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「こんにちは、おばさん」
「あら白石くん!いらっしゃい」
「お邪魔します。おじさんいてはりますか?」
土曜日、お父さんに誘われてしろちゃんは家に遊びに来た。私が引っ越してきてしろちゃんと家族ぐるみで仲良くなったのは、実はお父さんが原因だったりする。
「やぁ!白石くん!よく来たね」
「おじさんこんにちは」
「さあさあ、こっちだ」
私のお父さんは大学で植物学の教授をしている。大阪に引っ越してきたのもお父さんの大学の研究のため
「ほ、ホンマに本物のゲルセミウム・エレガンスですか!?」
「あぁ。葉っぱだけで申し訳ないが」
「いえ、いえ!見れただけで十分です!ありがとうおじさん!」
そしてお父さんの専攻は毒草の研究。今日は前からしろちゃんがずっと見たがっていた毒草が手には入ったらしい
「ゲルセミウム?」
「ゲルセミウム・エレガンス。は世界最強の植物毒を持つと言われとる毒草でな、東南アジアに生息しとって、海外から持ってこようとすると検問にひっかかるくらい猛毒や。日本には正倉院に保管されとってな、何でも昔の日本でも使われとった形跡があるらしい!つまりな昔からその秘めた自然の神秘を認められとったっちゅーこっちゃ!」
「…は、はあ」
本当に毒草が好きなんだなぁ。テニスの試合を見ていてもあんなに楽しそうにしているしろちゃんは見たことがない
「よう手に入れたなおじさん!」
「また大学に持って行かなきゃならないけどね。喜んでくれて僕も嬉しいよ!」
「すごいなぁ、綺麗な黄色い花を咲かせるんやろなぁ…!」
今のしろちゃんとお父さんには近づきがたい…。今は2人にしておいてあげよっと。私は2人がいる部屋からそっと抜け出した
「はるちゃん、友香里ちゃんが来てるわよ」
「はるちゃーん!」
「友香里ちゃん〜!」
玄関にはしろちゃんの妹の白石友香里ちゃんが遊びに来ていた
「クーちゃんがはるちゃんち遊びに行く言うてたから、私も来ちゃったわ」
「いらっしゃい!あがってあがって」
友香里ちゃんと初めて会ったのは、私がしろちゃんの家に初めて遊びに行った日。最初はちょっとギクシャクしちゃったけど、話をしているうちに友香里ちゃんがお兄ちゃんを大切に思ってるって理解できた。今ではたまに夜に電話で長話したりする仲だ
「しろちゃんはお父さんと盛り上がってて。部屋でお話でもしよっか」
「ええね!あたしケーキ持ってきてん。一緒食べよ!」
お母さんが紅茶を持ってきてくれるらしいので、私たちは二回にある部屋に向かった
「はるちゃんの部屋久しぶりに来たけど、あんまり変わってへんね」
「そうだねぇ。しいて言うなら雑誌が増えたくらいかなぁ」
本棚にはテニス雑誌専用のスペースを作ってある。最近四天宝寺も有名になってきたのか、よく特集を組まれる。そのたびに雑誌を買うため、テニス雑誌が増えてしまった
「ね!クーちゃん載ってる号ある?」
「あるよー!えっと…」
「クーちゃん雑誌の話とか全然してくれへんねん。教えて言うてるのに」
「ふふ、恥ずかしがってるんだよ。あった!これこれ」
何冊か雑誌を取り出して、ページを開くとしろちゃんの写真がでてきた。友香里ちゃんは嬉しそうにページの記事を読んでいる。本当にお兄ちゃんが好きなんだ。私は一人っ子だから、兄弟の存在にすごく憧れる
「ちょっと何これ!白石のテニスは完璧すぎて面白みに欠ける!?完璧で悪かったなぁ!」
「まぁまぁ。上手いことは認められてるんだから」
「…あれ、この人誰や?」
「どれどれ」
友香里ちゃんが見ていたのは財前くんのページだった。そう言えば新入部員だから知らないのかも。【関西期待の新人!】と大々的に書いてある
「財前くんって言ってね、すっごくテニスが上手い一年生なんだよ。大人っぽくて気が利くし真面目だし」
「…ふーん」
あれ…?何だか友香里ちゃんの反応がやや薄い
「この人ゼンザイだかコンサイだか知らんけど、はるちゃんの何なん?」
「財前くんね」
「いい人そうなのは分かるけど」
「可愛い後輩だよ。普段どっちかというと私のが後輩みたいなんだけど」
「じゃあはるちゃん好きな人とかおらんの?」
好きな人かぁ、保育園の時にカッコイいなぁって思った男の子はいたけど。好きな人は今はいないかな…
「うーん。今は部活が忙しくて恋愛してる暇はないかも。友香里ちゃんはいないの?」
「クーちゃんとはるちゃんが心配でそれどころじゃないで」
「ははは」
「なぁなぁ、はるちゃん」
「ん?」
「クーちゃんのこと、好き?」
「うん好きだよ」
「さ、さよか…(絶対違う意味で言うてるわ」
「はるちゃーん、そろそろ夕飯にするから降りてらっしゃい!」
階段の下からお母さんの声がした。今日は白石兄弟は一緒に夕飯を食べるらしい。メニューはカレーだった
「おばさんのカレーはやっぱりうまいなぁ」
「ホンマや!あたし来て良かったわぁ」
「あら嬉しい」
「ははは!白石くんも友香里ちゃんもたくさん食べて行きなさい」
いつもより賑やかな夕食。兄弟がいたらこんな雰囲気なのかなと想像しながら、私はカレーを口に運んだ
「美味しい」
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