03


「ヒーロー協会の者ですが」
「はぁ」
「彼女をしばらくの間匿って頂きたい」
「嫌だ」
「謝礼は払います」

男はアタッシュケースを取り出し、中の金をサイタマに見せる。

「よし、任せろ!」


こうしてコハルは、サイタマの家に住むことになった。


「ちょっと待って下さい!!」

「何だようるせえな」
「意味が解らないです!さっさともとの場所に返してきて下さい!」
「人が捨て犬拾ってきたみたいに言うなよ」
「第一、彼女は女性です。結婚前の男女が一緒に暮らすべきではないと思います。君も!どうして反対しないんだ」
「(…こ、怖い)」
「おい、ジェノス。俺が何も考えず、金に目が眩んで引き受けたと思うのか」
「はい」
「即答かよ」

コハルについての説明は、ほとんど協会の人間がサイタマにした。彼女の生い立ちなどは彼はあまり興味を示さなかったが、気になったのは匿うその理由である。

「…怪人たちが探している、ですか」
「最も見た目はバレてないらしいが、強い怪人はコイツを血眼になって探してるらしーぜ。つまりだ、彼女を引き取れば強い怪人と出会える可能性が高い」

コハル自身、なぜ自分が狙われているのかはわからない。おそらく過去に何かあったのだろうが、彼女は覚えていない。ジェノスは少し黙ると、また口を開いた

「ですが先生」
「それにだ、家事ができる人がいた方が俺たちはヒーローに専念できるぜ」
「!!」

その一言が利いたのか、ジェノスはわかりましたと、渋々ながらに了承した。コハルは自分のことで2人に迷惑をかけるのが心配だったが、協会の人間曰わく、彼らは強いから大丈夫らしい

「ってことで、宜しくなコハル」

サイタマはコハルに手を差し出す。彼女は
恥ずかしそうに握手をした。黙っていたジェノスも彼女の性格を理解したのか、少し笑って手を差し出した。

「宜しく」
「(宜しくお願いします)」

彼女は協会から支給されたタブレットに文字を打ち込んだ。会話ができない彼女にとって、それは唯一のコミュニケーション手段だ

「君はいつから話せないんだ?」
「(8歳くらいからです。お手数おかけして申し訳ないです)」
「ジェノスといい、コハルといい、俺のまわりにいる若者は何で堅物ばかりなんだ」
「俺は彼女のような人の方が話しやすいです。ヒーローは変人ばかりですから」
「(お二人はいつからヒーローに?)」
「俺は3年前。だけど協会に入ったのは最近だな」
「俺も最近だ。先生と一緒に入会した」
「しかし我が家も人が増えたな。食い物と日用品買いに行くか」
「そうですね。先生、晩御飯は鍋とかどうですか」
「いいなぁ、土鍋とか1人で暮らしてると贅沢に感じるな」
「嫌だな先生、今は3人ですよ」
「新婚の夫婦みたいに言うのはやめろ」

この2人は師弟関係というより、兄弟みたいな関係みたいだとコハルは思った。彼女には兄弟はいないけれど、きっとこんな風に話しあっているのだろうと考える。彼らが接しやすい人間だと判断したのか、緊張していたコハルの顔は緩み、笑みをこぼしていた

「今日は卵が狙い目だな。何か買いたい物とかあるか」
「俺は特には」
「お前じゃねぇよ」
「(シャンプーが欲しいです)」
「俺の頭を見てシャンプーがないと判断したんだろうが、残念なことにシャンプーはある。リンスまである」
「!?」
「いや、そんな何で!みたいな顔しなくても…」
「大丈夫だ、俺が来るまでは両方ともなかった」

やっぱりなかったんだと笑うコハル。今日は何だか2人のお陰で楽しく過ごせているようだ。少しずつ心を開いているのか、彼女から話しかけることも増えていった

「セール何時からでしたっけ」
「やべえ!六時からだ!急ぐぞ!」
「(わ、私も行くんですか)」
「当たり前だ!スーパーは戦場だからな、人手はある方がいい」

こうして三人はスーパーへ向かった。スーパーに行ったことのない彼女は、早速訪れた外の世界に触れる機会に目を輝かせていた







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