02



「とりあえず引き取り先が決まるまで、この部屋で待機していてくれ」
「……(こくん」

私が生まれたのは、18年前。幼い私は何か大きな事故に巻き込まれ、家族と記憶を失った。それは私を引き取ったヒーロー協会の人から知らされたことで、当時の私は素直に信じた。もともとヒーローなどとは縁がなかった私の日常は、その日から非日常へと移り変わった。

「(…今日は天気がいいなぁ)」

引き取られてから、私は部屋で過ごすことが多くなった。一度だけ協会の人に頼んだことがある。家族のお墓参りがしたいと。顔も覚えていない家族でも、私の大切な人たちだったことに変わりはない。お墓参りをしたのはそれが最後だ。次に行くときは、私が私を取り戻した時だと決めているから。

「(…屋上にでも散歩に行こうかな)」

なぜ私が協会で引き取られたのか。理由は家族が関係者だった、らしい。というのは、私はたまに検査を受けさせられるからだ。何の検査かはわからない。ただわかるのは、私もまた関係者だということだ。

「やぁ、コハル。元気にしてたかい」
「!」
「僕のこと、忘れてないよね?」

私は激しく首を縦に振る。部屋を出ようとして出会ったのは、幼い頃からの知り合いアマイマスクさん。彼は有名なヒーローで、世間の人から絶大な人気を得ている。

「(忙しいのに、私を心配してくれたんだ…。いつも申し訳ないな)」

ぺちっ

おでこを軽くたたかれる

「駄目じゃないか。僕は君の笑顔を見に来たんだ。そんな顔をしないでくれよ」

この人は私の表情から言いたいことを何となく読み取ってくれる。気配り上手とは彼のことをいうのだろう。なるほど、人気があるのも頷ける

「それより今日も話を聞いてくれないかい」
「(こくん」

私は声をだせない。正確には、話す方法を忘れてしまったのだ。お医者さま曰わく、いつかふと話せる日がやってくるらしい。あれから10年が経つが、未だに私は話せない。このせいでコミュニケーションをとるのが少し苦手になってしまった。なのにアマイマスクさんは私と話しに来てくれる。私はそれが楽しくて、聞いては笑ってしまう

ウィーン

「やぁ、アマイマスク君。いたのかい」
「博士!お久しぶりです」

しばらくすると、また1人私の部屋に来客があった。白衣に包まれた彼を、私たちは博士と呼んでいる。博士には幼い頃から面倒をみてもらっていて、私の父親みたいな人だ。

「今日は朗報をがあってね。コハル、君の検査が無事終わったことを報告するよ。もう検査を受ける必要はない」
「…!?」
「本当ですか!良かったなコハル」
「(良かった!やった!)」

検査を私は好きになれなかった。終わった後には体調が悪くなったり、頭痛がしたりと良いことがあまりなかったから。しかしもう行われなくなるとは、また急な話だ。

「ただし、君には引っ越しをしてもらいたい。どうやら居場所が怪人にバレそうなんだ」
「引っ越しってことは、コハルはこの部屋から出られるんですね」
「そういうことだ。引き取り先も、もうすぐ決まりそうだから、あと少しでお別れだな」
「引き取り先って!そんなの僕は聞いていないですよ!」
「君に伝えたら間違いなく自分が引き取ると言いかねない。そんなことになれば世間どころか、怪人に居場所を知らせるようなものじゃないか」
「それは…そうですが」

チラッと私を見るアマイマスクさん。私は大丈夫という意味を込めて、軽く彼の袖を引っ張った。すると少し笑ってくれた。なんとか納得してくれたようだ。知らない人にお世話になるのは不安だけど、もっと外の世界を見てみたい気持ちもあった。

私はまだ知らない外の世界に、思いを馳せた。








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