第3話

セシルとの蜜月はあっという間に終わりを告げた。
ある日、飛空挺がダムシアン上空現れた。
ダムシアンの着陸許可を待たずに、地上へ降り立った飛空挺からは去る日のように、
物々しい軍人たちが列を成して出てきたのだった。
彼らはダムシアン城の中に押し入ってくると
「バロンの罪人を匿っている」という名目で、ダムシアン中を捜索した。
僕はセシルを彼らの手に渡したくなかった。

下等兵たちには、王族とその客人の部屋には入れない。
セシルには貴賓を泊めるための部屋にこもってもらった。
僕はセシルの上官達の相手をしていた。
青色の鎧を着た竜騎士が、怜悧な瞳を僕に向け、
罪人の肩を持つと両国間の友好関係が損なわれると脅してきた。
彼はダムシアン兵の制止を一笑に付し、セシルのいる部屋に迫った。

「そこを開けることを、私はダムシアン王の名において許さない」
僕は、竜騎士に最後の通告をした。
「陛下、私はあなたに無礼を働こうとなどしておりません」
まるで僕を軽蔑しているように、顎をわずかに後ろへ反らした自信ありげな顔を向けた。
「私の呼びかけに応えて、中にいる者がここへ出てきたら、
私は彼を連れてバロンへ帰ります」
「ここに泊っているのは私の客人だ。君とは全くの無関係なのだから、
呼びかけに応じるはずがない」
うんざりした顔を向け、私が応えた。

彼は全く動じず、嘲笑うように唇を歪めると、扉へ向き直った。
「セシル、何をぐずぐずしているんだ。はやく出て来い」
彼が怒気を含んだ、大声で呼びかける。
こんな茶番に、セシルが応じるはずはあるまい。

数分の間。

そして、小さく足音がこちらへ向かって聞こえてきた。
まさか、セシル、本当に応じるつもりなのか。やめさせないと。
そう考え終わらないうちに、内側の閂がはずされる音が響いた。
扉が開き、セシルが出てきた。
「カイン・・・僕は逃げも隠れもしないよ」
セシルが強い瞳を竜騎士へ向ける。
「陛下、やはりここに罪人がおりました。これをバロンへ連れ戻します」
カインがこちらを振り返って宣言した。
「その前に、彼に2、3尋問したいことがありますが、
こちらの部屋を少々お借りしてもよろしいですか?」
有無を言わせない様子でカインが迫る。
セシルが心配そうな顔をこちらに向ける。
その目が彼に従ってくれと訴えている。
僕は仕方なく頷いた。
「御協力に感謝します」
形式だけの礼を言うと、彼らは扉の向こうへ消えた。

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「セシル、どういうつもりだ・・・?」
カインがセシルに詰め寄る。
「陛下の命令に背くとは」
嫌味なほど、踵を響かせて。
獲物を追い詰めるような威圧的な態度。
「罰なら受ける」
セシルは何の弁解もせずに、カインを見つめた。
「このローブ、ダムシアン王もたらしこんだのか」
カインはセシルの羽織っているダムシアンのローブに掴みかかる。
セシルは何も言わない。
「奴に触らせたのか?」
その言葉にセシルの目は鋭くなった。
「彼とは・・・ッ」
言い淀む。
「彼とはそんなんじゃない。
君みたいに彼は僕を値踏みしたり利用したりしない」
セシルの頬に一瞬紅が差した。
怒りに狂ったカインはセシルをベッドに突き飛ばす。
倒れたと同時に、ローブを引き裂かれた。
布の破れる鋭い音が響く。

廊下を歩いていたギルバートはセシルの悲鳴を聞いた気がした。
振り返ろうとしてやめた。
扉から出てきたセシルは、罪を認めるという態度をとっていたが、
こうなることを望んでいたことは明らかだった。



裸のセシルはしばらく、カインの目の下に晒し者にされていた。
カインはギルバートの痕跡を探そうとしていた。
しかし、何も見つけられなかった。
ギルバートはセシルを所有しようとするバロンの規律を嫌い、
セシルの肌になんの印もつけなかった。
躍起になって、カインはセシルを暴く。
無遠慮に脚を開かれ、羞恥に唇を噛みながら
「これでわかった?」
それでも挑戦的にカインを見た。
セシルはカインに見られていること、そして、
カインが狂いそうなほど嫉妬に燃えていることを感じていた。
そして、自分の体が期待していることに気が付いた。

