03[→ side:h16 →]V

 ゆっくりとした時間が流れ、外はもうすっかり暗くなっていた。
 食器の片付け、台所の掃除も終え、静かな部屋の椅子に座る。
 近くの窓には分厚いカーテンが閉められ、その僅かな隙間が気になり、閉め直そうと立ち上がる。少しだけ外の様子を見てみると、建物の窓から漏れた明かりや街灯の光が幾つも見えた。だが夜なので、町並みが見渡せるほど明るくはない。未来の都会の風景を見てみたかったが、ちょっぴり残念だ。
 さっとカーテンを閉め、窓の傍、真斗が利用していたクローゼットと並んだベッドを通り越し、その隣のベッドに腰掛ける。
 この部屋には、勿論、ベッドがふたつある。寝具や布団等は部屋に合わせてお揃いにしてあるのか、見た目はほぼ同じだが、家具の配置を考えて、今座ったベッドが春歌用だろう。ベッドの真横に壁に沿ってお気に入りの洋服箪笥と、更に隣にクローゼットが並んでいる。そしてその向こうに仕事部屋への扉がある。つまりベッドに寝転がった時、頭上の壁越しに仕事部屋が広がっている。
 部屋の内装を満遍なく見渡していると、気が抜けたのか欠伸をした。欠伸と一緒に身体中の力が抜けていくように、春歌はふかふかで暖かいベッドに寝そべった。寝心地の良さと部屋の暖かさに眠気が襲い、気を緩めれば寝入ってしまいそう。
 部屋が広すぎてあまり意識していなかったが、真冬で、しかも広い割りにあまり寒さを感じず過ごしやすい。音が全くしていないのでわからないが、空調が効いているのかもしれない。もしくはお屋敷自体が熱を逃がさない造りなのか。
(そういえば時計の音も聞こえないなぁ)
 先程までは、浴室で真斗が湯を浴びている音などが響いていたのでわからなかったが、静かになって耳を澄ますと本当に静かな部屋だ。時計の秒針の音も、電化製品等の音も、何も聞こえない。
 少し心細くなる不思議な空間。時折浴室から湯を跳ねる音が聞こえると、酷く落ち着く。
 目蓋が閉じられてはなんとか抉じ開け、気づいたらまたぱちぱちと瞬きをして、意識が浮き沈みを繰り返す。もしかしたら、その間で何分か眠っていたかもしれない。
 寝てしまってはいけない。真斗と一緒に、春歌を元の時間に戻す為の手立てを何としても考えなくてはいけない。なんとか、帰る方法を……。
 そういえば以前にも似たようなことがあった気がする。朦朧とした意識の中で、夢を見るように思い起こす。
(あの時も真斗くんはお風呂に入っていて、私はとても眠くて、真斗くんが優しく布団に寝かせてくれて、それで、真斗くんに突然……キスを…………)
 回想の最中、そのまま夢の世界へ行ってしまいそうな心地の中で、予期せず何者かの気配を感じた。重い目蓋を開ける前に、柔らかな感触が唇をそっと包み、甘く吸われた後、ゆっくりと離れた。
 覚えのある感覚に目を開け、いつものように彼の顔を見る。そこには優しく此方を見つめ、微笑む彼――。
「……えっ…」
 ――ではなく(ではあるが)、そこには読みきれない無表情で春歌を見下ろす10年大人になった真斗がいた。
 春歌は驚き、朧気だった目もばっちり開かれる。指先を口元へあてがい、目が点になった。夢心地だった体は突然には動かせず、ゆっくり起き上がろうとすると、真斗に押し返されゆっくりと寝かされてしまった。そしてまた真っ直ぐ見下ろされる。こんな景色を今朝も見た。
(く、唇を…!)
