02


「お前ら。忙しいとこすまんな」
「それはええですけど、急にどうしたんですか」
「今日から小春と新しいギャグ考えよう思てたのに」
「テニスやろうよ…」

みんながランニングから帰ってきて、私は部室にメンバーを集めた。オサム先生はホワイトボードにグラフを貼り付けていた。そのグラフは部活ごとに割り振られていて、テニス部の数は0だった

「何なんですか、そのグラフ」
「部活別イケメンランキング?」
「これはな…新入部員の数や!!」
「!!」
「今年テニス部には、新入部員が1人も入ってないんやぁぁあ!!」

迫真の演技で説明するオサム先生。他の部員はポカンとおいていかれている状況だ。私たちは去年全国大会に出場したくらいの実力はある。だから誰も新入部員の必要性を感じていないんだと思う

「俺らだけで十分やないですか?」
「後輩なんて面倒くさそうやし。ええじゃないですか」

「お前ら…校則第42条をみてみぃ」

生徒手帳を開く私たち。校則第42条はこう書かれていた。【各学年部員が1人未満の部活の活動を禁じる】ってことはつまり…

「新入部員をいれんと、これから大会には出場でけへんっちゅーことや!!」
「「どぇぇぇぇぇ!!!」」
「そんなバカなぁぁあ!」
「もう仮入部期間終わってるやん!!」

活動できなかったら全国制覇の夢も叶わないどころか、第一歩も踏み出せない。そんな状況に追い込まれているなんて…

「オサム先生、もっと早く教えてくれても…」
「すまんすまん、俺も今朝気づいてな。お詫びにとっておきの情報教えたる」

そこで教えてられた【とっておきの情報】それはまだどの部にも入部してない、財前光くんの存在だった。彼をテニス部に勧誘できれば、条件はクリアされる。先生が私たちに見せた写真には、黒髪の大人しそうな少年が写っていた

黒髪でピアスしてるから不良なのかな…。とりあえず全国大会に向けて練習するより先にしなければいけないことができたらしい。私もテニス部のために頑張らなくちゃ!

「みんなで財前光クンを入部させるでー!」
「「おーっ!」」

こうして、私たちの【新入部員のハートをドッキューン計画】(命名オサム)が始まったのです。


***

それから私たちは昼休み、毎日作戦会議を屋上で行っていた。屋上からは昼休みに中庭のベンチで休んでいる財前くんが見える。音楽をきいてるみたいだ

「せやけど、勧誘て何すればええんや?やったことないで俺」
「あの手の子はいっぺん笑かしてツボを抑えればイチコロやて相場が決まっとるんや」
「さっすが金色!」
「せやな!笑かしたもん勝ちや!」
「そ、そうなの?」
「最初誰行く?」
「…ユウくん。ワタシたちの実力…みせてあげるわよ!」
「小春ぅぅぅうーっ!」

トップバッターはこの二人に決まった。新しいネタで財前くんのハートを掴みにいくらしい。嫌な予感しかしないのは気のせいだ。きっと気のせい。

それからしばらくして、全員の挑戦が幕を閉じた

「ブリザァァァァドォォォォ!!」
「誰やあんな氷山みたいなヤツを入学させたんは!」
「ピクリとも笑わへん!」
「俺の基本に忠実なギャグをもってしても…!!」
「私は笑いすぎてお腹痛くなっちゃったけど…」
「お前は天使か!」
「ユウくん…お花はええね」
「ええな。いつも暖かく俺らを迎えてくれる」
「ふふふ」

皆の自慢のギャグが滑りに滑って、私たちの作戦は尽きた。財前くんは笑いのツボがとてつもなく深いらしい。正直、みんなが滑ってショックをうけてる様子が一番面白いだなんて言えない…。でもどうしたら入部してくれるんだろう…

