13


それはある日の放課後のことだった。私はいつものようにHRのあと、同じクラスの忍足くんと、石田くんと一緒に部室に向かった。みんなが集まるまでの、空いた時間。いつも私はジャージに着替えて、ドリンク作りに取りかかるのだけど…

「なんや、今日は全然人集まらんな」
「第一部長が来てないよね」
「白石はんなら保健室の毒草見てから来るらしい」
「保健室に毒草て…一番あかん組み合わせやろ」
「財前くん今日は着替えるの早いね」
「たまたまですわ」

部長不在の間、練習に入る前におのおのストレッチを始める。金色くんたちは委員会で遅れるんだとか

「財前体かたいなぁ。頭ん中堅いからなんとちゃうの」
「石頭に言われたくないっす」
「ほおー、こうしてやる!」
「あだだだだ!」
「仲いいねぇ、あの2人」
「そうやな。まあワシも体堅いから人のこと言えへんわ」

「あのー、」

聴いたことのない声がした。部室前の門からだ。みんな頭に「?」マークを浮かべていたので、私が様子を見てくることにした

「すみません」
「えぇっと、どちら様ですか?」
「美空はるさんですか」
「はい、そうです」

その様子を部員たちは陰からこっそりと見ていた。

「誰やアイツ」
「どっかで見た顔ですね」
「ふむ、やつの制服…この前試合した奈良の中学の制服やな」
「奈良!?なんや偵察かいな」
「偵察だけやったら美空先輩関係ないやないですか」
「そらそうやな。あ、こっち来たで!」

私はみんなに話をするためにコートに向かった。みんな口笛とか吹いてたりして、あからさまに不自然だ

「なんやて、アイツ」
「私に用があって来たみたい。ちょっと話してくるから練習抜けるね」
「ここで話さないんですか」
「うーん、嫌みたい」
「何なんそれ。先輩行かなくていいですよ、あんなヤツのところ」
「せや、無視しとき無視」
「だめだよ。練習しててね」


やけに突っかかるみんなを残して、私は男の子のところに向かった

「行ってしもたで!」
「まさかとは思うんですけど…」

人に聞かれたくなくて、わざわざ直接話さなくちゃいけない話なんて…!
それにわざわざ奈良からやって来たことを考えると…!

「ネタ合わせか!?」
「先輩、今はボケなくていいっスわ」 
「…すまん」

「みんなお待ちどうさん!いや〜ベラドンナが綺麗に育っててな」

ぴらぴらと手を振りながら白石が忍足たちに近づく

「白石ぃ!お前来るの遅いわ!」
「は?何かあったん?そーいえばはるがいないな。どないしてん」
「その美空がやな…


告白されるかもしれへん!!」



***


「どないしよ!どないしよ!」
「落ち着けて白石。まだ告白て決まった訳じゃないで」
「しっ!聞こえますよ!」

白石たちははるたちを尾行して、話を盗み聞きしていた。石田は体がでかくて隠れにくいのでお留守番だ

「僕、吉岡尚樹っていいます」
「えっと美空はるです」

人通りの少ない体育館の裏
奈良からやって来た彼の名前は吉岡くんというらしい

「あ、僕二年生だから敬語はいらないよ。実は美空さんにお願いがあって…」
「私に?あの部活のことだったら…」
「いいや、違うんだ。僕の姉が結婚することになってね、プレゼントを用意したいんだけど何を贈ったらいいかわからなくて。それでこの前試合で君の優しそうな表情をみて、姉に近い何かを感じたんだ」

(何言ってるんやアイツ)
(わざわざ奈良からなんておかしいやろ)
(裏がありそうですね)

「だから、その、今度一緒にプレゼントを選んでくれないかなって…」

(ぷぷぷ、あんな手に引っかかるかい)
(せやな、明らかに嘘っぽいし)
(告白やなかったんですね。安心しちゃいましたか先輩)
(ま、まあな)
(ほな練習戻ろうか)

影に隠れていた部員たちはコート方面に歩き出した

「うん、いいよ」

(((!?)))

「練習終わったらでいいかな」

(おいぃぃぃ!!)
(あの人どんだけ危機感ないんですか!)
(すまん、俺の教育不足や…!)

約束をすると、吉岡くんは嬉しそうに放課後まで待っていると言ってどこかに行った
お姉さんのこと、ホントに大切に思ってるんだなぁ…
私なんかが協力できるといいけど


「……」
「?」

コートに戻ると、みんなが頭を抱えてうずくまっていた

「どうしたの?」
「お前のアホさ加減に悩んでるんや」
「せやせや、もうちょっと頭のまわる子やと思てたわ」

このあとに出かける約束をしたことを話すと、さらに頭を抱えた

「ただ一緒に買い物行くだけだから」
「世の中ではそれをデートっちゅうんや!」
「先輩、今からでも遅くないです。断りましょう」
「でもせっかくわざわざ頼ってきてくれたのに」
「あんなん嘘や!」

私たちが話していると、黙っていたしろちゃんが口を開いた

「いって来い、はる」

「おい白石ッ…」
「エエんや、ちゃんと選んでくるんやで」
「うん!」

その時、ぽんと頭に手を乗せられた
どうしてだろう、しろちゃんの顔が寂しそうに見えた

「ほな、みんな練習や練習」

みんなは不満を漏らしながら練習に向かった
私が情報を漏らすとか心配してるのかなぁ…
ちゃんと選んで、しっかり終わらせてこなきゃ!



 

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