 春歌は眠気で回転の遅くなった頭で混乱していた。
 いつの間に風呂から上がったのか、どうして上にのっているのか。と言った事にまで思考が至らない。
 単純に、唇を奪われたことが衝撃的でショックで、でも不思議と素直に受け入れられるのは相手が真斗だったからで、けれど彼は自分が知る彼の10年後の存在で――
(わ、私の唇は真斗くんだけのもので、でも彼は正真正銘、聖川真斗というその人で……えっと…?)
 ――つまりちっとも単純ではなかった。
「男の前で無防備になるなとあれほど言っただろう」
(……あれ)
 迫る彼の顔を押し退ける為の理由を探していたはずだが、何故そんな必要があるのかわからなくなった。
「もっとも、我慢するような俺ではなくなったがな」
 拒む理由が、どこにもなく。
「真斗さ……ぁ」
 呼び止める言葉ごと、彼の柔らかい唇に食べられてしまい、そのまま味わうようにキスをされる。
 眠気から覚めきらないふわふわした感覚で、口を塞がれ、どうやって呼吸していたかも忘れた。体が麻痺したように言うことを聞かず、力無く彼の腕に縋る。
「…ぁ……んんっ…」
 鼻から抜けるような自分の声が遠く感じる。全部飲み込まれてしまっているようで。
 うまく息が出来ず、意識が遠退き始める。腕がするりと布団の上に沈むと、真斗は漸く唇を離した。
「ん、はあっ、は……」
 途端思い出したように体が自然に空気を求めた。胸いっぱいに何度も呼吸を繰り返し、一気に全身に熱が駆ける。
「目が覚めたか?」
 息も落ち着かない内にそう聞かれても、うまく声が出せない。
 どうにか言葉を絞り出そうとしていると、揺らぐ視界の中で彼が小さく笑った気がした。
「まだ目が虚ろだな」
「あ、や…ぁっ」
 瞳を覗き込んだ後、真斗は悪戯な笑みを浮かべ、容赦ないキスを降らせた。
 唇を喰み、優しく吸ってはわざとらしいまでに音を立てて離れて、また繰り返される。
 熱い舌で唇をなぞられると、力が抜けて思わず声が漏れる。その隙を狙ったかのように舌を入れられ、口腔を嬲られる。
「ふぁ…! ぁっ、ん」
 唾液を絡めた柔らかい舌同士を擦り合わされ、腰から何かが駆け上ってくる。与えられる刺激が強すぎて、必死に背中に縋り付く。
 舌を強く吸われ、耳に残る水音を立て、漸く離れたと思ったら、再び舌を口腔の奥まで挿し入れられる。
 苦しいのに、不思議と疼きを覚えてしまい、彼の背にまわした指先に力を込めることで自分を誤魔化した。味わったことのない性急な口付けに気がおかしくなってしまいそう。
 普段の真斗は、多少強引な時もあるが、ただひたすら春歌を求めるような。そんな気持ちが痛いほど伝わってきて、心がとても満たされるキスをしてくれる。
 しかし目の前の彼は、欲を押し付ける、与えてくる、といった印象を受けた。
 春歌にはこの込み上げる衝動の正体をまだ理解していないが、真斗は今、求めると言うよりは、相手に求めさせるキスをしていた。脳を誘惑する快感を重点的に与え続け、体にはあまり触れず、口付けだけで攻め立てる。
 つまりその気にさせたがっている。何年も心も体も余すこと無く愛してきたので、この程度のことはお手の物である。
「ぁ、ふ……っん」
「どうした?」
 熱くなった心臓を掻き出すようなキスをしておいて、そんなことを聞く。春歌は涙目で真斗を見上げる。
「ぁ、真斗さん……あの、なんで」
 この後の行為を予見させる濃厚なキスに、さすがに春歌も焦る気持ちが芽生えた。
「"なんで"? では、駄目なのか?」
 質問を質問で返す真斗。
 形だけ焦りはしたものの、駄目と拒否する理由も意味も気力も今の春歌にはない。
