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21. たまにはこんなやさしい夜を


『小湊のことがずっと、好きだったんだ』

退屈な授業、自主練の休憩中、朝の目覚める間際の微睡み。
繰り返される日常のふとした瞬間に時折、先輩に告白されたあの日のことを思い出す。
先輩の震える声は、柔らかく鼓膜を振動させた。
触れたら破裂してしまいそうな緊張をはらんだ台詞を聞いて、何かの聞き間違いではないかと、一瞬自分自身の耳を疑った。
もしかしたら、自分の都合の良いように言葉の意味を解釈してしまったのではないかと。
しかし、自分自身への疑念に反して、先輩の頬がみるみる赤く染まっていく。
耳の先までほんのり赤い。瞳も潤んでいる。
ふと、唐突に純から借りた少女漫画のワンシーンを思い出した。
物語のクライマックスに片想いしていたクラスメイトに勇気を振り絞って想いを告げる少女漫画のヒロインと、今の先輩の姿が微かに重なって見える。
今の台詞は嘘偽りの無い告白なんだと、数秒経ってようやく理解できた。
先輩は返事を待つ間、目を合わせていられなくて伏せた視線がずっと足元を泳がせている。
両手はギュッと握りしめられて、とても緊張しているように見えた。
そんないじらしい先輩の仕草を見て、衝動的にその手を引いてこの腕の中に閉じ込めてしまいたいとさえ思った。
そして、俺の本当の気持ちも全部、伝えてしまいたかった。

それでも、頭の中には二つの感情が渦巻いていて、告白に浮つく慕情を、冷静な理性が強引に衝動を抑えつける。
頭の中で雨のように、いくつもの俺の声が降ってきては水面を打ちつけるかのように響いていた。

ーー先輩なら、俺のことを受け入れてくれるかもしれない

ーー三年生とか、青道のレギュラーとか、小湊家の長男だとか、いくつもの役割を脱ぎ捨てたとしても

ーーでも、先輩の気持ちを受け入れたら、先輩の優しさに甘えたくなるんじゃないのか?

ーー家族と離れてより厳しい環境に身を置いて野球をやるって、わがままを通してきたのに


ーーーそれでも本当に、この気持ちを伝えていいのか?


たった数十秒間の沈黙の中で、いくつもの声の波紋が広がっては脳内で騒がしく響いた。
どう答えればお互いの為になるのか、正解を探して、考えて、悩んで、迷って。
それでも選択肢は二つしかないのだから、片方を選ばざるをえなかった。

「…………すみません。みょうじさんの気持ちには、応えられないです」

結局、俺は告白を断る選択肢を選んだ。
俺が青道を選んで今ここにいられるのは、他でもない家族の支えがあるからだ。
両親に我儘を通して、わざわざ家を離れて野球だけに集中するために寮生活をさせてもらっている。
そして、この春からは春市も俺の後を追って青道に入学してくる。
それなのに、恋に浮かれて野球が中途半端になるかもしれないなんて、そんなことでは家族にも仲間たちにも示しがつかない。
それに、先輩とは一緒に甲子園に行くという約束も交わしていた。
その約束を果たすためには、これからより一層野球に集中しなければならない。
あとたった一度しかないチャンスを、どうしても逃すわけにはいかないから。
結局のところ、俺は先輩からの好意や優しさを独占できる権利より、自分の置かれた立場や担う役割を全うすることを選んだ。
どちらかを選べばなければならないとしたら、後者を選ばなければならなかった。
それは自分自身の為でもあるし、巡り巡って先輩の為でもある。
そうやって無理やりにでも理由をつけて、納得しなければいけなかった。
そうでなければ、想いが口を突いて勝手に飛び出してしまいそうだったから。

