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『ブルー姉さんなら、先週から居ないぞ』
『ブルーさんですか?……すいません、私には、分からないです』
『さあ?分かんねぇッス。おしゃれ小僧…じゃなくてルビーの野郎と一緒とか聞いたッスけどね』

ジョウトの後輩たちに聞いても、彼女の行方は知れない。

「はぁ〜……」

とあるホテルの一室の机に突っ伏して、大きな溜め息を吐く。8月8日、午後10時のことだった。
誕生日だというのに、何故ここまで憂いているのか。いや、ココに着くまでは良かったんだ。イエローと出掛けたのは久しぶりだったから、ブルーの計らいは嬉しかった。
だけど──

「……ドコ行ったんだよ、ブルー」

ポツリとその言葉を呟いて、また溜め息。



先程、今回の旅行を企画してくれたブルーにお礼が言いたくて、彼女のポケギアに電話を掛けた。ブルーなら、「そんなことで電話してくんな」とか「終わった後でしてきなさいよ」とか、「ドコまで進んだの?」だとか。色んな反応が反ってくるんだろうなー、と予想して苦笑いしてしまった。

からかわれることもあるが、悩みがあれば親身になって相談に乗ってくれる。俺にとってブルーは、親友であり悪友であり、姉のようでもあり、初恋の女でもあり、大切な、仲間なのだ。


「………あれ?おっかしいな…」

ところが、いつもならすぐに出るはずのブルーが、電話に出なかった。それどころが、電波さえ届かないのだ。
ブルーに何かあったのか、そう思ったら顔が青ざめる。何度か電話を掛け直してみるが、やっぱり出ない。
心配になってグリーンに知らせるようとした。ブルーは、俺と違って、必ずオレかグリーン、もしくはオーキド博士に告げてから遠出する。


《………何のようだ、レッド》
「グリーン!ブルーがドコに行ったか知ってるか!?電話が繋がらないんだ!」
《……そんなことで電話してくるな。ブルーなら、オレのもおじいちゃんの電話も繋がらない。どうせまた改造でもしてるんだろう》
「……え、そうなのか?」
《オレは今仕事で忙しいんだ。邪魔するなよ》
「あ、ちょ…!」

ブツッ!

だけど、ジムリーダーの仕事がピークらしいグリーンに即行で電話を切られ、暫く呆然としていた。オレに八つ当たりすんなよな!そりゃ夜中に電話して悪かったとは思うけどさ!………つーか、グリーンのヤツ、働きすぎだろ。

「はー…でも良かった…何かの事件に巻き込まれたってことはなさそうだ」

ホッと胸を撫で下ろす。ブルーも、ポケギア改造とか……よくやるな。二人とも、自分のことに夢中になりすぎだ。
でもまぁ、図鑑所有者の皆が明日開いてくれるというオレの誕生日パーティーには流石に来るだろう。

「……………寝るか」

隣のベッドでとっくの昔に夢の世界に飛び立ったイエローの寝顔に破顔して、オレももうひとつのベッドに潜り込んだ。



この後、オレが後悔することになるとも知らずに。



「…………何処に行ったんだ、ブルー」

グリーンが、決して事実を言ったわけではないということに。





▽▲▽



「(………すみません、皆さん。これだけは、言えないんです)」

ジョウト地方にある、オーキド博士の第二研究所。夜空に浮かぶ星空を窓から見上げル少女が一人。

「───ブルーさんとルビーくんが依存し合ってる、なんて」

私だけが見えたその狂気。私だけが感じたその違和感。


『どうしてもコイツが向こうのコンテストを見てみたいって言うからね。仕事のついでに連れていくことになったの』
『どうしてもとは言ってませんよ。ていうか、ついでって何ですかついでって』

憎まれ口を言い合いながらも、その纏う空気は柔らかい。
彼らの仲が良いなんて、聞いたこともなかった。

『暫くは戻らないから、アイツらには言わないでいてくれる?』

そんなことを言われたら、逆らうなんて出来ないじゃないですか。








予兆

(彼なら、どうするのだろうか)
(シルバー、彼女の弟なら)

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