 拒もうと思えば拒める、嫌だと言えばきっと真斗も手を引くだろう。しかし積極的な恋人を押し返す理由がなかった。真斗のキスのせいで気分もそれなりに昂っているので、正直なところ嫌ではない。
「わ、かりません……」
 この状況に何か問題があるのかないのか、よくわからなかった。相手が真斗なら、どんな状況でも情事に至っていいのだろうか。片方が過去から来た恋人でも? 駄目と断言できない分、複雑すぎる心境が抵抗を生んでいた。
「そうだな。俺にもわからない」
 春歌と同じように、真斗も正直な気持ちを口にした。同じ思いを抱いていると感じて、僅かに安堵して春歌は目を細めた。
 本来の相手ではないかもしれない。でも、真斗が真斗、春歌が春歌であるなら、理由はそれだけで充分だと思った。
「あっ……」
 気が緩んだ春歌の肩口に真斗の指先が這い、ぞわぞわとしたもどかしい感覚を思い出す。
 ぱっと顔を逸らし手で顔を覆うと、簡単に手首を捕らわれ、ベッドに押し付けられた。
「いちいち恥じらうな」
 呆れたような溜め息混じりの声が降ってくる。朝にも似たような台詞を聞いたか、今のような甘い空気は纏っていなかった。
「そんなことでどうする。まったく……これから何をすると思ってるんだ?」
「あぅ、真斗さん…っ」
 顔を横に向けさせられ、首筋に柔らかくキスをされる。熱い吐息が首筋の弱い所に吹きかけられ、擽ったさ以上に言い知れぬ感覚に脚を擦り寄せた。
 もぞもぞと動かす春歌の脚の間に、真斗は自分の片足を割り込ませ跨がり、もう片方の春歌の素足に触れ、膝を折らせ持ち上げる。
「やっ、真斗さ……あの、待ってっ」
「なんだ」
 完全に真斗のペースに乗せられる所だったが、春歌は何とか声を絞り出した。
 まだ、もっと大事なことが残っている。
「あの、名前……」
「…………」
 脚のラインをなぞっていた手の動きがぴたりと止まる。
「名前、呼んでください……私の……」
「…………」
 彼に、まだ一度だって名前を呼んでもらえていない。
 他の不安や誤解は解けても、これだけはどうしても気になっていた。たまたま呼ぶタイミングがなかった、という訳ではないと思う。
「真斗さん……?」
「っ……」
 顔を見つめていると、硬直していた表情が、切なく泣きそうなものに変わっていく。狼狽えていると、ぐいっと顔の距離を詰められ、鼻先が付くほど近くで瞳を見つめられた。
「それはお前のことか? それとも……あれのことか?」
 あれと言った時、微かに真斗の瞳の揺れに気づき、"あれ"とは未来の――この時代の春歌を指しているのだとわかった。
「どっちもです」
「ふ、欲張りだな」
 艶やかしさを孕む笑みに魅入られ呑まれそうになりながらも、春歌も真斗の目を見つめ返した。
「……春歌」
 ほんの一瞬だけ間があったものの、今まで聞けなかった分、案外あっさりと呼んでくれた。
 はっきりと、囁くように。
 春歌は真斗に呼ばれて初めて、初めてここにいる実感が持てた。
 この世界は全て夢の中かもしれない、私は別の誰かかもしれない。頭の片隅で根付いてしまっていた恐怖にも近い思い。
 迷子だった自分が漸く確立できた気がした。不安だったのは、何よりも、春歌が自分自身を見失っていたから。ここにちゃんといたんだ。
「春歌……いったい春歌を何処へやってしまったんだ」
「え?」
 握られた手の力が強まる。
「俺の春歌を何処へ隠してしまったんだ……」
 でも真斗は、まだ探していた。本当の春歌の存在を。
 思い出の中から飛び出してきたような、若き日の彼女ではなく。
 長い歳月、数多くの苦楽を共にし、かけがえのないパートナーとなり得た彼女を。
「ここにいるのに、お前は俺の春歌ではない。そんなことはわかっているんだ」
