04
「ふへへへへ!!」
路地の奥から怪人がゆっくり近づいてきた。おさまったはずの身体の震えがまた止まらなくなる。両手でなんとか押さえつけるも、まだコハルの震えは止まらない
「ここを動くな」
男はどこからかクナイを四本取り出すと、左手の指の間に挟んだ。キィイッと鉄がこすれる音がしたと同時に目の前の男が消える
「……!」
男は高く飛び上がり、怪人の上に到達したときクナイを一斉に投げ飛ばす。すると怪人の視線はコハルからクナイへ移り、変形したカニのハサミのような腕で払い落とした
「ふははは!俺の甲羅は鋼の鎧だ!そこらの刃物は効かねぇよ!!」
男が空中で腰の刀を引き抜くと、勝負は一瞬で片がついた。小春が気づいた時は既に怪人は苦しそうに倒れていたのだ。たった一度まばたきをしただけの間に
「…で、鎧がどうした」
「…ぐっ…」
「つまらん」
ビシャッ…!
「…っ」
悲鳴もあげられず、怪人の首が地面に落ちた。緑色の体液がドロドロと流れ出し、少し悪臭も漂ってきた
(あっという間…、この人強い…)
「…雑魚が。どんなに体を硬くしようとも、お前が俺に勝てるとでも思ったのか」
(そして怖い…)
冷徹で残酷で、何より寂しそうな目をしていると思った。そこには一瞬の迷いも躊躇もなく。もしかしたら彼は人間でさえ殺せるのではないのかと、感じさせるほどに。周りに飛び散った体液が辺りを浸食し始める。
「おい女」
(ビクッ!)
「来い」
「…!」
体を引き寄せられて、腰に腕を回される。男の腕と顔を交互に見ていると体に重圧がかかった。足下にあったはずの地面は遠く離れ、彼女たちは宙に浮いていた。遥か下の方には怪人の死体が転がっているのが見える
(あわわわわわ!!足が!地面があああ!)
「離れた場所まで連れて行く。安心しろ。もう見なくていい」
「……!」
(私が死体に怯えていたのわかったのかな…、身体の震えも止まったみたい。もしかして私に気を使ってくれたんじゃ…)
彼女は男のえりを弱めに引っ張った。唇の動きを読みとるため、男は目線のみを彼女に向ける
「なんだ」
《あの…ありがとうございました》
「礼を言われる筋合いはない、等価交換だ」
こうして彼女の命は助かった。本当に運が良かったと胸をなで下ろす。次からはシェルターの位置を確認しなければと反省した。しばらく屋根の上を走ると、男は噴水がある公園の中で立ち止まり、彼女をゆっくり降ろす。
「俺には追っている男がいる。悪いがここまでだ」
《はい。わざわざすみません》
もしかして怪人を退治してまわってる人なのだろうかと疑問がよぎる。あの素早い戦闘技術は普通の人のものではない。特別に、何か特別なことを行うための技術だ
《その男というのは…》
「宿敵だ」
一言そう言うと、男は首の布をあげてマスクのように口元を隠した。そしてコハルがまばたきをした刹那───
彼女だけが一人、公園に残されていた。
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