『……うん、そうだよね。ちゃんと答えてくれて、ありがとう』

先輩は切なそうに目尻を下げて、それでも笑顔を作ってくれた。
まるでその表情は、俺がなんて答えるのか知っていて、最初から準備されていたかのように見えた。
まるで心の中まで見透かされているような気がして、ひた隠しにしているこの想いまで気づかれてしまったのではないかと、少しだけ怖くなった。
別れ際、先輩は『またね』と笑って手を振ってくれた。
遠ざかっていく小さな後ろ姿を見送りながら、無理やり胸の奥にしまい込んだ想いが内側から心臓を刺して酷く痛んだ。
野球だって恋愛だって、両立できるような器用さがあれば良かったのに。
残念ながら俺にはそこまで器用でいられる自信なんてなかった。

先輩の背中が見えなくなるまで、両脚は根を張ったかのように動けなかった。
少女漫画だったらきっと、こういう時にヒロインの後を追いかけて想いを告げるだろう。
俺にはとてもじゃないけど、そんなことはできなかった。


それが二ヶ月前の出来事。
あれから時は過ぎて、季節は初夏を迎えている。
先輩とはまだあの日以来、再会を果たせずにいた。

* * *

目の前に放たれたボールの芯を打つことだけを考えて、バットを振っている時間は無心になれる。ミートポイントの調整にもちょうどいい練習だ。
毎晩の自主練では、他の奴らが素振りしたりランニングしたりしている傍で、俺はティーバッティングで最低でも二箱は打つ。
トスを上げてもらうのは大抵、木島か倉持が争って決めているのだけど、どうやら今日は木島がじゃんけんに勝利したらしい。勝ち誇ったドヤ顔を倉持に見せつけていた。
負けた倉持は今ごろ素振りでもしているのだろう。

「木島、次は高めに上げて」
「はい。次でラスト十球です」

胸元付近へ上げられるボールを、差し込まれないように腕を畳んでコンパクトにスイングする。
次々と上げられるトスを十球続けて打ち込んでバットを降ろすと、木島に預けたタオルを差し出す。
受け取ったタオルで汗を拭いながら、ネットに溜まったボールを拾い集めているところだった。

「亮さん、いますか?」
「ここにいるよ。見ればわかるでしょ」

走ってきたのか慌てた様子の倉持が出入り口から顔を出している。
俺の姿を見つけて倉持の表情がわかりやすく明るくなった。
この顔はおそらく、良い知らせがあってそれを報告しに来るときに見せるものだ。
そして、大抵その良い知らせは大したことがないから期待はしないで駆け寄る倉持の次の言葉を待った。

「なんだよ倉持。俺たちまだ自主練中だぞ」
「邪魔して悪ィ。でも純さんが亮さんを呼んでこいってうるせーから」
「で、用件はなんなの?」
「みょうじさんが食堂に来てるんです。関東大会の前に差し入れしに来たって」

倉持が口にした先輩の名前を聞いて、ドキッと心臓が大きく跳ねてしまって動揺しそうな表情を、浅い呼吸で整える。

卒業式以来、先輩の姿を見ることも無ければ声を聞くこともなかった。
先輩との最後の記憶は、卒業式の日に告白をされて、俺が断ったあの日で止まったまま。
まだ「またね」と手を振って去っていった先輩の笑顔がまぶたの裏側に焼きついたままで。
その残像を振り払うように今までよりも集中力を増して、野球だけに向き合ってきた。
いま先輩の顔を見てしまったら、声を聞いてしまったら、今まで張り詰めて保ってきた集中の糸が切れてしまわないか。
振り払って削ぎ落としてきた残像を、蓋をしている気持ちを、思い出してしまわないか。
そんな不安が湧き上がってはすぐに萎んでいくのは、そんなことになったとしても先輩に会いたいと想う気持ちが優ってしまうからなんだろう。

