05


すき焼きが終わり、静かな夜がやってくる

「先生、ニュースでまた怪人の話が」
「最近増えたよなぁ。前はもう少し平和だった気がするぜ」
「(やっぱり何か原因があるんでしょうか)」
「そうだな。新しくコロニーができたか、他の地域から怪人がやってきているか」
「いずれにせよ、ヒーローの活躍の場が広まることに変わりはないな」

彼らの住んでいる地域、Z市は最近隕石によって壊滅的打撃を受けた。未だに復興が進まず、一部はゴーストタウンと化しているらしい

「明日は協会の召集がかかっていて、午前中は留守にします。先生はどうなされますか」
「んー、俺はー」

ジェノスはアイロンをかけながらサイタマに尋ねた。彼は漫画を寝転んで読みながら考えていた。はたから見たらどっちが大人かわかりにくい図である。コハルはというと、2人の会話に耳を傾けながら新聞のヒーロー記事に目を通していた

「そういえば、セミナーの話だとC級ヒーローの場合一週間ヒーロー活動をしなかったら名簿から除外されるらしいですが、先生は大丈夫なんですか」

「…………」

「……?」

(あれ、何だかサイタマさんの目が見開いていく…)

「そそそそんなこと言ってたっけ?」
「はい。C級ヒーローは自主的に活発な行動を続けないと生き残るのは難しいので、挫折して転職する人間が多いらしいです」

(そして変な汗がダラダラと流れているような…)

「サラリーマンの飛び込み営業のように、足を動かして成果を出さないと誰も評価してくれないんだとか」

「やっ……!」
(や?)
「やっべええええ!!!漫画読んでる場合じゃなかっったぁぁぁ!」
「(サイタマさん、今は夜ですからお静かに!)」
「ぁあ、ごめん。おいジェノス!あと何日残ってる!?」
「今日を入れて2日です」
(つまり明日までかぁ…いきなりだ)
「…よし」

そして元の表情に戻り、彼は落ち着きを取り戻した。何かを悟ったような、諦めたような不思議な表情だ

「明日のことは明日の俺に任せよう」
(そんな無責任な!)
「では先生、俺もご一緒します」
「いや。S級のお前がいると俺の手柄だと認めてもらえない可能性がある!」
(いまさらながら、何でサイタマさんはジェノスくんの師匠なのだろうか…)
「しかし弟子として…」

それからひらめいたサイタマによる、ジェノスの説得が始まった。話を聞くに、ジェノスはこれから修行としてランク10位以内を目指すらしい。上手く丸め込まれている気がしたが、ジェノスが納得しているのでコハルは見守ることにした

「ところで先生」
「何だ、俺は明日に備えてもう寝る」
「彼女はどこに寝るのでしょうか」
「……はっ!」
(……はっ!)

ふと気がついたようにジェノスが言う。もともと2人で雑魚寝していた部屋に、さらにもう1人しかも女性が寝ることになったのだ。彼らにとって重大な問題であった

「(私は廊下で寝ますよ)」
「い、いや。なんかお前体弱そうだから風邪とか引きそうで心配だ」
「先生、何故こんな狭い家に住んでるんです?」
「本来一人暮らしだったからだよ」

(そうだよ、本来俺1人の部屋がいつの間にか増えに増えて3人部屋だと!?いや、俺も金受け取ってるから文句は言えない立場だ。そして俺は大人だ。何より大人でなければならない……!)

「俺が廊下で寝ますよ。サイボーグなので寒さは感じません」
「いや、俺が寝る。お前はここにいろ」

こうして部屋の主であるサイタマは、廊下で寝ることになった

(くそったれぇぇえええ!!!)







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