 弱音を吐露するように悲痛な顔を見せる真斗。自分が求める存在とは違うと言いながら、今春歌と握り合う手は固く離れない。
 平然とした顔をして、ずっと案じていたのだ。過去に消えた春歌を。"思い出"に構っていられないほど。名前を呼んで帰って来てくれたなら、どんなに簡単なお話だろう。
 重たい息を吐いて、春歌の胸に凭れる真斗。さらさらと流れる彼の髪を、握られていない手でさっと撫でた。
「春歌は、ここにいます」
 ゆっくりと顔を上げる寂しげな真斗の頬に、手を滑らせ、そっと微笑む。
 あなたが呼んでくれたから、もう何も怖くない。
 あなたにも教えてあげたい。私はここにいる。私は私しかいない。
「今この世界に、私はひとりしかいません。私は、世界にひとりだけの、聖川真斗というあなたを愛しています。誰にだって負けません。私は今この世界の誰よりもあなたを愛していると言いきれます」
 あなたが呼んでくれたその瞬間から。
「私は他の誰でもない、七海春歌なんですから」
 彼の瞳を見つめる。悲しんで陰っていた色がすっと引いて、真っ直ぐな瞳が春歌を映していた。
「……お前はお前だな」
 安堵した微笑みを湛え、頬に触れた春歌の手に自分の手を重ねた。暖かい手の平が滑り降り、手首を優しく捕られると、いつかのように手の甲にそっと口付けが落とされる。
 そして両の手を繋ぐと額同士を重ねられた。春歌は身を委ねて目を瞑る。
「……ありがとう、ハル」
「私の方こそ」
 ふたりで笑い合うと、重ねていた額に真斗が優しくキスをしてくれた。春歌は嬉しさからまた笑みを溢す。
 暖かい気持ちで目を開けると…………はて、いつの間にか真斗が腰の上に跨がっていた。
「では、仕切り直しといこうか」
 彼は寝巻きにしては上質そうなワイシャツのボタンを寛げさせ、利き手の袖をくいっと上げると不敵に微笑んだ。
 先程までの苦しげな表情が嘘のようで、あまりの切り換えの早さに全部演技だったのではないかとさえ思える。
 それに邪魔だったのか、右手でサイドの髪を後ろへ掻き上げた様は、艶っぽくてかっこ良すぎて反則だ。更に胸から腹筋に掛けてのはっきりとした線が視界に入り、恋人の情欲的な姿に目眩を起こしそう。
 春歌がひとりで悶絶している間に、滑らかなブラウスの上から優しい手つきで触れられる。そのまま慣れた動作でボタンが外されていき、羞恥から顔を逸らした。
 その時ある事を思い出し、知られたくない恥ずかしさから一度抵抗しようとも思ったが、それは彼も重々知っている事だろうと気づき、顔を赤くするだけに留まった。
「下着は合わなかっただろう」
「は、はい……」
 ある事とは、下着の事。サイズが全く違ったが、身に付けない訳にもいかず、仕方なく大きなブラジャーを借り着用していた。勿論ぶかぶかだったので一日ずっと気にしていた。
「そう気にするな。お前もこれがきつく思えるほどになる」
「ええっ? ま、まさか……」
 今思えば、未来、春歌が真斗と共に居られることを信じられたと同時に、部屋の女性物の衣類は全て春歌の物と認めたということであり。それはつまりこの下着も、スタイルを隠せないあの濃紺のドレスも、大人の春歌が着こなしていると言える。何とも言えない気持ちだ。
 気づけばブラジャーは取り去られ、自信のない乳房が晒される。恥ずかしくて咄嗟に隠すと、真斗は小さく笑った。
「隠したところで、俺はお前の事で知らぬ事はないぞ」
 簡単に手を取られ、代わりに真斗の手がそっと胸に触れる。
「んっ……」
 やわやわとなぞりながら大きな手が胸を包み込んでいく。外側から内側へ甘く搾り上げるように、手のひらと指の腹全体を使って刺激を与えられる。
