flowery flower


お出かけと戯言
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「先輩に車借りれば良かったかな?」

二駅先にある大型ショッピングモールで買い物を済ませて、カフェで休憩中。
脇へ置いた嵩張った荷物を見て、椿が呟く。

細々生活雑貨を揃えてみたら、結構な量になってしまったのだ。
持って帰れないことはないけれど、ちょっとタイヘン。

「車まで貸してくれるんだ、椿の先輩。……てゆうか、椿、免許持ってんの?」

「うん、十八になるのと同時に取ったよ。大学生のときはすっごいボロい中古乗ってた」

こっちに戻って来るときに処分しちゃったけど、と笑う顔を、ふうんと見つめた。

何か今更? ってハナシだ。
知らなかったことが不思議だけど、考えてみれはそういうささいなことを、まだ知らない私がいる。
逆に椿が知らない私だっているだろう。

……一緒に住むより先にそういう話をしておかなくてはいけないんじゃないの、私たち。

むむ、と眉を寄せ、改めて考えていると、

「伊万里は? 免許持ってる?」

普通に聞かれた。

「……ううん、持ってない。取りたいの半分、事故りそうで怖いの半分で今まできちゃったんだ」

事故りそうってそんな、なんて笑うけど、マジで怖いんだって。
何でみんな、ハンドル握って進行方向見つつアクセルとかブレーキとか操作できんの?

無理!
ぜったいぶつけたりこすったり人身事故おこしたりする、私!

「まあ俺が持ってるから、今はいいか。必要になったら、取りに行けばいいもんね?」

「ええ〜?」

簡単に言ってくれる。
出来れば、必要になるときなど来なければいい。

ぶつぶつ乗り気なさげに返すと、分かってないし、って笑われた。

なにが?

不審な目を向けた私を受け流して、来るときも押し問答していた件を蒸し返される。

「で、いつご挨拶に行けばいいかな?」
「またその話か! いいって言ってるだろ、別にっ」

「でも、こういうことはちゃんとしておかないといざというとき悪印象持たれたら困るし」

いざってなんだ。

時々、分からない話し方をするんだよな、椿って。

実家に挨拶に、と言い張る椿にやっぱり私のほうが根負けして、次の休みが合う日に二人揃って行くことになってしまった。
うわ〜、お母さんに兄ちゃんたちには内緒にしといてって言っておかないと。
椿なら兄ちゃんたちの圧力にも負けそうにないけど、出来る限り揉め事は避けたいし。

今までいい雰囲気になった相手も、チクチク繰り出される兄ちゃんズのイヤミに耐えかねて、それ以上は進まなかったんだもん。

今こうして椿と一緒にいることを考えたら、それで良かったんだと思うけど。

「なあ、じゃあ私も椿ん家に挨拶したほうがいい?」

これから一緒に住みますーなんて、結婚するわけでもないのに、また先走ってないか、私たち。

「伊万里を父さん達に見せびらかすのはいいけど、家に行くとなったら数日休みが欲しいかな。遠いし」

どうせなら旅行したいね、と言う椿のご両親は現在南の島に住んでいる。
妹さんはこちらにいるようなんだけど。

「とりあえず、今度電話したときにでも話してくれると嬉しいな」

ちなみに付き合ってることはもう言ってあるらしい。

い、いつの間に。

「ああ、妹が会いたいって言ってたから、そのうち会ってやってくれる?」
「うん、もちろん。私も会ってみたいし」

椿が今まで大事にしていた妹。
無理は出来ないけれど、幼い頃から患っていた病気も治って、今は婚約者さんと住んでいるって。

は、同棲の先輩じゃん!
何かアドバイスでも聞いてみようか。
あと椿のお兄ちゃんぶりとかさ。
私も妹ではあるんだけど、うちの兄妹関係はちょっと変だし。
過保護ってとこは同じなんだけど、干渉するタイプのうちの兄ちゃんたちと、見守るタイプの椿とは印象も違う。

「椿が兄ちゃんなら、私も楽だったんだろうけどな〜」

ポツリこぼすと。

「そうすると別の意味で大変だよ?」

なんて言うから首を傾げると、耳元で。

―毎晩部屋に忍び込む兄が欲しいの?

………このバカ。

私は無言で椿の背中をどついた。



 

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