03


「…見失ったか」

「……!?(人間の声?)」

小春が恐る恐る目を開くと、そこには全身真っ黒の男性がいた。彼女には見覚えのない人物で、じっと自分を見つめる瞳を思わず見つめ返す

「おい貴様、カニの怪人を見なかったか」
「……」
「お前だ。女」

あたりを見回すと、どうやら他に女性はいないらしく。言われてみればこんな場所にいる人なんて私くらいだと考え、タブレットに文字を打ち込む

「(さっきまで此処をうろついていましたよ)」

タブレットを見せるなり、彼はちょっとまゆをしかめた。恐らく面倒だと感じたのだろう。こういう反応は珍しくない。彼女は特に気にはしなかった。誰だって言葉で会話できないのは不便なものだ

「そうか。悪いが俺はヒーローじゃないんでな。お前を助ける義務はない」
「(そうなんですか。確かにちょっと悪そうだなとは思いましたが)」
「正直なやつだな」

その時


グゥウ〜



「…?」

お腹の音が静かな廃墟に響く。自分じゃないと確信すると、前に立っていた人物をチラリと見る。男性はしかめっ面をしていた。

「くそ。カニが俺の弁当を食ったせいで腹が減ったな…。あのカニ、許さん」

察するに男性は弁当を怪人に食べられてしまったようである。食べ物の恨みは恐ろしいというけれど、彼は特別厳しそうだ。何かないかと自分のバックを漁ると、朝に作ったオニギリが2つ入っていた。急いでたときに慌てて入れてしまったらしかった。小春は2つ取り出して、彼に差し出した

「…なんだコレは」

両手が塞がっているので返事ができない
口で《オニギリです》と言う
彼は読心術が使えるみたいで、私の言葉がわかるようだった。

「忍者は人から与えられた物は食わない。毒があるとも限らんからな」
《毒なんてありませんよ!》
「どうだかな」
《入ってるのは梅干しだけです》

そう言うと、彼の動きが止まった

「う、梅干しだと…?」
《梅干し好きなんですけど、いらないんですね…》

仕方なくバックにしまおうとする

「ま、待て」

「?」

「お前が毒味するなら、食べてやってもいい」

どこの殿様ですか。と脳内で突っ込むんでから、ラップをはがし始める。忍者ならむしろ毒味する役とかじゃないのかと考える。そしてひとくち食べた。忍者はじっとこちらを見ている

(待てをしてる犬みたいな…)

「毒は入っていないようだな」
《当然ですよ。はい、どうぞ》
「あぁ、頂こう」

…さっきまで警戒心丸出しだったのに、今はオニギリを美味しそうに食べている。よっぽどお腹が空いていたのか、一口がとても大きかった。

(これって餌付けって言うのかな)

「…なかなか美味いな」
《握る前に軽く塩をふると美味しいしいですよ》
「ふむ。そうか」

あっという間に食べ終わった。もっと持ってきてあげればよかったかなぁと後悔したが、少しでもこの人の役に立てたみたいだからちょっと彼女は嬉しかった


ガシャンッ!ガシャンッ!


近くで何かの音がした。金属やがれきがこすれ合うような、コンクリートが砕けるような

「…来たか」

慌て始める小春。彼女には戦う術がない。他に逃げ場はないようだ

「慌てるな」

その様子を見かねた忍者が少し笑って言う


「美味い飯の礼だ。お前は俺が守ってやろう」







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