「……ぁ、ひゃっ!」
 優しい手つきに油断していると、不意に胸の飾りを摘まれ声を上げる。咄嗟に悪戯な手に手を重ねると、彼は目を細め手を握り返した。
 そしてそのまま、本人の意思と関係なく反応を示し固くなった頂きに舌が伸ばされる。
「あっ、ん」
 生暖かい舌が縁をなぞり、その中心を弄られる。すると反対の胸にも指が伸ばされ、遠慮なしに乳首を刺激された。呼吸が上がり、口を塞げずうまく声を抑えられない。春歌は手を唇に押し付け、意識を逸らそうと天井を見る。
 そこには大きな電気がふたつ並び、広い部屋を照らしていた。その明るい光に自分の裸が露にされようとしていると気づき、春歌は胸に吸い付いていた真斗の頭を両側から包んで止めさせた。
「っぁ、灯り……消してください」
「見えなくなるではないか」
「だって、恥ずかしいです……」
「……」
 少々不機嫌に顔を上げた真斗が、渋々ベッドサイドの小テーブルに腕を伸ばす。
 長い指でそこにあったパネルのような物を操作すると、天井の明かりがゆっくりと消えていき、代わりにテーブルに設置されたランプが暖かい光を灯した。
「これで良いか」
「こ、これ、明るい……っ」
 室内が暗くなったのは良いが、傍の淡い暖色のライトが点いたことで、より官能的な雰囲気を醸し出してしまった。
 その光に照らされた真斗が妖艶に微笑めば、それだけで扇情的で心が震えた。
「うう、やっぱり恥ずかしいです。見えちゃう……」
 自分が見られることが恥ずかしかったのだが、こうして雰囲気が変わると真斗の艶やかな姿が、よりくっきりと目の前に広がり、どこを見ていれば良いのかわからない。
 困った顔で真斗を見上げると、彼は何故か呆然として春歌を見つめていた。
「…?」
「いやその、昔のお前はそんなにも初々しかったのかと、な……」
「えっ」
 どうやらあまりに恥ずかしがっている春歌に呆気にとられていたらしい。
 そんなに意外そうな顔をされても、成長して大人になった自分がいったいどんなリアクションをしているのか検討もつかない。
 手を握られて笑ってその腕にしがみつく自分も、ベッドに誘われ自らキスで返事をするような大胆な自分も全く想像できない。大人になればできるようになるのだろうか。
「愛らしいな」
「…!」
 色っぽい微笑みで囁かれ、ますます顔を赤くしていく。
「そ、そんなこと……」
「本当に思っている。あれはもう、そのように恥じらってはくれないからな……」
 赤く染まった頬から、首筋、鎖骨を撫でられる。そのまま首元に口付けられ、鎖骨をなぞるように舌が這っていく。
 甘い刺激に声を上げると、真斗は笑って春歌の胸に触れた。優しく揉まれるその度に春歌は恥ずかしい声を上げ、その度に真斗は嬉しそうに微笑んだ。
 息も上がってきた頃、優しかった手つきから一変して貪るようなキスをされる。自然と漏れた声さえ飲み込まれてしまう。
「ん、っん……!?」
 口蓋をなぞる舌先に気を捕られていると、胸の飾りに真斗の指が触れ、中心をこりこりと練るように弄ばれる。
「ふぁ、んん…っ!」
 急な強い刺激に自然と声を上げるも、叫ぼうとしても唇は真斗に奪われている。やり場のないもどかしさに苦しさを覚え、真斗の背に手をまわし縋りつき、脚を擦り寄せる。
 擦り寄せようとして気がついたが、知らない内に、腿の間に真斗がいて、彼の腰に脚を絡めるような体勢になってしまった。
 胸に触れていた手が腰へ下りて行き、スカートの裾を豪快に上げ、開かれた脚の付け根から太股へ、肉感を楽しむように指を食い込ませられる。
「んん、やぁ…っ」
 重なった唇の合間から、春歌のくぐもった喘ぎ声が漏れる。
「ははっ……たまらないな」
