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「なぁなぁ、もうおやつ買うた?」
「今日の放課後買いに行くで〜」


関西大会も間近になったある日のこと
私たちは学校の遠足を控えていた
一、二年生は比叡山に登るらしい
周りのみんなは久しぶりの学校行事に胸を高鳴らせているようだ
テニス部のみんなもしかり

「山登りかぁ、嫌やなぁ。虫だらけで」
「大丈夫やで小春。俺が守ったるさかい!」
「近づくなや!あんたは蜂にでも刺されときなはれ」
「そんなぁ、小春ぅ」

明日の天気は快晴らしい。
暑い日差しの中、私の体力だと登りきれるか少々不安なところだ

「財前くんは遠足参加するの?」
「サボりたいですけど、部長が煩いんで」
「ふふ、しろちゃんは真面目だからね」
「なんや財前。さてはお前体力に自信ないんか?浪速のスピードスターの俺やったらなぁ」
「先輩はあれですか。独りではしゃぎすぎてウザがられるタイプですか」
「せやなぁー、俺ともなると…って何でやねん!こちとら人気者じゃ」
「そうなんですか?」
「んー、普通かな」
「おい!嘘でも人気者って言えや!」

毎日あった練習も、明日だけはお休みだ
部員のみんなは全員参加するらしい
もちろん私も

「そや、お前明日白石の分もお弁当作るんやて?」
「うん。お母さんが出張でいないらしくてね。自分のも作るついでに」
「また唐揚げ作りすぎるんちゃうか」
「もー、あれはちょっと気合いが入りすぎただけだよ」

いつもお弁当は自分で作っているんだけど、明日はしろちゃんの分まで作る
この前偶然しろちゃんのお母さんが作れないと聞いたから、いつもお世話になってるお礼にと私から頼んだ

「謙也にはひと口もやらんで」
「ふん、華麗なスピード技で唐揚げ盗み取ってやるわ」
「ただのおかず泥棒やないですか」

頂上でお弁当を食べてから下山するプランらしい
遠足といっても皆は筋トレみたいに考えているだろう

「ちゃんと登れるかなぁ」
「大丈夫やって。マネージャーは力仕事でもあるんやから、体力はついとるはずや」
「うーん、とりあえず息が上がったら、スースーハーってすればいいよね」
「先輩それ複式呼吸ですわ」


こうして、私たちは明日の遠足の話題に花を咲かせた
めざせ頂上!





***




「眩しー!暑いー!」

遠足当日
比叡山は灼熱地獄と化していた
帽子かぶっても頭が暑い

「うー…暑いね」
「まだ半分くらいらしいで」

クラスの女の子たちと会話しながら登る
最初はよく喋っていたけれど、みんな次第に暑さにやられたのか無口になっていった

「先生ー、暑くて死にそうです」
「じゃあ寒くなるようなギャグ言うとき」
「んなムチャな!」
「あんたら煩いわ!黙って登れへんの!?」
「ほんまや!つまらんギャグきかせんといて!」
「お前らの小言のほうが口うるさくてかなわんわ!」
「せやせや、つまらんこと言ってたら老けるで」
「なんやてぇ!」

男子グループと女子グループが言い合いを始めた
男子はまだまだ余裕そうだ
私は登るのに必死で話を聞いて笑っていた

「はる、大丈夫か?」
「あ、うん。まだ大丈夫」

しろちゃんもいつも端で笑ってるタイプだ
忍足くんは参加してるみたいだけど

「小春の話やと頂上に着く頃は暑さもマシになるらしいで。あと少しの我慢や」
「本当に!?頑張る!」
「ははは、その調子や」

しろちゃんは男子のグループをなだめに向かった
しかし何故かみんなヒートアップしている気がする…
なんだかんだ仲が良いんだよね

「先輩」
「あれ、財前くん!何でここに…」
「一年のみんな遅くて抜けてきました」
「ふふ、意外だなぁ。てっきり最後尾でのんびり登るのかと」
「まぁ今まではそうでしたけど」
「今日は違うの?」
「先輩と話ししたかったんで」
「そうなんだ。しろちゃんたちはあそこにいるよ」
「………」

