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▼ コイキングがきっかけ

ようやくだ、ようやくあの人を見つけた。フスベのりゅうのあなに入っていく彼を見つけた。
燃えるような赤い髪に黒い服を着た彼だ。一目で落ちてしまったのだ。
話しかけようとしてもすぐどこかへ消えるあの人のことだ。今度こそは捕まえないと。

「あ、あの、待ってください!」
「……なんだよ、オレになんか用か」

ようやくあの人を止めることができた。あの人がうんざりした声をあげながら振り向いた。ちなみにあの人といっても名前は知らないのだ。
が、今日名前くらいは聞こうと思っている。そう心に決めていると、あの人はまたりゅうのあなに入ろうとしていた。

「待って、待ってってば」
「チッ、なんだよお前、用がなければ消えろ」

今度は舌打ちをされてしまった。確かに向こうからしたら迷惑でしかないよね……。
私はそれでもめげずに彼を呼び止めようとしたが、話題が浮かばない。どうしたもんかと考えていると、突然顔に何かが落ちてきた。コイキングだ。

「ココココイ」
「いたた……どうしたんでしょう、この子」
「知るか、跳ねていてたまたまお前の顔に直撃したんだろ」
「あ、じゃあ、返しますね」

私はそう言って、コイキングを近くの水に帰した。コイキングは喜んで、また跳ねた後、どこかへ行ってしまったようだ。
それを見ていたあの人は、クク、と笑っていた。

「え、どうしたんですか?」
「いや、あの時のお前の顔、傑作だったなって」
「なんか複雑です……」
「お前の名を教えろ、オレはシルバーだ」
「私はななしです」

そっか、シルバーさんっていうんだ。名前を知ることができて、私はニヤニヤしてしまう。
それを見たシルバーさんが「気持ち悪いぞ……」と言っていた。慌てて私は真面目な顔つきになる。

「シルバーさんってよくりゅうのあなに来るんです」
「火曜日と木曜日に来るつもりだ。暇があるならお前も手伝え」
「私、そこまでバトルは強くないです……」
「なら邪魔にならないところで見てろ」
「じゃあ、今、ついていってもいいですかね」
「好きにしろ」

シルバーさんはそう言って、りゅうのあなに入っていった。私も慌てて追い始めるのだった。


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