「倉持、悪いけど俺の代わりに木島のトスあげてくれない?」
「もちろん、いいっすよ!」
「悪いね、木島」
「いえ、俺のことは気にせず行ってください」

倉持と木島はいがみ合うこともなく、この時ばかりは聞き分けよく俺のわがままを飲んでくれた。
二人に感謝を伝えて室内練習場を出ると、まっすぐ食堂へと向かう。
ドアを開ける前から室内から賑やかな声が聞こえてきた。
きっと先輩の周りに輪ができているという想像は容易い。
引き戸に手をかけたはいいけど、どうしても躊躇してしまって手が止まる。
先輩は俺の顔を見て、俺は先輩の声を聞いて、何もなかったふりを演じられるだろうか。

「……あ? そんなとこでなに突っ立ってんだよ、亮介」
「別に。いま来たとこだけど」
「みょうじさん来てるぞ。早く入れよ」

自動ドアのように戸が開いた先には純がいて、不審そうに俺の顔を覗き込んでから中に入れと促してくる。
俺が入ってくるのを読んでいたかのようなタイミングで出てくるなよ。
口には出さず心の中で悪態をつくと、それもまた読まれたかのように純は鼻で笑った。なんなんだコイツ。

「弟が絡まれてるぞ。助けてやれよ」
「は? なにそれ」

中に入ると先輩を囲うように輪ができていて、その中心がやたらとうるさい。多分、一番うるさいのは先輩なんだろうけど。
純は「ほら、あれだよ」と輪の中を指差すと、隙間から淡い色の髪が揺れているのがはっきりと見えた。

「……小湊、ずいぶん髪が伸びたね。イメチェン?」
「えっと、いえ、あの……」

人垣をかき分けて輪の中心へ近づくと、困惑する春市の前で同じく困惑の表情を浮かべる先輩がいた。
狼狽えている二人を周りの奴らがニヤニヤしながら眺めている。
二人のやり取りから察するに、おそらく先輩は嘘を吹き込まれて春市を俺だと勘違いしているらしい。

「なんか雰囲気も変わった? 少し背も伸びたような気が……痛っ!」
「弟に無駄絡みするの、やめてもらえますか?」

手刀を構えて先輩の後頭部に振り降ろすと、無防備なつむじにチョップがクリティカルヒットする。
ついでにぐりぐりとつむじを押すと「ハゲる、ハゲるからやめて!」と騒ぎ出したので仕方なく手を引くと、先輩は目を丸くして俺の顔をじっと見る。
瞬きを繰り返して二度見する。しつこい。しかも顔が近い。

「……え? あれ? 小湊が二人いる……? 」
「なに騙されてるんですか」
「だって、楠木から小湊がイメチェンしたって聞いて……」
「あの、名乗り遅れてしまってすみませんでした。弟の春市です」
「うわ〜〜ごめんね、勘違いしちゃって……あとで楠木のこと締めとくから!」
「いや、そこまでしなくても……!」

にこやかな笑顔で拳を握る先輩を見て、気づかれないように小さく胸をなでおろす。
卒業式から二ヶ月も経てば、案外普通に話せるものらしい。
もしくは、先輩との間に春市がいるおかげで自然と間が持っているのかもしれない。
春市と話し込む先輩の顔をまじまじと観察すると薄っすら化粧をしているらしく、コーラルピンクの唇も、ブラウンに染まるまぶたも初めて見るから、少し動揺する。
髪も胸上まであった長さが肩の高さで揺れている。毛先も軽く内巻きしていて、そのシルエットは女性らしさが増して見える。
服装も白いシャツワンピースに羽織った鮮やかなグリーンのカーディガンがよく似合っている。
そういえば、制服とジャージ姿以外の私服姿を見るのは初めてかもしれない。出会って二年も経つのに今更かよ、と思う。
それほどに先輩は野球に夢中だったということだ。

「……久しぶり、だね」
「お久しぶりです」
「春大は応援しに行けなくてごめんね。履修組んだりバイトで忙しくってさ」
「へぇ、後輩の試合を応援しに来れないほど大学生って忙しいんですね」
「その節は本当に申し訳ございませんでした」

