★第4話★

夜が明け、空が白んでくるまで交わっていた二人は、
くたくたに疲れ切ってひと時の眠りに就いた。
セシルよりも、少し先に目が覚めてフリオニールは、
セシルの腕の中に抱かれて眠っていたことに気が付いた。
セシルの腕に肩を抱かれている。

体温の高くないセシルだったが、ほのかに暖かさを感じ、フリオニールを安心させた。
しかし、彫刻の様に整った顔が身じろぎもせずに寝ている様子は、
まるで死んでいるようだった。
なんの表情も浮かべずに眠っているセシルに何か恐ろしいものを感じもした。
そっと、白い頬を撫でる。
指が輪郭をなぞり、唇に触れたとき、セシルの瞼が持ち上げられた。

顔の上をすべるフリオニールの手を取り、甲に口づけを落とす。
「おはよう、フリオニール」
寝顔をじっと見つめていたフリオニールは、
イタズラを咎められた子供のような表情をする。
「・・・おはよう、セシル・・・」
無邪気な顔をして目覚めるには、このベッドは昨夜の官能の跡を残しすぎていた。

シーツの海は嵐のような荒波に乱され、白くこびりついたもので汚れていた。
セシルはそんなもの気にもせず、シャワー室にフリオニールを誘う。
立ち上がった後ろ姿。
そこから白濁がこぼれ、腿からふくらはぎにかけて流れ落ちていく。
腰には歯型。
あんなところに噛みついたのは、確かに自分であることを、フリオニールは確認した。

こんな自堕落な夢から早く目覚めなければと思うフリオニールだったが、
シャワー室の中で、今では慎みを取り戻した蕾にセシルが指を差し入れ
掻き出した残滓が指に絡まるのを見ると、再び甘い官能の中におぼれていった。
「昨日の君、野獣みたいだったよ・・・ほら、こんなに出てくる・・・」
ナカからこぽりと音を立てて、流れ出てくる。
石鹸を泡立て、セシルの背中を洗い流していたフリオニールは流し目を送られる。
「あなたも・・・メスの猫みたいでしたよ・・・」
媚びるように腰を振るセシルの媚態。

「そんな下品なことは言わないの」
そう言いながらも、体の一番奥をフリオニールにさらけ出す。
雌猫の巧みな求愛に、フリオニールの雄はそそり立ったもので応える。
いまだに柔らかく、ぬかるんでいるそこに押し入った。
「あぁっ・・・」
セシルの悲鳴じみた喘ぎも、肉と肉がぶつかる音も、
朝のさわやかなシャワーの音がかき消した。

シャワーから出たフリオニールは、昨夜夢中で脱がせあったせいで、
服を見ながら思案していた。
すると、セシルが別の洋服を出して、それを羽織らせた。
「こんなものまで用意して・・・一体あなたは何を考えているんですか?」
「そのしゃべり方・・・好きじゃないな。
 僕のこと、奥の奥まで知っているのに、今更敬語?」
拗ねたようなセシルにフリオニールは笑みを漏らす。
「ただ・・・君のことを欲しいと思っただけだよ・・・」
急に寂しそうに伏せられる瞳。
身支度を済ませ、朝食に誘われたときに気が付いた。

「セシル・・・このベッド・・・その・・・
 家族に見つかったらマズイんじゃないか・・・?」
昨日は妻と子供を紹介された。
この屋敷のどこかに二人がいるにも関わらず、そんなことも忘れて肌を重ねてしまった。
こんな不道徳なことを自分が犯してしまったことがフリオニールには信じられなかった。

「・・・大丈夫。ローザとセオドアなら、クリスマスパーティーに出かけているから・・・」
屋敷からは物音がしない。
「セシルもいかなくていいのか?」
「うん・・・こういうのは女性の・・・母親同士で楽しむものなんだ・・・
 飾り付けられた樅木なんかを、サロンに備え付けてね・・・
 気取った食事をするのは趣味じゃない・・・」
平民の集まるレストランを好むセシルらしいといえば、セシルらしかった。

広いダイニングテーブルに二人は腰を掛けると、朝食が運ばれてくる。
召使が暖炉に火を入れていて、寒さは感じなかった。
言葉を交わすこともなく、紅茶に口をつけていると、
高飛車な響きのする靴音が近づいてくる。

乱暴に扉が開かれると、カインが姿を現した。
彼は一瞬フリオニールに鋭い視線を投げかけた後、
セシルに耳打ちするかのように何かをささやく。
セシルは、促されるままに席を立ち、部屋から出ていった。
カインとフリオニールが取り残される。

気まずい沈黙。
背の高いカインに威圧的に見降ろされても、
動じることもないフリオニールの態度はひどくカインの気に障った。
「どこで、セシルと出会った・・・?」
「・・・ダムシアンです・・・」
「お前は・・・ダムシアンで何をしていた・・・?炭鉱夫かなにかか・・・?」
あからさまに見下すような物言い。
フリオニールは反感を覚えた。
お前たちバロンに両親を奪われたから仕事をして暮らしている、と言おうとしたとき、
再び部屋にセシルが入ってきた。

「カイン、朝食の途中だ。席を外してくれ」
柔らかな口調で、ただの世間話をするかのように、カインに席をはずさせる。
主人の命令に、カインは静かに従った。

「きっと・・・カインが失礼なことを言ったんだろうね・・・
 彼に代わって謝るよ・・・」
「いや・・・彼が言うことはもっともです」
自分だって、屋敷の美しい主が、どこの馬の骨ともわからない子供をベッドに誘っているなどと知れたら、血相変えて止めるはずだ。
物悲しい顔をしながら、セシルが再びカップに口をつける。

「ねぇ、フリオニール・・・これから僕と旅行に行かないかい?」
「旅行・・・?」
フリオニールが手を止める。
「でも・・・ローザさんは・・・」
「帰ってこないよ。クリスマスが終わると、
 年越し、そして新年とずっとパーティに出ているよ」
「いつも、年末は一人で過ごしているのか?」
「うん・・・ここ最近はね・・・僕以外のことでローザは忙しいんだ」
「どうせ一人で過ごすなら、少しの間、ここから離れていたいよ・・・」
フリオニールは、寒々とした屋敷を見渡した。

ローザが選んだのであろう家具。
座り心地のよいソファだったが、セシルには似合っていなかった。
そして、いかめしい表情をしたカインが常に見張っている。
瞳を伏せて微笑んでいるセシルは、居場所を見つけられない子供のように思えた。
「ローザさんが帰ってくるまでの間だったら・・・」
「一緒に来てくれるかい?」
「あぁ・・・」
フリオニールが頷くと、セシルからは寂しそうな表情が消え、花が咲くように笑った。

セシルにはずっとこんな表情でいて欲しいと思うが、
その口から出てくる誘いは、どこかこの世のものではないように思えた。
すべてが作り物めいて、何かの陰謀の前にあつらえられているもののように思える。
しかし、セシルの居城までのこのこと赴いてしまったフリオニールに
断るという選択肢は与えられていなかった。
セシルが巧みにフリオニールを囲い込み、逃れられないようにしていたからだ。

朝食が終わると、セシルはカインに何か用事を頼み、
遠くへ厄介払いのようにいかせてしまった。
屋敷から人影がなくなると、二人は目配せをしあいながら、荷造りをし、車に乗り込む。
閉ざされていた門が開くと、うっそうとした森に囲まれていることに気が付く。
それは、二人の姿を覆い隠すのに打ってつけの暗闇を作り出していた。
セシルとフリオニールは乱れたベッドをそのままに、車に乗り込むと屋敷を離れていった。

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