×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



Happy Birthday to you you!


今日はいつもより少し早く起きて、念入りに髪を梳かしたし、うっすらとピンクに色づくリップも塗った。
前髪もいい感じだし、スカートのプリーツも乱れてない。
やれるだけの身だしなみを整えてから、玄関のドアを開ける。
足取りは自然と軽やかになって、流れる景色がいつもより鮮やかで、朝の光がきらきらと眩しい。

昔はなんでもない一日だったはずなのに、アイツと出会ってから今日は特別な日になった。
5月15日、沢村の誕生日。好きな人の、生まれた日。

この日のために行き慣れないスポーツショップで悩みに悩んでフェイスタオルを買って、ラッピングなんかしてもらっちゃったりして。
誕生日プレゼントだって言って渡したら驚いてくれるかな、喜んでくれるかな。
そんなシチュエーションを想像して無意識に口元がニヤついて、レジを打ってるお兄さんに「彼氏さんにプレゼントですか? 」と聞かれてしまった。お兄さんもニヤニヤしてるし。
もちろん全力で否定したけど、内心は沢村が彼氏だったらどれだけ幸せなんだろうって思っていた。
実際はただのクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。私の一方的な片想いなんだよね、切ないなぁ。

ちょっと早めに教室に着いたはずなのに、私の隣の席はすでに人で囲まれていた。
輪の中心にいるのは沢村で「誕生日おめでとー」ってみんなから声をかけられている。さすがクラスの人気者。
人目につかないようにプレゼントを渡すつもりが、どうやら出遅れてしまったらしい。
輪の中には他クラスの女子も混じってるし、沢村も満更でもなさそうに鼻の下伸ばして照れてるし。なんだか面白くない。

机の上にはプレゼントのお菓子がたくさん積まれていて、箱にはマッキーでお祝いのコメントが書かれていたりする。
一方、私のプレゼントというとラッピングもしてもらったタオル。ちょっと気合いを入れすぎただろうか。
鞄の中をこっそり覗き込むと、青色の包装紙に包まれたタオルがカサッと音を立てた。

どうしよう。せっかく買ったんだし、渡したいけどなかなかタイミングが掴めない。
休み時間はクラスメイトに囲まれてしまって話しかけられないし、昼休みだって野球部でご飯食べに行ってしまう。
練習が終わった後はどうだろうかと思ったけど、夕方からバイトがあるし無理だ。
うーん、どうしたものか。

お昼休みも上の空でお弁当を食べていると「プレゼントはいつ渡すの? 」と友達ににやけ顔で質問される。
答えに困って唸っていると「頑張れ」って肩を叩かれた。他人事だからって完全に面白がってるし。
「渡せなかったら貰ってあげるよ」って言われたら、もう後に引けない。
でも、どうやって渡すチャンスを見計らえばいいのか。
もうすぐお昼休みが終わって、あと1回の休み時間とホームルームしか話しかけるタイミングなんて無い。失敗できないうえに難易度が高すぎる。
もう今日プレゼントを渡すのは諦めて、ほとぼりの冷めた明日にすればいいかな、不本意だけど。うん、仕方ないよね。

「おーい、みょうじ? 」
「!? 」

唐突に話しかけられて、いつの間にか沢村が席に戻っていたことに気がついた。
あれ、誰も沢村の周りに集まっていない。

まだお昼休みも終わっていないのにおかしいと思って辺りを見回してみると、ノートにペンを走らせているクラスメイトの姿が多い。
そうだ、5時間目は予習してこないと怒られる古典の授業。だからみんな早めに席についてるんだ。
沢村は予習終わってるのかな、と思って机上に視線を落とすと真っ白なノートが開かれているだけで、諦めたんだなと察しがついた。もちろん私は予習済みなので余裕である。

「今日はなんの日か知ってるか?! 」
「……沢村の誕生日」
「大正解! で、なんかあるだろ? な? 」

隣人は期待に目を輝かせて、私をまっすぐに見つめてくる。
こんな時は沢村の神経の図太さに感謝をしなくちゃいけない。
自ら誕生日プレゼントを催促するなんて、本当に良い度胸をしてるよね。エースに向いてるんじゃないかな。
そんなこと言ったらますます調子に乗りそうだし、言わないでおこう。

朝から入れっぱなしだったプレゼントを鞄から取って、差し出す。
大げさに喜んでくれるかなって期待してたのに「おぉ…」としか答えてくれないし、受け取る手つきもかなりぎこちない。
気まずすぎて顔が見られなくて、泳ぐ視線は机の横にかけられたビニール袋いっぱいのお菓子を捉える。あー、やっぱり私もお菓子にすれば良かったかな。
わざわざラッピングまでしちゃって、気合い入れたのバレちゃったかもしれない。

「わざわざ買ってきてくれたのか? 」
「うん。良かったら使って」
「なんか悪ぃな、プレゼント催促したみたいになって」
「え、違ったの? 」
「いや、誕生日おめでとうって言ってくれたら、それだけで良いかなって」

ちょっと照れくさそうにはにかんで笑っている。喜んでくれてるのかな、それなら嬉しいけど。

「中身、開けてもいいか? 」って聞かれて二つ返事でいいよと答えると、不器用な手つきで丁寧に包装紙を剥いでいく。
プレゼントに選んだのは、青色の生地に黄色のラインが入っているだけのシンプルなフェイスタオル。
どんな場面でも使いやすいようにって考えてみたんだけど、どうだろうか。
手に取ったタオルをじっと見つめて微動だにしないから、急に不安になってきた。
どうしよう、同じデザインの物を持ってたりするのかな。もしかして好みじゃないのを選んでしまったのかもしれない。

「それ、気に入らなかった? 」
「すっげー嬉しいよ、ほんとに! 」
「リアクション薄いから気に入らなかったのかと思った」
「プレゼント貰えると思ってなかったから、驚いたっつーか……」
「うん? 」
「本当に嬉しい時ってさ、言葉ってすぐ出てこないよな! 」
「!」
「さっそく今日から使うからな! 」
「……うん、たくさん使って」

おしおしおーし!ってガッツポーズを決めた沢村に「ウルセーぞ沢村ァ!」と金丸から檄が飛ぶ。良かった、いつもの沢村に戻ったみたい。
そういえば肝心なことをまだ伝えていなかったと思い出す。

「沢村、誕生日おめでとう」
「おう、ありがとな! 」

やっぱり白い歯をこぼして笑っている沢村が、好き。
教室でもグラウンドでも、そんな笑顔がたくさん見られますように。
そしていつかこの想いをちゃんと伝えられますようにって、心の中で小さく祈った。