★出会い★

「カイン、こっちへ来なさい」
陛下が手招きをして、カインを呼び寄せる。
カインは短く、明瞭に返事をすると、陛下の方へ歩を進めた。

王の間の扉を開けた時、カインは言葉を失ってしまった。
いつも謹厳な顔をして、玉座に堂々と腰をかけている陛下が、人好きのする笑みを浮かべて、緋色の絨毯の上に直に座っていた。
そして、こともあろうか、自分と同年代くらいの少年の頭を撫でていたからだ。
少年は陛下が手を触れると、うれしそうに笑みを浮かべた。
カインが近づいて行くと、少年は振り返った。
見たことも無い銀色の髪をふわふわと揺らせて。
その頬笑みによって、少し細められたすみれ色の瞳をカインが捕える。
「ごきげんよう。カイン・・・?」
初めて会ったカインへ向かって、少年が挨拶をする。
声をかけたのはいいが、礼儀などまるで知らなそうな雰囲気だ。
カインはその挨拶によって、この少年が自分の様な貴族ではないことがはっきりと分かった。

返事をしないで、立ち尽くしているカインへ向かって、陛下は少し困惑の表情を浮かべながら言った。
「この子を城で育てることにした。お前と年も変わらない少年だ。セシルという。お前にはこの子の面倒を見てもらおうと思って、ここへ呼んだのだよ」
それに対しカインは、はぁ、と気の無い返事をした。
こうして、セシルはカインの弟分となった。

始めのうち、カインはセシルの面倒をみることを嫌がっていた。
何も知らないセシルに、一々物事を教えるのは手間だった。
しかし、なぜか陛下が大変お気に召しているこの少年が、自分を不快に思うようなことがあれば、カインの立場も危うくなる。
仕方なくカインは、セシルの手を引き、セシルをバロン城の近くにある野原まで連れ出しては、馬の乗り方や剣の使い方を教えて行った。

不器用に剣を扱っていたセシルだったが、教えられることを吸収して、どんどん上達していった。
教える通りに剣をふるい、カインに褒められては、花のように微笑むセシルを見ているうちに、徐々にカインはセシルを受け入れて行った。
日に透ける銀色の髪が自分を振り返る時、そして、すみれ色の瞳がこちらへ向き、敬愛の念を示す時、カインはセシルのことを可愛らしいと思うようになっていった。

今日も剣術の稽古を、セシルにつけてやる。
練習用の剣を構え、二人が向き合う。
セシルの構え方、姿勢の取り方、そういうものは全てカインが教えたものだ。
そして、セシルがカインに突き込んでくる。
カインはそれをやすやすと交わし、セシルの攻撃を防ぐ。
カインがセシルに突きを与えると、途端にセシルは体勢を崩す。
しかし、すぐに体勢を整えると、再びセシルは鋭くカインを突いた。
予想外の素早い動きに、カインも体勢を崩す。
二人の剣は絡み合い、お互いの手からはじき落とされた。
その衝撃で、カインとセシルは倒れ込んでしまった。
小さくて軽いセシルを押し倒す格好で地面に落ちるカイン。

目の前には、額に少し汗を浮かべて、息を弾ませるセシルの顔があった。
銀糸が草原に散らばっている。
薄く開かれた桜色の唇に目が行く。
少し苦しそうなすみれ色の瞳がカインを捕えると、セシルは笑みを作ろうとした。
カインはそれを見ると、ほとんど衝動的に、セシルの上に屈みこみ、その唇に口づけてしまった。
「・・・んっ・・・」
触れるだけのキス。
セシルは突然のことにきょとんとした顔をしている。
あまりにも無垢なセシルの表情に、カインは少し顔を赤らめ、すぐにセシルの上から退いた。
そして、セシルに手を伸ばす。
セシルはカインの手を取ると、立ち上がった。
まだ少年らしさの残る、セシルの白い手。

カインはセシルの唇と白い手の感触を生涯忘れることはなかった。

★☆★☆
セシルの方では忘れてるんですけどね


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