春市への質問攻めに飽きたのか、先輩は俺の方を振り返って話しかける。
春大はせっかく決勝まで勝ち進んだというのに、先輩は一試合も応援に駆けつけることはなかった。
まぁ、大学も始まったばかりだと忙しいんだろうけど。
欲を言えば、応援しに来てほしかった……なんて本音は隠しておこう。
過ぎたことを掘り返して、先輩のことを困らせたいわけじゃない。

「弟くん、口元とか鼻筋とか小湊そっくりでびっくりした」
「まぁ、兄弟ですから」
「性格はあんまり似てないよね。弟くんは引っ込み思案な感じ?」
「アイツ、見た目より頑固だし気も強いですよ」
「へぇ。性格までお兄ちゃんそっくりなんだ」
「……ニヤニヤするのやめてください」

そういえば、先輩は人をからかう時にニヤニヤと煽るように笑う人だった。
薄化粧で大人びて見えた横顔が急に幼くなって、見慣れた表情に懐かしさすら覚える。
たった二ヶ月顔を合わさないだけで、先輩の変化が増えていることに少しだけ寂しさを感じてしまう。

「でもさぁ、弟が青道に入るなら教えておいてよ。びっくりするじゃん」
「みょうじさんのこと驚かそうと思って、黙ってました」
「せ、性格が歪んでいる……!」
「え? 今なんて言いました?」
「小湊はヤサシイナって言いました」
「それならいいんですよ」

この感じのやりとり、本当に久しぶりだ。
お互いに軽口を言い合って、最後は俺が先輩を言いくるめる。
先輩は面白くなさそうな顔をして、唇を尖らせるのがお決まりだった。

「あ、そうだ。差し入れ渡すの忘れてた。はいこれ、どうぞ」
「ありがとうございます」

おもむろに肩にかけていたトートバッグを漁ると、その中から赤いパッケージの小箱を取って差し出す。
受け取ったそれはウェハースをチョコでコーティングしたあの菓子だ。

「……これってもしかして」
「"きっと勝つ" に掛けてみたんだど……どう?」
「すごい面白いです。笑いのセンスありますよ」
「感情こもってなさすぎる! やり直し!」
「さすがみょうじさん! 笑いのセンスがあるなー」
「やっぱり小湊にはあげない! 返して!」
「一度貰った物は返品しない主義なので」

赤い箱を奪おうと伸びてきた手を軽やかに躱す。
相変わらず運動神経は残念なくらいに無いらしい。
先輩は不機嫌そうに眉を寄せる。その表情を見て俺が笑う。
ただそれだけのことが懐かしくて、楽しくて、心が満たされるのだから俺はやっぱり単純な人間だ。

「そういえば初戦の横学戦は、もちろん丹波が先発するんでしょ?」
「まぁ、そうなるでしょうね」
「横浜学園って打撃の良いチームだよねぇ。丹波は立ち上がりと終盤のスタミナが心配だなぁ」
「丹波のことなら春大でも好投してましたし、心配いりませんよ。それに、点を取られても取り返せばいい」
「今のチームはどの打順からでも得点できるもんね。本当にみんな、頼もしくなったなぁ」

先輩は眩しそうに目を細めて、後輩たちの姿を眺めている。
後輩たちは優しい眼差しで見つめられていることに、俺以外の誰も気付かない。
先輩はいつだってこんな風に、そばで見守ってくれていた。
今は立場が違ったとしても、前と同じようにチームを想ってくれている先輩の優しさを肌で感じる。昔からずっと変わらず温かい人だ。

「じゃあ、渡せてない子たちにも配ってくるね」

先輩のトートバックの中にはまだ大量の赤い箱が入っているのがちらっと見えた。
きちんと部員の人数分買ってきてくれる律儀なところも、先輩らしい。
先輩が食堂を後にすると、集まっていた部員たちは各々の部屋や自主練へ帰っていき、室内はいつもの静けさを取り戻す。
俺も素振りでもしようかと踵を返した時に、春市が声をかけてきた。