「はぅ…」
 真斗は唇を離した途端、声を上げて笑い、頬に吸い付いた。春歌の反応を見ては完全に楽しんでいた。
 そうして一度体を起こすと真斗は素早くシャツを脱ぎ捨て、春歌のスカートをずり下げる。ややサイズの大きかった肌着をゆっくりと脱がされ、すかさず股の間を占拠された。
 悲鳴を上げる春歌の初々しい反応を楽しみながら、細い脚を掬い上げ、真斗は暴かれたその奥を見つめる。
「や、あんまり見ないでください」
「………こんなものか…」
「…? あの」
「思えば16歳だからな……」
 春歌の陰部を観察しながら、何やらぶつぶつと一人言を言っている真斗。彼が何を考えてるのか全くわからず、一先ずその視線から遮断しようと股に手を伸ばす。
 するとほぼ同時に真斗が春歌の股の間に顔を近づけた。
「えっ……あ、ぁん!」
 その瞬間、熱い物が秘部に触れ、卑猥な音を立てながらまさぐられる。
 じわりと濡れ出してきていた愛液ごと、真斗が秘部に舌を這わせているのだとわかり、羞恥心と急に与えられた快感に襲われ嬌声が上がる。
「んあっ、あ、真斗さん、そんな……っん」
 舌で攻められるのは初めてでは無かったが慣れるものでもなく、真斗にしか知られていないそこに唇を寄せられていると言うだけで身が弾け飛びそうな思いだ。
「あ、ああっ……! そ、んな、吸っちゃ、やぁああ」
 陰核を吸われ頭が真っ白になる。あまりの刺激に、無意識に脚の付け根で動く真斗の頭を押さえ抵抗しようとしていた。もたつく指先で彼の髪の毛を捉えるも、指通りの良い髪はさらりとすり抜けて、内腿を擽るだけだった。
「だめ、ぁ、わたし……っああぁ!」
 小刻みに動く舌と熱いキスに堪えられず、弱まることを知らない愛撫に熱がどんどんと高まり、春歌は声を上げた。両足を引きつらせ、どくんと全身が波打つような鼓動に、春歌は大きく息を吐きながら脱力した。
 肩が大きく上下して、呼吸を繰り返しながら意識を取り持っていると、身体中から汗がじっとりと吹き出ていた。真冬の夜に裸でいるのに、こんなに身体が熱くなれるものかと、虚ろな意識の何処かで妙に感心してしまう。
 ふと、下腹部を暖かい手で撫でられ、そこにキスをされる。
 見下ろすと真斗が笑みを浮かべて頭部に唇を寄せた。
「こんな細い体で、よく若い俺に付き合っていられたな」
 愛しげに腰に触れられ、彼の声が低く耳に入る。
「ま、真斗くんはいつも優しいから……」
「優しい、か」
 過去の自分を懐かしんでいるのか、遠い目をした真斗の大きな手がするすると腹を撫で、再び陰部に長い指が添えられる。
「ひゃ、あ……ぅ」
 先程とは打って変わり、存分に潤い、触れられた指が動かされる度にぬるぬるとした感触があり、真斗の唾液だけでは説明できない濡れ方に春歌は顔を赤らめた。
 耳まで染まった春歌の瞳を見つめる真斗。
「――本当の俺は、優しくないかもしれんぞ」
「えっ?」
 どこまでも優しげで綺麗な目。その瞳の奥は熱く揺れていた気がした。
「それって、どういう意味ですか…?」
 ゆっくりと動かされる指に気をとられそうになるも、春歌は真斗の手をぎゅっと握った。
「知りたいか?」
「ぁっ、知りたいです……」
 けれど、真斗はただ笑い、潜めた情欲の色を一瞬の瞬きで隠してしまった。
「お前には、まだ早い」
「きゃ、ぁ……!」
 秘部から中へ指先が入り、そのまま一気に奥まで挿し入れられた。突然襲う電撃のような鈍い痛みで、握った手にいっそう力が加わる。
「あ…あ……っ」
 真斗は急がず、馴染ませるようにゆっくりと出し入れを繰り返した。恥ずかしさや、自覚も無いであろう快感に顔を赤くして、喘ぎを漏らす春歌を愛で、指が食い込むほど握られた手を握り返す。それが春歌を大きく安心させた。