カインの手がセシルの腿を滑る。
それは愛撫ではなく、ただ探しているだけだ。
それなのに、セシルの内奥は酷く感じていた。
脚の付け根を触られると、セシル自身が震えた。
カインの視線を感じたそこは、それだけでひくひくと蠢いていた。
「期待しているのか?」
カインが表情をゆがませて、セシルを見下ろす。
「カインだって」
そう言うと、セシルはカインの鎧を剥ぎにかかった。
獣のように求め合う。
カインは再びセシルをベッドに縫い付けると、いきなり挿入した。
「あ、カイン、待って!・・・あ、あぁ」
無理矢理、体の中にカインが入ってくる。
「あ、痛い、カイン、やめて、痛い」
言葉とは裏腹にセシルのものは完全に勃ち上がっている。
「これがいいんだろう?」
カインがセシルを見つめる。
「あぁ。カイン、君を待ってた」
二人は噛みつくようなキスを交わした。
「は、あ、いたッ、あ、あぁ、はぁん、」
カインが激しく腰を使う。
唇を離すと、透明な糸が二人を繋ぐ。
髪を振り乱してセシルは善がった。
しかし、カインはセシルの体からダムシアンを感じて仕方が無かった。
「あ、カインッ、もっと、もっと、あぁ」

カインは次々にセシルの体勢を変えた。
あのいけすかない、女みたいな顔の王様は、どの角度からセシルを見たのか。
体の向きを変えられる度に、セシルは痙攣した。
何度も何度もこの痙攣を繰り返させてやる。
ダムシアン王が押した王印を探し出して、ひっくり返してやる。
「はぁ・・あ、あぁ、はぅ・・あ、あ」
無理な体勢を取らされたセシルが苦しそうに息をつく。

カインはセシルを串刺しにしたまま、セシルの顔に手をやった。
その顔を右に向け、左に向け、それを何度も繰り返した。
すると、その動作が不意に平手打ちに変わった。
打たれる度にセシルの顔が方向を変える。
セシルは泣き叫び出したが、それは苦痛のためではなかった、
セシルは顎をカインの方へ突き出し、恍惚として喚いているのだった。
カインは何度もセシルを打った。
「カイン、もう終わり?・・・僕は全然足りないよ」
唇に血をにじませたセシルがカインを煽る。


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恐ろしい饗宴が終わると、カインは再びギルバートの所へと出向いた。
ギルバートは諦めた顔をして、バロン軍に一晩だけ城を貸してやると提案した。
飛空挺を飛ばす、バロンへの帰途は夜中よりも昼間の方が良いだろう
と、結論し、カインは有り難くギルバートの提案に乗ることとした。


ギルバートは青白い顔で横たわるセシルの顔を見ながら、呟いた。
「カイン、君も国交記念式典の時、ダムシアンに来たのだろう?」
セシルの唇が切れてしまっている。
「あぁ・・・」
ぶっきらぼうにカインが答える。
「僕はセシルがピアノを弾くのを聞いて驚いたんだ」
カインが目だけギルバートへ向ける。
「君たちの教育では、あのピアノ曲を弾けることが一つの教養なんだろう?」
そうだ、とカインが応える。
「僕もあの曲を弾いたことがある。
少しでも感情を込めると、なぜかつっかえるんだ」
ギルバートがセシルの髪を撫でているのを、カインは鋭い瞳で見た。
「機械のように正確に。
メトロノームに合わせて、何も考えずにいないと最後まで弾けない。
僕は彼の姿が機械仕掛けの人形みたいに見えたものだった。
でも、それが君たちにとっては、自然な姿だったんだね」
ギルバートの手がセシルから離れた。
カインは怪訝な顔をした。
「何が言いたい・・・?」
バロンを貶めることは許さんぞ、とカインは心の中で思っていた。
ギルバートは悲しそうな顔をして笑った。

だから、きっと、バロン王は彼にこの曲を弾かせたんだろう。
何の疑問も持たせずに、命令に完璧に従わせるように。
隣国の者たちはバロン兵を血も涙も無い残虐な奴らだと恐れている。
幼い頃から繰り返し繰り返し、この曲を弾かせることで、
無感情を平生なものしてきたのだろう。
セシルに、戦いも規則も命令もない世界を見せたかった。

でも、君はそれを望んじゃいなかった。
僕にはそれが痛いほどよくわかる。
カインは僕の言ったことの意味がわからないのだろう。
セシルにもきっとわからないはずだ。

その証拠に、セシルの顔は満足感に溢れている。

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