03


未だに財前くんが何故入部してくれたのか分からないけど、ひとまずテニス部の首の皮はつながった。後々ゆっくり話すと、彼は私のことを同い年だと思ってたらしく先輩だと知るとひどく驚いた様子だった

「すんません、敬語使わないで」
「いいのいいの。むしろそのままでも良かったのに」
「美空、財前をあんま甘やかすなよ。すぐ調子に乗るからな」
「先輩だけには言われたくないっスわ」
「んやとぉお?」
「ほら謙也に財前。ランニングいくで」

新生四天宝寺テニス部は夏の大会に向けて再始動した。部員も財前くんの他に新入部員がたくさん入部してくれたので、私も大忙しの毎日だ。というか、財前くん以外にも無所属の一年生いたんだ…

「お前らぁ!キリキリ走れよ!」

忍足くんも以前より気合いが入ってる気がする。なんだかんだ言って後輩ができて嬉しいんだろうなとか考えると、思わず頬が緩む

「さて!私も仕事しますか」

***

「お疲れ様」
「すんません」

部活のトレーニングを終えて、私はみんなにタオルを渡して回る。財前くんのタオルは有名な海外バンドのロゴが入っていて、わかりやすいタオルだった

「部活には慣れた?」

活動を始めて数日。財前くんはテニスの経験が浅い割にはレギュラー陣と同じくらいの実力を持った期待のエースになっていた

「まぁまぁっス」
「そっか。ありがとう、入ってくれて」
「先輩それ何度目っすか。もう聞き飽きましたよ」
「だって嬉しかったから。何回言っても足りないよ」

財前くんのおかげで私たちは活動できるようになったようなものだし。彼には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ

「美空ー!財前ー!オサムちゃんがもんじゃ連れてってくれるらしいで!財前の歓迎会やって!」
「ほんとに?やった!」

財前くんと話していると、忍足くんが手を振りながらこっちにやってきた。目をキラキラ輝かせていて、とてもまぶしい。そんな私もきっと目を輝かせているのだろうけど

「いっぱい食うで!」
「何で俺より先輩方のが喜んでるんスか」
「細かいことは気にしない!」
「行こ!」
「ちょ!歩けますって!」

私と忍足くんで財前くんの手を片方ずつ掴んで、部室に引きずっていく

「もんじゃもんじゃ〜♪」
「もんじゃのじゃ〜は…何のジャなんや?」
「うーん、ジャージャー麺?」
「ちゃうやろ、炊飯ジャーのジャーやな。きっと」
「じゃあジャニーズのジャは?」
「ジャガイモ?」

「先輩方まじウザイっすわ…」


***

「よっしゃ!みんなコップ持ったな。せーの!新入部員〜!」
「「いらっしゃ〜い!」」

「恥ずかしいからやめて下さい」
「ふふ、いいでしょこのかけ声」
「新婚サンやないんですから…」

私たちはオサム先生に連れられて、地元のもんじゃ焼き屋さんを訪れていた。確か去年私たちが入部した時も来た気がする

「いっぱい食べるんやで財前!」
「…はぁ」
「この明太子塩辛ポテトサラダもんじゃ、見た目はあれやけど味はええな。白石!食うてみぃ」
「んー!エクスタシー」
「はい、ユウくん。あーん♪」
「あーん♪」

他のお客さんからみるとかなりキャラが濃いメンバーに違いない…。私は目の前のアナゴホイップ蒲焼きもんじゃを作りながら、そんなことを考えていた

「美空先輩」
「あ、財前くん」
「隣エエですか」
「どうぞどうぞ」

隣に財前くんが座ってきた。どうやら金色くんに絡まれたので逃げてきたらしい

「んもう、財前きゅんたらシャイなんだから」
「浮気か!死なすど!」
「謙也!マグロの目玉もんじゃいこか!栄養価たっぷりや」
「ぐっ!ナニワのスピードスターに好き嫌いはない!食ったるでぇぇ!」

「はい、イカスミ抹茶オレもんじゃ。召し上がれ」
「普通のもんじゃはないんスか」
「ないです」
「……」

お皿にとって手渡すと、しばらく見た目と格闘して、食べる決心がついたらしい。財前くんは一口食べると、ボソッと言った

「うまい」
「でしょ?名前の割には美味しいんだよね。ここのもんじゃ」

ピローンと携帯で写真を撮ってから、財前くんはまた食べだした。いっぱい食べてる姿を見ると、大人びているけどまだ中学生なんだなと実感する

「先輩は食べたんですか」
「うん。もうお腹いっぱいだよ」
「これ最後によかったら」

差し出されたのは一枚のミント味のガム。食後には必ずガムを噛む習慣らしい…なんというか、女子力の高い子だなぁ

「ありがとう!財前くんって気が利くねぇ」
「どうも」
「ハル、そろそろ帰るで」
「はーい、手洗ってくるから待ってて」

しろちゃんに待っててもらい、私は手を洗いに行った。今日は楽しかったなぁ

「お開きにするんですか?」
「いや、俺とハルだけ帰らせてまもらう。あいつんち門限あるからな」
「部長は美空先輩と家が近いんですか」
「そっか、財前は知らんかったな。俺とあいつ幼なじみやねん。だから帰り遅くなった時は俺が送ったりしてる」
「ふーん。…あ、先輩ガムいりますか」
「おっ、サンキューな。ミント味かぁ。俺好きやねん。でもハルに渡したらあかんで」
「え、何かまずいんスか」
「あいつミント味嫌いやねん」


「しろちゃーん!お待たせ」
「よっしゃ、帰るか」
「みんなまた明日」
「おう気ぃつけてなー」
「財前くんも、またね」
「…お疲れ様です」

最後に挨拶を済ませて、私はしろちゃんと帰路についた。なんだか財前くんの元気がなかったけど…大丈夫、だよね

「楽しかったな」
「うん、新商品おいしかったね」
「青汁味とか出たら週3で通うんやけどなぁ」
「ふふ、そんなの食べるのしろちゃんだけだよ。もしかしてスッポンとかも欲しい?」
「お、わかっとるやん」
「ふふ、でしょー」

私たちはそれから、テニス部の未来のこととか、学校のこととか、たわいもない話をして帰った。最初はどうなることかと思ったけど、本当に部活が再開してよかった!

ピロロローン♪
家に帰ると、財前くんから電話がかかってきた。そういえば番号を交換したような、してないような?財前くん人にさり気なくアドレスとか聞くの得意そう

「はい、もしもし」
「…美空先輩ですよね」
「美空先輩です」
「もう家着きました?」
「うん。着いたよ。今日はお疲れ様」
「お疲れさんでした。白石部長から聞いたんですけど、先輩ミント味嫌いてホントですか」
「うん…まぁ苦手かな」
「すいません。俺ガム押しつけたりして」
「あーいいのいいの!嬉しかったから!大切に食べるよ」
「苦手なんじゃないんスか」
「可愛い後輩がくれたものは別なの。ありがとね」
「……」
「…?おーい」
「次は別の用意しときます」
「えっと、ありがとう…?」
「それじゃあ、お休みなさい」
「お休みー」

よく分からないけど、気を使わせちゃったみたいだ。ピアスとかしてるけど、敬語とかちゃんと使うし実は律儀な子なんだなと関心する。どんな味を用意してくれるんだろうと期待しながら、私はお風呂に向かった



 

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