「あっ、っ、んん……!」
 春歌を気遣うペースで、いつの間にか二本に増えていた指がしっかりと中を解してゆく。傷つけない為の行為とわかっていても、怪しい指使いでぐちゅぐちゅと探られると、春歌は我慢ができない。
 真斗の肩にしがみついて、息も絶え絶えに吐き出される声。膣を慣れさせるだけの手つきでも、確実に春歌の快感を誘う真斗の長い指に、無意識に揺れる腰。止めたくても、春歌も知らない快楽に次から次から襲われては、耐えようもない。
 呼吸が乱れ、自我が遠退いてしまいそうな不安に見舞われ、春歌は真斗の髪を引っ張ってしまった。
 すると真斗は手を止め、指を抜くとズボンに手を掛けた。
 春歌は自分のことばかりで今まで気がつけなかったが、真斗の下半身を見ると軽い生地のズボンを押し上げ、男根を主張していた。
 とろりとした目で、張り詰めた自身を見つめてくる春歌に一度背を向け、真斗は元々用意していたのかポケットからビニールの小さな小袋を取り出した。透明なフィルムの避妊具を装着し、再び春歌に重なる。
「真斗さん……」
「…こわいか?」
「こわくないです」
 上気した顔はそのままだが、僅かに震えている小さな手を目の端に捉え、真斗はそっと包み込んだ。
 手に触れられたことで、それが震えていたことに気がついた。なぜここに来て震え出すのか、本人にはわかりかねた。
 愛する相手と信じて今に至ったが、ここに来て心の準備が整っていないのだろうか。貫かれ、普段と違ったら、何か違ったらどうしよう。そんなところだろうか。そんなものは、春歌本人にも、真斗にも、誰にもわからないことだ。
「ではいくぞ」
「はい…」
 真斗は男根の先端を春歌の密壺へと押し込み、焦りは微塵も感じさせず、ゆっくりと、押し進んだ。
 迫り上がる圧迫感に全身の意識が下腹部へと集中していく。割って入ってくる重い痛みをどうにか逃がすため、真斗の手を握り返し、白いシーツを破いてしまいそうなほど爪先で引っ掻いた。
「ああっ……あ、んんっ」
「……痛むか?」
 肉棒が半分ほど入ったところで、真斗に頬を撫でられた。
 春歌はこんなに息も苦しいほど真斗を全身で感じているのに、ひとりだけ余裕の表情でいる彼に置いて行かれる気がして、なんとか笑顔を作る。
「痛くない、です」
「そうか。ではこれはどうだ……」
 そんな春歌の頑張りも露ほどに、次の瞬間、真斗はぐっと力を込め、春歌を突き上げた。
「っああぁ!」
 途端に春歌は悲鳴を上げ、無意識に真斗自身をきつく締め上げた。
「っ……どうだ?」
「はあ、は……どうっ、て…あぅ」
「気持ちが良いだろう?」
「え、や、その…っ」
 腰から身体中が痺れていく感覚の中、艶っぽい声色で囁かれ、余計に肉棒を包む器を震わせてしまう。
「わからないか? ではもう一度……っん」
「あっ、ああんっ!」
 心地よく男根を締める春歌に気を良くしたのか、真斗はまた春歌の最奥をぐっと突き上げ、一回目よりも媚びるようなはしたない声が彼女の口から溢れた。
「どうだ?」
「も、だめです…っ真斗さん」
 意地悪く具合を尋ねる真斗にどう答えれば良いのかわからず、うるうるとした春歌の瞳から一筋涙が溢れた。
 奥まで深く貫かれ、春歌を慰めるよう腰をゆるゆると回しながら、最も深い部分を甘く引っ掻く。
「あ、あぁっ……はぅ、やぁ真斗さ……あん」
 強い快感の直後にもどかしく春歌を燻らせる真斗の動きが余計心を掻き乱される。真斗はただ妖艶な笑みで春歌を愛でるだけで、それ以上強く腰を揺すりも、触れもしない。
 どうして彼はそんなに余裕なのだろう。大人だから? 私が子供だから?