何だか財前くんが冷めた視線を送ってくる
いや、いつも冷めてるんだけどね
彼はため息をついている

「財前くん帽子かぶらなくて暑くないの」
「髪が潰れるのが嫌なんですわ」
「忍足くんは平気そうだよね」
「イシアタマだからやないですか」
「財前聞こえてんで!!」

忍足くんがこっちに気がついたみたい
財前くんは「げ。」と呟いて逃げ出した
その様子を見て少し疲れが飛んでくれたみたいで、私はより大きく一歩ずつ、歩みを進めていった

「なぁなぁ、頂上着いたらお菓子交換しよ」
「するする!はるもするやろ?」
「うん!私クッキー作ってきたんだ。良かったら食べてね」
「女子力すごいな!?楽しみやわ〜」


***



「一時間後にここに集合や!はしゃいで山転がり落ちるんやないで!」
「「はははは!」」
「落ちるかいなーっ」
「んじゃ、解散!!」


頂上に着くと、澄んだ空気が体に染み渡ってくる感じがした
こういうのを「空気が美味しい」っていうんだろうな

「ここらで食べよ」
「せやなー」

みんなでレジャーシートを敷いて、お弁当を食べる準備をする
私はしろちゃんにお弁当を渡すために、その場から離れた

「なんや美空。どないしたん」

キョロキョロしてた私に声をかけてきたのは、同じクラスの渡辺くんだ
サッカー部で足が速くてクラスの女子に密かに人気だったりする

「あの、しろちゃん見なかった?」
「白石ぃ?さっき見たけど…その弁当。白石のか?」
「うん。今日は…って!!」

渡辺くんがお弁当を高く持ち上げる
そんなことしたら中身が崩れちゃうよ!

「ちょっと!返してよ…!」
「俺が渡したる」
「大丈夫だから…!」

正直言って私は彼が苦手だ
恋をしてる女子には申し訳ないけど…

「お前もいい加減白石離れせな」
「もう!関係ないでしょ!」

力づくはやめた方がよさそうだし…


ガサッ…


一緒にお弁当袋に入れておいたクッキーの袋が落ちた


グシャッ!


「あ…!」


渡辺くんの足の下敷きに………


「なんや渡辺。なにしとんねん」
「忍足…」
「横田がお前探しとったで。はよ行け」
「あ、あぁ」

渡辺は少し私を見て、忍足くんにお弁当を渡して去っていった…

「大丈夫か」
「うん…ありがとう。それしろちゃんに渡しておいてくれるかな」
「昨日言うてた弁当か。それは?」

忍足くんが私が拾った紙袋に視線を移す
さっき踏まれちゃったせいで、くっきりと足形がついている
きっと中身はボロボロだろう

「な、なんでもないよ」
「ちょっと見せてみぃ」
「あ…!」

私から紙袋をひったくって、中身を確認している
すると何事もなかったかのように、割れたクッキーを口にいれて食べ始めた

「お、なかなかイケるやん(ガリガリッ」
「でも割れちゃったから…私が家で食べるよ」
「アホ。俺が全部貰う」
「へ…?なんで?」
「悔しかったらまた作るんやな!んじゃ!」

「ちょっとー!」

お弁当とクッキーと共に忍足くんは去っていった…
何だったんだ…

「もう…」


なんだかんだ、優しいんだよなぁ。忍足くん
素直じゃないけど、何度もその優しさに私は助けられている
モヤモヤした気分が晴れて、私は思わず笑みがこぼれた



***


「あの弁当、うまかったで」
「よかった!クッキーは食べた?」
「クッキー?なんやそれ」

無事に下山し、家までしろちゃんと2人で帰る
どうやらしろちゃんはクッキーのことを知らないみたいだ

「じゃあ忍足くんは何か言ってなかった?」
「んー。そういえば腹一杯で苦しそうにしてたわ。珍しいこともあるもんやな」

クッキー多めに作ったからなぁ…
ってことは本当に全部一人で食べたんだ

「何かあったん?」
「ふふ、実はね…」


翌日
凄く申し訳なさそうに渡辺くんが私に謝りに来た
しろちゃんにこっぴどく怒られたらしい
あまりの落ち込みように、私まで申し訳なくなってしまった

けど、いい思い出になってよかったな

そんなことを考えながら、筋肉痛の足をさすりつつ私は部室に向かった




 

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