「雛、マネージャーにならないかい?」
「雛センパイ…俺、アンタのことカンチガイしてました」
「お前ら、俺らの仲間に手ェ出してタダで済むと思うなよぃ」
「雛なら俺は平気じゃき」
「貴女たちも雛さんのような慎ましい女性を見習うべきです」
「大丈夫か、無理すんなよ……雛」
「お前の声が俺たちを奮い立たせるのだからな」
「雛、お前は何もしなくていい。其処に居るだけで、充分だ」

 夢にまで見た、テニプリの世界。
 ―――嗚呼、なんて素敵な世界なのかしら!

「…うふふ!みーんな、ダァイスキ!!」

 みんな、雛だけを見てくれる。雛だけを、愛してくれるの。
 こんな素敵な世界、手放せるわけないでしょう?

「(嗚呼、神様。これからもずっと雛を、愛して愛して愛してね?
 精市も雅治もブン太も蓮二も、景吾も侑士も蔵之介も周助も! みんなみんな、雛のものなんだから!)」










『…ハァ、《王者》も落魄れたものですねー。』

 「前の威厳もありゃしない、サイアクですよ。」と言葉を吐く。

 ―――テニスコートを見渡せるとある教室に、一組の男女の影。溜め息を溢しながらその光景を見ていた人物がいた。

「……運命を操られてんだから、仕方ねぇんじゃねぇのか?」

 窓枠に肘をかけながら悪態をつく女に対して、男はその隣で壁に凭れ掛かり両腕を組んでいた。

『そうですねー…何だっけ、アレですよアレ…【逆ハー補正】ってヤツ?』
「俺が知るかよ。お前のがそういうことには詳しいだろ」
『うぅー…ご主人が冷たいです…』

 素っ気なく答えた男に、女は慣れたように返す。しくしくと泣き真似をするその人物に、男は呆れるようにため息をついた。

『―――…でも、すぐにボロが出るでしょうね、あの女』

 突然雰囲気を変えて、鋭く目を尖らせて言う女。

「………」
『おや、だんまりですかぁ?』

 それに男は無反応で、相変わらず悠然と佇むのみ。

「―――今度も、何もしねぇのか?」

 男は質問を投げ掛けた人物に目を向けることなく、足を翻す。

『…さぁ、まだ分かんないですよ』
「んなカオしながら言われても、納得出来ねぇよ」
『そんなカオってどんなカオですかぁ?』
「…やっぱテメェ後でシメる」
『やれるもんならやってみなさい!』

 二人してニヤリと悪どい笑みを浮かべ、挑発しあう。

「………んで?今度はどっちに賭けるって?」

 唐突に話題を変更して、今度こそはその人物に視線を投げ掛ける。

『…んー、そうですね。「今回は全部華に任せるよ」って言ってたので…どうしましょう?』
「…珍しいな、アイツがか?」
『ええ、はい』
「へぇ…」
『……決めました!私はアノコに賭けます』

 残酷に微笑んだ女の瞳に浮かぶのは、狂気過ぎる濁った赤。
 それはまるで、夜空に浮かぶ、真っ赤な月のようだった。

「…んじゃ、俺は憐れな元マネージャーさんってことで」
『この賭けに負けた方が勝った方のパシリですって』
「期間は?」
『…半年以上です』
「げ、クソ長ぇ……」
『いつもは一学期も経たない内に終わっちゃうからじゃないですか。
 たまにはゆっくり傍観したって良いじゃないですかー?』

 その笑みを貼り付けたままの女に、男は身震いする。

「……ったく、お前らだけは敵に回したくねぇよ」
『誉め言葉ですね。女は相手を陥れてこそですよ』
「怖ぇな。冗談のカオじゃねぇぞソレ」
『だって冗談じゃないですし。これは私の持論ですから』



『女は強かで計算高く生きるモノですよ。
A secret makes a woman woman...ってね』


そ うして女は男に背を向け、開いていたままの扉から出ていった。

「………秘密は女を女にする、か」

 アイツらしい言葉だ―――男はそう呟いてその後を追った。
 生徒会室と書かれたプレートが、いやに存在していた。





いるはずのないひと

(…おっそいー!早く帰りましょうよ!!)
(そりゃ悪かったな。)
(ホントですよー、気をつけてください!)
(…殴ってもいいか?)





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