 焦れったい刺激にたまらず、涙をいっぱいに溜めた瞳で真斗を見上げ、名前を呼ぶ。
 春歌のその声も潤んだ瞳も、我慢が利かず無意識に動いている腰も、全部を見て、一頻り楽しんだ真斗は、漸く春歌を抱き締め、唇にキスをした。
 そしてだんだんと腰の動きが速まり、春歌はまた、絶頂へと昂っていく。
「あっ! あああっんあ!」
 数回強く突かれただけで、元々余裕がなかったのか、春歌はすぐに果ててしまった。
 絶頂を迎えた余韻もそこそこに、未だ欲を吐き出せず固く留まった肉棒が、また律動を開始する。
「ぅんっ…ん、あっ、また、やっ…!」
「充分、待っただろう…」
 再び動き出した真斗の首に腕をまわせば、首筋に汗が伝っているのが見えた。荒く吐き出される春歌の喘ぎと、真斗の息づかいが重なり、互いの熱が共に上昇していく。
 より春歌のいい所を攻め立てられ、腰を打ち付けられる度に揺れる乳房にも時々舌先で撫でられた。穿たれているその時に胸を舐められるとは思わず、全身が跳ね上がった。
「ハル……」
「はっ、あっ、ま、真斗くん…!」
「っ……、はぁ」
 無意識だろう。"ハル"と呼ばれたことで錯覚したのか、抱かれた腕の中で"真斗くん"を感じていたのか。
 必死にすがる春歌に全身が震え、真斗も律動が速まる。
「ハル……お前のことを、ずっと……」
「あ、あ、真斗さ、ぁっああ…!!」
 中をきつく締め上げる春歌に続いて、真斗も腰を深く打ち付け果てた。
 全身の筋肉が痙攣を起こしたように震え、がっくりと春歌の力が抜けると、真斗はゆっくり自身を抜き出した。荒い呼吸のまま唇を重ね、真斗はゆっくり離れていった。
 虚ろな目で彼を追うと、真斗は冷めやらぬ眼差しで春歌を見下ろし、そっと頭を撫でる。
 それがとても心地よく、一気に押し寄せる疲労感も相俟って、春歌は自然と目蓋を閉じていく。
 暗闇の中で真斗の声を聞いた気がした。
「……早朝、社長に相談に伺おう。それとそうだな、愛島にも同席してもらう。この手の事に詳しいやもしれん。いつまでもこのままと言うのは困るからな、春歌……ハル?」
 春歌が過去へ帰るための手立てや、それまでの間どうするか。
 まず仕事のことを優先した明日の予定に同意を求めるが、真斗が呼び掛けても返事がない。枕に沈んだ顔を覗き込むと、春歌は寝息を立ててすやすやと眠っていた。
「呑気なものだ……自分のことだろう」
 春歌の身体を拭ってやり、きちんと後始末を終えると暖かい布団を掛けてやる。一緒にそのまま眠ってしまいたかったが、真斗にはまだひと仕事残っており、一度ベッドを離れることにした。
「おやすみ春歌。今の内に、せめていい夢を」
 かわいい寝顔を起こさないようキスを落とし、灯されていたランプを静かに消した。



To be continue...




2014.09.03. とばり


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