01
「わざわざ済まないな、君たち」
とあるビルの一室。S級ヒーローたちが召集され、会議が開かれていた。一部欠席している者もいるが、ほとんどが席についている
「何なの?わざわざ私たちを集めるなんて!」
「よほどの緊急事態なんじゃろうな」
「僕塾があるんだよねー」
個性が強い面々は、ヒーローの中でも飛び抜けた才能の持ち主たちであった。彼らはこの地域一帯を守っているヒーロー協会の頼みの綱といったところだろうか
「手短に話そう。これを見てくれ」
スクリーンに1人の少女の姿が映し出される。召集されているメンバーの1人ジェノスは彼女に見覚えがあった。つい最近、彼の住んでいる家に一緒に住むことになった少女だ
「彼女はコハル。18歳。訳あってヒーロー協会で身元を匿っている」
(なるほど、彼の存在をS級ヒーローに知らしめ、保護するように働きかけるのか)
「訳ってなによ。私たちに守らせるなんて、よほどの重要人物なんでしょうね」
「ムシャムシャムシャ」
「…………」
「なかなかの美人じゃねーか」
「(ドッドッドッドッ)」
ヒーローたちに彼女の簡単な情報の入った資料が配布される。表紙には【極秘】の文字が記されていた。協会の態度から察するに、コハルの存在は一部の人間とSランクヒーローしか知らされていないようだ
「訳は残念ながら話せん。ただ怪人は彼女を血眼になって探している。見つけた際は保護してやってほしい」
「保護って何なのよ!この子協会にいるんじゃないの!?」
主に会話はランク2位のタツマキとしかされていなかった。必要な会話は彼女が全てしてくれるので、他のヒーローは口を開く必要がなかったからだ
「今はZ市にいる。何かあった時のため、GPSは持たせているが、彼女が怪人の手に渡る時は我々が負けるときだ。覚悟しておいてくれ」
協会の人間は横目でジェノスを見た。どうやら彼女がサイタマの家にいることは隠しておく気らしい。ヒーローたちは各々資料を見ながら推測を話したり、彼女の容姿について話していた
「ジェノスくん、彼女を知っておったな」
会議が終わると、ランク3位のバングがジェノスに話しかけてきた。彼らは隕石落下の事件の際、共に戦った仲だ。またバングは数少ないサイタマの真の実力を知る人間であった
「よくわかったな。まぁ俺も昨日知った」
「ワシは人間観察が得意でな。それにしても彼女、コハルといったか。どこかで見た顔じゃな」
「本当か!」
「いや気のせいじゃった」
「くそジジイめ!」
彼女の失った記憶に何か関係があるのではと期待に胸を膨らませたものの、バングの勘違いだったようだ
「…協会がなぜ自分たちで彼女を監視しないか、君にはわかるかね」
「いや、わからないな。だが理由は言えないんじゃないのか」
「なに、簡単なことよ。強大な組織の一部の人間しか知らない事実、そして詳しく知らない我らに護衛を依頼する理由。二つを合わせれば答えは1つじゃ」
「…裏切りか」
バングは満足するように頷く。ヒーロー協会という強大な組織、その中に裏切り者の存在を彼らは察知した。おそらく他のヒーローたちも口にはしないが、同じような結論に至ったことだろう
「…先生に報告しておくか」
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