「よお!やってるかー」
「オサム先生!」

屋上にやってきたのはオサム先生だった。私たちが上手くやっているか心配で様子を見に来てくれたみたい。なんだかんだいって世話好きなんだろうか

「みんなして何で絶望してるんや」
「持ちネタが財前くんにウケなかったみたいで…」
「なる程。それは絶望的やな」

うんうんと頷くオサム先生。ギャグがウケなかった辛さはよくわからない。私たちはオサム先生に助言をいただくことになった

「これをやれば、財前は絶対に入部するで!」
「何ですか先生!」
「俺らもうどんなネタでもやります!」
「プライドが許さへんっちゅーこっちゃ!」

すがるように言葉を待つ。また嫌な予感しかしないけれど…。あらゆる手(ギャグ)が尽きた以上、先生の案にすがるしかない

「それはな…」

ごくり…とみんなで息を飲む。すると先生がチラリと私を見た。え、私?


「色じかけや!!」


***


「や、やっぱり無理〜!!」
「いけるて!ほら!【財前くぅ〜ん!】て呼んでこい!」
「忍足くんがやってよ!」
「俺に女装の趣味はない(どやぁ」
「しろちゃん…!」
「悪いなはる。テニス部存続の危機なんや。このとぉーり!」
「嫌ならワタシがいってあげるわよ?」
「ダメや小春!惚れられたらどないすんねん!」

オサム先生が提案したのは、色じかけ作戦。具体的には私が財前くんにアピールして惚れさせて、テニス部に連れ込むって案らしい。現実的じゃないにも程があるよ…!

「い、色じかけとかやったことないし!」
「適当に口説いてくればええんや」
「くど!?」

そんなこんなで財前くんの近くに引っ張りだされて、早10分。私は未だに踏み出せないでいた。みんなギャグがウケなかったからってヤケになってるに違いない…!

「あれ?財前は…」

ふと小石川くんが呟く。さっきまでいたベンチに財前くんの姿がなかった。私たちが騒いでいた間に逃げられてしまったようだ

「逃がすか!探すぞ!」
「ぉお!」

みんなは蜘蛛の子を散らすようにバラバラになって散っていった。ふぅ、これでひとまず安心だ…

「財前くん、どうしたらテニス部に入ってくれるのかなぁ…」
「俺がどうかした?」
「それがね……ってえ!」

目の前には先ほどまで行方知らずだった彼の姿が。結構近くで見てみると女の子に人気がありそうなイケメンだ

「ざ、財前くん!」
「そうだけど」
「えーっと…」
「あんた、あの先輩たちと一緒に何か企んでたん?」
「た、企んでたといいますか。企らまされたといいますか…」
「ふーん。俺に何をするつもりだったわけ?」
「………じかけ」
「ん?」
「…色じかけ」

一瞬の沈黙

「あんたが?俺に?」
「(こくり)」
「ぶっ!!」

ひ、ひどい!いくら私が子供な体系だからって!こいつ私を見て笑った!今絶対私を見て笑ったよ!

「はははは!」
「だって!私ギャグとか言えないから…」
「はーぁ、俺は先輩のギャグより、自分を見てる方が楽しいわ」
「…複雑」
「俺そーいうの苦手なんや。お笑いとか、ボケとかツッコミとか」
「大阪人なのに?変わってるね」
「自分は大阪人やないみたいやな」
「小五まで東京にいたから」
「へぇー、それははるばるご苦労様」
「私もね、最初はみんなみたいにボケとかツッコミとか、言わなきゃいけないのかなって考えてたんだ。けど私は私って教えてくれた人がいるの」
「ふーん」
「だからね、財前くんも、今のままでいいと思う。財前くんは財前くんだから」
「そりゃどうも」

そっかぁー、財前くんはお笑いが苦手なタイプだったのか。これは他の手を打たなきゃいけないかも。早く作戦を練り直さなきゃ!

「おーい!はるー!」
「美空〜!授業始まるでー!」

遠くから忍足くんやしろちゃんが走ってくる。もうすぐ昼休みも終わる時間だ。話し込んだせいですっかり忘れてた

「あのー!先輩方!」

その時、財前くんがしろちゃんたちに呟くように言った

「俺、テニス部に入部しますわ」




 

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