とりっぷ・とりっく
 

 魔法が使えてよかったと心底思う。
 更には、日本のオタク文化万歳! とも。
 なんだかんだとメリットデメリットをいろいろ問題視されているけれど、私がこの世界で困らないでいられたのは、小さい頃から身近にあふれていたマンガやアニメが想像力を育ててくれたからだと思う。
 想像力が妄想力にまで育ってしまって、ちょっとばかし緊張感のないお気楽娘に成長してしまったことは否定しない。
 タンスをくぐって違う国へ行くことも、フクロウを飼って魔法学校へ行くことも、麒麟の主になることも、若い頃に夢想済み。
 不安に思わないでもなかったけれど、順応はわりと早かった。
 ここでは意思の力がモノを言う。
 魔法を使うのも、意思の力。つまりは想像力ってこと。
 思い描いた現象を行使するために、今までに培った妄想力は役に立っていると思う。
 万能かどうかは魔力値がそんなにはないからわからないけれど、自分が困らない程度には使えているから。
 目の前の個体をじっと見つめて、想像した。堅い外皮の向こう側が、炎により熱され熟するのを。
 ホロリと溶けて崩れる。広がる甘味。ねっとりとした香ばしさか口腔を満たす。
 それを味わう幸せを思って、私は唇を舐めた。
 手にしたナイフを振り下ろす――!

「よっしゃホクホクー!」
 たいした抵抗もなくサクリと突き刺さったカッターナイフを動かして、丸く頭の部分を削り取る。
 魔法で熱されて柔らかくなった外皮を剥くと、中から湯気を立てて黄金色の肉が現れた。
 ナイフの先についた実を指先で取って口に含むと、思っていた通りの素朴な甘さを味わうことができた。
「間違いなくこれはパンプキン! カボチャ様! とりっくおあとりーーーーーと! しばらく空腹にはならない!」
 周辺を案内してもらって収穫した木の実や山盛りのカボチャもどきが、木の蔓を編んで作った籠に入っている。
 このカボチャもどき、外っかわが怪しげなラメ紫だったから食べられるのかと疑ったけれど、「だいじょぅぶぅ〜」の言葉を信じてよかった! 歓喜の声を上げながら私は蒸された中身を土を焼いて作ったお皿に乗せていく。食べきれない残りはお弁当箱に入れて、晩に回すことにする。

「 ぱぁーーんきぃーん? 」
「 ぼちゃ、ま! 」
「 ぃぃぃぃとー! 」

 作業をする私の周りで口まねをする誰も知らない小さな国の住民たちがキャッキャとはしゃぐ。
 いや、便宜上あの小さい人たちに当てはめているだけで、こやつらが何なのか知らないんだけど。
 ――手のひらサイズの三頭身フィギア。人間に置き換えるとだいたい幼児くらいの年格好で、なんともぷにぷにしていて可愛らしい。
 気がついたら側にいたのよね。こんな場所で一人ぼっちは嫌だったから、幻覚でもなんでも居てくれて助かってる。
 魔法が使えることを教えてくれたのもこの子たちだしね。
 いや魔法すごいわ。
 私がまだ人としての生活を何とか過ごせているのも、魔法が使えるお陰。
 切り落とした皮を弄って遊んでいるチビさんたちを眺めながら実を食べ、現在の私の住居である洞窟の中を見回した。
 殺風景だけど意外と悪くないのよ。
 壁際に、魔法で土を固めて四角く作ったベッドがある。すぐ側の壁面を抉って作った棚。さらに奥へ行くと、穴を掘って作ったお風呂がある。
 今、私が座っているのはこれまた土で作ったテーブルとイス。保護魔法をかけて崩れないようにしたから、結構丈夫。
 マイハウスの出口には、外へ出るときだけ着るダウンジャケットが壁に突き刺した木の枝フックにかけてある。ちなみに中にいるときはキャミソールにショートパンツとチュニックワンピースを着回している。
 会社へ行く途中だったのだ。着替えなんてあるわけがない。服は魔法で保護しつつ痛まないように大事にしてるのよ。
 だけどそろそろ着た切り雀から解放されたい。このままここでサバイバル生活が出来そうなことも、私の危機感を煽る。
 たくましすぎるだろ、私。
 人としての文明を取り戻さねば、と真剣に考えるのだ、最近。

 しかし問題がひとつ。
 チビさんたちが言うには、ここから出るには、「ヤバイ」「ツヨイ」「コワイ」魔物さんと戦わなければならないらしく――カッターナイフでどう戦えと!

「 ぱんぷー 」
「 き! 」
「 りっくりぃとー! 」

 妙な掛け声を上げながら、チビさんたちが私の周りで跳び跳ねる。
 あきらめてこのままチビさんたちとサバイバルなスローライフを送るか、もしくは一か八かで魔物さんとタイマン張りに行くか。
 人っ子一人いない山奥に異世界トリップした私は、いま、岐路に立たされていた。

 ……とりあえず、あの山盛りのカボチャ様を片付けたあとで考えようかな。



了。
2011/10/31 活動報告小話

ハロウィンに便乗して
お礼SSとして活報に載せたものです。
どこがハロウィンSSなのかと。
カボチャ使っただけやん……orz
お題【魔法/精霊/跳ねる】を使用いたしました。

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