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その目に映して


数字や記号で埋め尽くされた用紙にはどんなドラマが描かれているのか、まったく想像がつかない。
お隣の席の御幸くんは、休み時間になると野球のスコアブックを読みふけていることが多い。
左手で頬杖をついてじっくりとスコアに視線を滑らせている横顔を、チラリと横目に見ているとなんだかいけないことをしている気分になる。
リラックスしているような表情なのに、御幸くんをまとう空気は少しピリッと張りつめていて、私はいつも息がうまくできない。
午後の日差しが柔らかく髪の輪郭をなぞって、長い睫毛の影がよく日に焼けた頬に落ちている。
男の子だけどとても綺麗だ。芸能人とか俳優とか、そんな感じじゃなくて、彫刻とか絵画の類いだ。
芸術に詳しいわけではないけど、そう直感している。

「なんだよ、顔になんかついてるか?」

急に話しかけられて、慌てて御幸くんから視線を逸らす。
わざとらしい仕草に見えないように前髪をいじったりして誤魔化すのだけど、時すでに遅しだった。

「いや、御幸くんって綺麗だなぁって」
「……男子高校生に向かって綺麗って感想はどうなんだよ」

栗色の瞳がスコアから離れて、呆れ気味にこちらを見据える。
やっとこっちを見てくれたことが嬉しくて、ニヤニヤと頬が緩んでしまう。私の顔、崩れてしまってだらしがない。
恥ずかしいのに嬉しいだなんて、新しく芽生えたこの感情になんて名前をつけたらいいんだろう。

「あはは、かっこいいとかの方が良かった? 」
「まぁ、綺麗よりかはな」

会話に一区切りつくと、また一枚パラリとページをめくった。
再び視線はスコアに落とされて、静かな空間が御幸くんとの間を隔てる。
今日はいつもより少しだけ多く話せたから、だいぶ幸せだ。

「みょうじってさ、毎日幸せそうだよな」
「……なんで? 」

あれ、会話終わったんじゃないの?と思って向き直ると、視線はスコアに向けられていて声だけで話しかけられているらしい。
御幸くんから何度も話しかけられること自体が珍しいから、ちょっとビックリしてしまう。

「毎日ニヤニヤしてるからさ、さっきみたいに」
「見られてたんだ……」
「そりゃお隣だからな」
「……恥ずかしい」
「ハッハッハ」

あ、笑ってる。
教室で笑うところなんてたまにしか見られないのに。今日は本当にラッキー続きだ。
明日は雪でも降るのかもしれない、まだ冬じゃないけど。

「お前いま失礼なこと考えてるだろ」
「そんなことないよ」
「どーだか」

閉じられた青色の表紙を撫でる手つきが優しくて、私は生まれ変わったらスコアブックになりたい、とちょっとだけ思った。