★傷に口付け★

暗黒の鎧を打ちつける施術を終えたセシルを、カインは見舞いに訪れた。
暗黒騎士候補の中には、その施術に耐えられず命を落としてしまう者もいた。
毛布をかけられた担架から、垂れ下がった腕が揺れている。
火に焼けた武骨な腕。あぁ、あれはセシルじゃない・・・
安堵している自分を見つけ、カインは努めて冷たい視線を作り出し、それを見送った。

治療用の個室に、セシルは横たえられていた。
包帯を巻かれた体が痛々しい。
セシルはとろんとした瞳をして、カインを見つめていた。
「カイン・・・」
夢かうつつか。麻酔で朦朧としたセシルには判断できなかった。
カインは治療に当たる白魔道士から、使用された麻酔について聞かされていた。
あまりに強い苦痛を和らげるために、ラミアの体液から精製した、催淫効果のある痛み止めを処方されている。
目元を桜色に染めたセシルは、カインの幻影に頬笑みかけた。
あまりに儚いその表情、しかし、その体は欲情している。
カインの劣情を煽るには十分だった。

カインは巻かれている包帯を解きにかかった。
血は止まっているが、その傷口は熱を持っている。
セシルの体に無数に開けられた孔。
真っ白なその体に付けられた傷。
そのあまりの凄惨な様子にカインはセシルに同情してしまった。
しかし、その残酷な傷を付けられたセシルは今まで以上に美しかった。
その傷をつけたのが自分ではないことが悔やまれた。

カインは傷口に舌を這わせる。
「ッ・・・あ・・・」
セシルがその感触に身を震わせる。
「んっ・・・ふっ・・・はぁん」
カインの舌になぞられる度に、セシルが熱い息を吐いた。
傷を深く抉られると、セシルの体が少し跳ねる。
セシルの体についた傷、全てに、念入りに、執拗に愛撫を施して行った。
「あぁ・・・んん・・・」
セシルはカインのその様子を眺めていた。
カインが自分に縋りついているように見える。
なぜ、カインはこんなことを?
暗黒の傷口が恐ろしくないのだろうか。自分の体はきっと酷い有様だろうに。
自分の体に傷が付いた時、あるいは自分の体を傷つけた時にだけ、カインは恐ろしい優しさで自分を迎えた。

麻酔と愛撫で高められた体。
セシルの下肢は立ち上がり、どろどろになっていた。
カインはそれを一撫ですると、口に含んだ。
「はぁ、あぁ・・・あん・・・」
直截的な快楽がセシルを支配する。
カインが自分のものを・・・
セシルがカインに奉仕することはあっても、カインがそれをすることはなかった。
カインが自分から進んでこのようなことをする筈もない。
きっとこれは夢なのだろう。
なんて心地の良い、なんて残酷な夢なのだろう。
「あぁ、カイン・・・カイン・・・」
熱に浮かされたようにセシルがカインの名前を呼び続ける。
口元に笑みを湛えながら、快楽を享受するセシル。
「はぁっ、あぁ」
セシルが絶頂に達した。
カインは口の中でそれを受け止める。
そして、それを飲み下した。
その様子を見て、いよいよこれは夢なのだと、セシルは確信した。
セシルはまどろみの中に落ちて行った。

カインはセシルが眠りに着いたのを確認すると、再び包帯を巻きにかかった。
傷が包帯によって隠されていく。
カインはセシルさえ知らないうちに、セシルとの間に秘密を作った。
その秘密が、セシルの体の中に隠蔽されていく。
ここで起こったことを知り得るのは自分だけだ。
そう思うと、この包帯が何か途轍もなく淫靡なものに感じられた。


セシルが目を覚ました時、カインはすでに部屋の中には居なかった。
ここに運び込まれた時と寸分違わない自分の様子。
カインはここに来たのだろうか?
確信が持てない。
カインはここにきて、包帯を時、体中の傷に舌を這わせた後、自分の下肢に顔を埋めた。
そこまで思い出して、セシルはカッ頬を赤らめた。
カインがそんなことをするはずもない。
自分はなんて浅ましい夢を見てしまったのだろう。
ラミアの麻酔。自分の欲望を夢に見せる麻酔なのだろうか。

波打つ心を鎮めようとして、セシルは天井を見つめていた。
暗黒騎士の施術は終わった。
何名かの候補生が命を落としたと聞いた。
ここで再び目を覚ましたということは、自分はこの施術に耐えられたのだろう。

また、生き延びてしまった。

セシルは気の遠くなるような思いで天井を見つめていた。

★☆★☆★
セシル「生まれてすみません」


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