行ってみよう。歯磨き粉と醤油…買ってこなくちゃ)

彼女は金には不自由していなかった。金遣いが荒くないのも確かだが、何より両親の残した莫大な遺産があったからだ。もっとも、本人は普通の生活を望んでいるので節約はしている

(よし、行こう)

タブレットで地図を見ながらスーパーを目指す。街を一人で出歩くのは楽しくもあり、不安もあった。何より話すことが出来ないので道を聞くのに抵抗がある。これからの生活のためにも一人で出歩けるようにしなければ!


ウィーン!ウィーン!

(!)

辺りにサイレンらしき音が響く。すると周りの建物から人が次々と出てきて騒ぎになった

「逃げろー!」
「とにかくシェルターに急げー!」

それぞれの地域には怪人から逃れるため、強固なシェルターが設置されていた。戦う術のない人間はヒーローが戦う間、シェルターに避難することになっている。

(か、怪人!?早く逃げなきゃ…!)

貴重品を身につけ、アパートを飛び出す。とにかく一人じゃ危ない、と周りに人の声がする場所を探した。きっとそこにシェルターがあるはずだ

(大丈夫大丈夫…)

心を落ち着かせながら、耳を澄ます。すると街の入り口の方から声がするみたいだ。よし、と意気込んで走り出す

「…はぁ、はぁ」

走るのは正直言って得意ではなかった。長年部屋にこもっていたのだから無理はないけれど、これからはもっと体力をつけなきゃ…と考えていた瞬間──

「グハハハハ!逃げても無駄だ!」

(う、うそ!怪人がこっちに来る!)

後ろからカニと魚が混ざったような怪人が追いかけてくる。どこで見つかったのか、怪人は確実に自分を見ていた

「…はぁ、はぁ!」

走って走って、必死に逃げる。声も出ないから助けも呼べないし、このままシェルターに向かえば他の人を巻き込んでしまうかもしれない

「無駄無駄ぁ!人間が食べ残すカニの甲羅と魚の骨でできた俺様にかなうわきゃねぇ!!」

(甲羅と骨は食べられないじゃないー!!)

一か八か近くの路地に侵入する。撒けるかわからないが、広い場所だと体力のない自分には捕まる確率が高いと考えた

「くそ!どこだ」
「……っ」

息を殺して、見つからないように祈る。今見つかったら確実に殺されてしまう


(…お願い!こっちに来ないで!)


ガタンッ


(!!)


走った後で体が熱いはずなのに、冷たい汗がしたたる。体全体が強張って、氷漬けにされているみたいだ。もう恐怖で動けない…


ザッザッザッ…


足音が近づいてきた


(もう駄目だっ…!)








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