04


「30-15!」
「まだまだいくで財前!」
「俺熱いの苦手なんで適当に返しますわ」
「なんやとぉ!」

歓迎会から数日。新入部員との隔たりもなくなり、部全体の活気づいてきた気がする

「最近忍足くん、調子いいみたいだね」
「せやな。財前のおかげかもしれへん。いい刺激になってくれてるみたいや」

試合の最中、私はよくしろちゃんと部員のことについ話し合っている。おかげで体調の悪い人とか様子がおかしい人は何となくわかるようになってきた

「そうだしろちゃん、今日本屋さん寄って帰るから先に帰ってて」

最近四天宝寺中学の特集がくまれた雑誌が発売されたらしい。みんな見たいだろうから、部活用と自分用に二冊購入予定だ。やっぱりマネージャーとして皆が評価されるのは嬉しい

私の言葉をきくと、彼はため息をついてちょっと怒ったように言った

「水臭いこと言うな。俺もついて行くに決まっとるやろ」
「でもしろちゃん部活で疲れて…」

ぽんっと頭に手を置かれる。昔からそうだ。私を気遣ってくれる、優しい手

「そんな寂しいこと言うなや。俺は一度もお前のこと迷惑とか考えたことない。きっとこれからもな」
「う、うん」

「そこのお二人さーん、部内でいちゃつくの止めてもらえます?」

試合が終わった忍足くんが声をかけてきた。こんな風にからかわれるのは慣れてるので特に気にはしないんだけど…

「美空先輩と部長ってそんな関係やったんですか」

財前くんが絡むとたちが悪い。忍足くんはからかう仲間が増えて嬉しいんだろうけど、私としては複雑だ

「違うってば」
「ほらほら次俺と試合やるで、財前」
「えー」
「えーやない」

財前くんはしろちゃんに引きずられてコートに向かった。私はふぅ、と息を吐いてドリンクの補充に向かった

「なぁ美空」
「んー?」

タオルで汗を吹きながら、忍足くんが話しかけてきた。相変わらずタオルの柄はイグアナで、色合いが鮮やかで目がチカチカする

「お前白石とは小4から一緒なんやろ?」
「そうだよ。私が引っ越してきて、転校した小学校がしろちゃんと一緒だったの。話してなかったっけ?」
「いや。白石のやつ小学校の頃の話せえへんし」

私と帰るときはよく昔話とかするけど、恥ずかしいのかな…。確かに話したくない失敗は数知れずあるけど。それも私にとっては大切な思い出だったりする

「忍足くんはどんな子だったの?やっぱり足が速いとモテたりしたでしょ」
「んー、確かに足では誰にも負けへんかったけどな。俺はちっさい時はいとこと遊んでばっかやった」
「へぇ〜、でも忍足くんのいとこって四天宝寺にいないよね」
「東京の中学入ったからな。たまに電話はするし、夏には帰ってくると思うで」
「そうなんだ。会ってみたいなぁ」
「いや、会わんほうがいい」
「何で」

「お前、食われるで」
「!?」

く、食われる!?そんな怪獣みたいな人が忍足くんの親戚なの!そーいえば忍足くんはイグアナを飼ってたよね。あれは怪獣の親戚に似てるとかそーいう…!

「おーい、美空さーん?」

(…やっぱり会うのは遠慮しようかな)

まだやりたいこといっぱいあるし。高校生にもなりたいしね…


***

「あったか?」
「あ、これこれ。月刊プロテニス」
「今時のテニス雑誌は中学生まで特集組んでるんやなぁ」

私たちは部活が終わったあと、街の本屋さんに来ていた。探していた雑誌は平積みになっていて、結構売れてるみたい。パラパラとめくると四天王寺中学のページがあった

「ふふ」
「なにニヤついとんねん」
「ううん。嬉しかっただけ」
「まぁ特集組まれるんは照れるけど。謙也あたり気になって仕方ないって顔してたし」
「明日みんなに見せてあげよう」
「俺も一冊買うてみるか」
「え?ナルシスト?」
「ちゃうわ!記念や記念」

合計三冊の雑誌を買って店をでる。今までにも何度か取材を受けたことはあるので、その雑誌もすべて購入済みだ。私の大切なコレクションでもある

「しろちゃんも有名人の仲間入りだね」
「俺は別にテニスが出来ればそれでええねん」
「そうだね。私もみんなのテニス見れるだけで毎日楽しいな」
「そうか?今更言うのもなんやけど、雑用ばっかでつまんないやろ」
「そーかなぁ、楽しいことの方が多いけど」

私がマネージャーを始めたのはしろちゃんの影響だった。引っ越してきたばかりの私に、一緒にテニスをしようと話しかけてくれたのがきっかけだ

「しろちゃんが私をテニスに誘ってくれてなかったら、マネージャーにはなってなかったかも」
「ハルはテニスは壊滅的だったからなぁ」

思い出すように遠い目をして考えてるしろちゃん。確かに大変だっただろう。私は小学校の時の体育の成績はお世辞にも良いとはいえないし…

「打ち合いするだけで何日かかったか…。まぁおかげさんで基礎基本を見直すええ機会になって、最終的に俺のバイブルテニスは生まれたわけやけど」

彼の得意とするテニスプレイは、基本に忠実なバイブルテニス(聖書テニス)。基礎基本がしっかりしてるから教科書テニスって呼ばれたりする。私は未だにしろちゃん以上に綺麗なフォームを見たことがない

「ふふ、確か私に教えるために参考書とかで勉強してくれたんだよね。【はじめてのテニス】だったっけ」
「小学校低学年の本やぞ。買うの恥ずかしかったわ」
「二人でお小遣いをだしあって買ったよね。私は遠慮したのに、しろちゃんったら一度言ったらきかないんだから」

テニスが苦手な私に参考書を片手に必死に教えた様子を思い出す。学校の帰りに毎日テニスコートに通ってたなぁ…

《ちゃうちゃう!ボールをよく見るんや!》
《えい!》
《何でラケットに当たらんねん!》

頭の中では今でも幼い私としろちゃんが会話していることがある。本当に毎日毎日。私のために今気づよく教えてくれた。なんだか思い出すだけで申し訳なくなってきたかも…。そのおかげで今の私は打ち合いくらいは出きるようになったけど

「しろちゃん」
「ん?」
「…ありがとう」
「どうしたん急に」


しろちゃんとの日々は、今も心に深く、暖かく残ってる。


知らない土地で緊張してた私に、初めて声をかけてくれた時のこと



そしてあのときの言葉も。


───俺の名前は白石蔵ノ介!よろしくな、はる!


私の世界はあの時から明るく輝き始めたのだ。




 

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -