★黄金の天蓋★

セシルの上に屈みこむと、カインの長髪は肩口から流れるように落ち、セシルを包み込むように覆った。
その髪はセシルの肩に、頬に触れ、シーツへと着地した。ベッドカバーに広がっているセシルの髪の上にも流れ込む。
王を殺すという決意の元に伸ばされた髪。その決意はセシルに起因していた。
カインにとって、自分の髪の長さはセシルへの想いの丈と同じだった。
セシルの銀糸と混ざり合う。混ざり合う髪はまるで、セシルに絡みつき、浸食し、己の意志をセシルの内奥に埋め込んでいるかのように思えた。

セシルはいつも、カインの髪を美しいと言っては手を差しこんでいた。
カインがどのような想いを抱えて髪を伸ばしているかも知らずに。
自分に触れるセシルの手、それを髪が覆うように、セシルの手をカイン自身の欲望の中へ、闇の中へ引きずり込んでしまいたいと願っていた。

天蓋のようにセシルを覆う自分の髪。その中に捕えられたセシルは、未だに自分の状態を理解できておらず、その瞳は純粋なままのように、カインには思われた。
光の中を生きてきたセシルに、自分の持つ闇は理解できない。
セシルを捕えておけるのなら、それでも構わない。たとえ、心が通じ合わなくても。
手を汚すのは自分だけでいい。
カインは強い瞳でセシルを見つめた。


セシルはその瞳に見つめられると、様々な考えが浮かんできた。
一体、どのようにしたら、カインと同じ位置まで行くことができるのだろう。
セシルは一瞬、床に転がっているクリスタルを見つめた。
カインと同じ罪を犯せば、カインのところまで行けるだろうか。
あのクリスタルをカインに渡し、膝を折って、カインの爪先に口づける。そして、バロン城に火を放つ。

セシルはカインと同じ目標のために戦いたいと願っていた。
カインが目指すものを自分も目指して行く。恐らく、自分ではその目標まで達することはできないと、セシルは自己評価していた。
しかし、カインに置いていかれないように、精いっぱい努力をすることで、その劣等感を紛らわせていた。

王に忠誠を誓えない自分。そう思うと、自分でも王を殺せるような気がしていた。
幼いころから自分に肉体関係を強いり、兵学校の生徒や城の兵士達の目から隠れたところで自分をいいように扱ってきた王。
王のために、バロンのために戦いたいと目を輝かせて誓いを述べるバロンの人々の中で、いつも自分は疎外感を覚えていた。

セシルは目を閉じ、王に剣を突き立てる自分の姿を想像する。
短剣を握る自分。急に自分へ敵意を向けたセシルを見て、驚きに目を見張る王。右手を振り上げる。
しかし、王の存在はセシルにとって絶対だった。
王が自分を生かした。王がいなかったら、自分は今頃生きていなかっただろう。
無意識のうちに、セシルは自分が見捨てられないように、王に取り入ろうとしていた。どんなに辛い行為を求められても、体を丸くし、衝撃を最小限に抑える術を学び、王の欲求に耐えた。喜んで受け入れる振りさえした。
王を殺すために短剣を振り上げる自分の姿を想像する。その手を振り下ろす。
だが、想像の中にあっても、セシルは王に剣を突き立てることはできなかった。
王の心臓の真上で、剣は制止した。
セシルの手は震える。想像の中の王が、その様子にうすら笑いを浮かべる。
「セシル、観念しなさい」
王がいつもセシルを丸めこむ時に使う言葉。セシルの最も嫌う言葉。
これを言われてしまうと、自分は何もできない。
王の手がセシルから剣を奪い去る。そして、いつものように自分の体をその場に引き倒しにかかる。
そこまで想像して、セシルは正気に戻った。
なぜ、単なる想像の中ですら、自分は王に怯えるのか。

カインの瞳を見つめ直す。
カインも王に育てられた。しかし、カインはその絶対的存在に向かって剣を振り下ろした。
自分はカインと同じものを見ることはできない。
カインを自分のところまで引きずり降ろそうという矮小な画策が失敗に終わることは目に見えていた。
カインのように大胆で強い意志を持つことができない。
なぜ、カインは反逆の罪を背負ってさえ、このように高潔でいられるのだろう。
僕は臆病者だ。
バロンのためという口ばかりの忠誠を掲げて、カインに無理矢理クリスタルを奪われる役を演じるのが関の山。

セシルは最後の悪あがきを試みた。
覆いかぶさるカインの隙を付いて、カインをベッドに押し付け、自分が上になる。
驚きで一瞬あっけにとられるカイン。
そのカインの首を絞めた。
渾身の力を込める。
カインは息苦しさに眉をしかめた。
しかし、平生の落ち着きを取り戻すと、覚悟の浮かんだ瞳でセシルを見つめ返した。
「お前には俺を殺す理由がある。謀反人の俺を。やれるものならやってみろ。俺はとうの昔に覚悟を決めている」
その瞳はセシルには、そう言っているように思えた。
自分に命を握られても、光を失わないどころか、慈愛さえ感じられるような瞳を向けてくるカインに、セシルはとうとう屈服してしまった。
セシルの指先から力が抜ける。
王を裏切ることも、カインを裏切ることも、自分にはできない。
どちらにも付けないこと、自分の体面を保つこと、自分の臆病さに屈すること、そのことがカインを裏切っているように思えてならなかった。
なぜ、カインは自分に己を殺させる理由を提示したのか。
セシルはそれを恨みさえした。
王に背き、罪悪感に苛まれるより、王を殺したカインに斬られて死ぬ方をセシルは望んだ。

★☆★☆★☆★
考えの食い違いが著しいカイセシ。そしてなかなかエロが始まらないという。
この話をどこに着地させるか、何も考えつきません。
いつもハッピーエンドだから、今回はあやふやお別れエンディングでいいかな

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