「ねぇ、兄貴」
「なんだよ、春市」
「今日初めて話したけど、みょうじ先輩って楽しい人だね」
「なんだ、わざわざそんなこと言いにきたの?」

春市は声を弾ませながら、こう続ける。

「だって、兄貴もみょうじ先輩と楽しそうに話してたから。なんか珍しいなと思って」
「俺だって談笑くらいするよ」
「いや、なんていうか、兄貴とみょうじ先輩のやりとりを見てたら……」
「なんだよ、もったいぶって」

さっきまで楽しそうにはしゃいだ声をしていたのに、顎に手を当てて少し考え込むような仕草を見せる。

「二人とも楽しそうに冗談言い合ってて……まるで夫婦漫才みたいだなって」
「……春市。言葉選びには気をつけろ」
「ごめん、兄貴! 俺なにか気に触るようなこと言った……?」
「みょうじさんにとって俺はただの後輩で、俺にとってみょうじさんは……ただの先輩でしかないんだよ」

昔から隠したいことがある時に限って勘が鋭いのだ、春市のヤツ。
念のためにキツめに釘を刺しておけば、聞き分けの良い弟は兄貴に逆らうこともない。
しゅんとうなだれる頭に軽くチョップを落とすと、春市は何か言いたげにじっと俺の目を見る。
今度は何を言い出すつもりなんだ……まったく。

「なんだよ。まだ何か言い足りないのか?」
「……兄貴、みょうじ先輩のことずっと目で追ってたよね」
「……」
「兄貴にとって、みょうじ先輩って本当にただの先輩なの?」
「…………バーカ。深読みし過ぎなんだよ、お前は」

不意に春市から確信を突かれて、話題を逸らすために乱暴に頭を撫でて、ぐしゃぐしゃに髪を混ぜる。
サラサラな髪は指通りがとても良い。俺も春市も髪質は母さんによく似ている。昔はよくこうやって頭を撫でてやったな。
春市からの恨めしそうな視線を背に受けながら食堂を出て、すぐ近くの青いベンチに腰掛けた。
さっそく先輩から貰った赤い箱を開けて、包装を破って菓子を口へ運ぶ。
サクサクとした食感を楽しみながら、甘い物なんて久しぶりに食べるなと思い出す。
俺は辛い物好きを公言しているから、甘い菓子を勧められることもなければ自分で買うこともないし。
去年、先輩から貰ったバレンタインのチョコ以来かもしれない。
舌の上で溶けていくチョコレートの甘さを感じながら、バレンタインのチョコの味を思い出すようで。
あの日、本命に渡しそびれたと言って強引に貰い受けたチョコは、実は俺の為の物だったと、今更になって気付く。
頬を赤らめながらチョコを差し出してくれた先輩の表情を思い出すと、辻褄が合う。

先輩はいったい、いつか俺のことを想ってくれていたんだろうか。


「亮介、どうした?  顔が赤いぞ」
「……ちょうどいいところに来たね、文哉」
「え、なんだよ急に」
「よくもみょうじさんに嘘ついてくれたね……お仕置きだよ」
「あ、やっべ。みょうじさんに嘘ついたのもうバレてる」

自主練を終えて帰ってきた文哉が、ちょうど良いタイミングで俺の前を通りがかった。
手刀を構えながら立ち上がると、文哉の表情が強張る。
背後から近づいて来る慌ただしい足音には、まだ気付いてないらしい。

「あー楠木いた! よくも騙したな! 許さないからね!」
「うわぁ、みょうじさんにも見つかった……」

二人で文哉を挟み撃ちにして、同時にチョップを構えて振り下ろす。
痛みに悶絶する文哉を横目に、イタズラが成功したような悪い笑みを交わす俺と先輩の姿を、春市に目撃されていたと知ったのは翌日のことだった。