Fate | ナノ
▼ 応急処置

「いつの間に指を切ったんだろう」

私は人差し指をさすりながら、医療室へ歩いていた。人差し指には少しだけだがぱっくりあいた傷が見える。
おそらく書類とかで切ったんだろう。血は幸いそこまでドバーっと出ているわけではないが、少し痛む。
ナイチンゲールさんに見せればものすごい剣幕で迫られそうだが。ほんのわずかな傷でも過剰な治療を施してくるのだ。頼りになるといえば頼れるし、頼りにしている。
私は自分の傷に夢中で、目の前に歩いてくる人に気が付かず―――。

「わっ」
「おっと」

私は倒れそうになるも、ぶつかった人に支えてもらっている。その人物の方を見ると、そこにはヘクトールさんが立っていた。
ヘクトールさんは私を抱きかかえ、おろした。私はヘクトールさんに一礼する。

「ありがとうございます、ヘクトールさん」
「いや、いいってことよ。お前さん、大丈夫か?」
「あ、いえ、大丈夫です。全然」
「そうか、ならよかった」

とか言いつつ、ヘクトールさんは私の指をじっと見つめている。私そこまで傷眺めていたのかな。と思ったが、そういやヘクトールさんに気が付かずに眺めていたんだった、と私は思いかえす。

「お前さん、指でも切ったのか?」
「あ、はい。でもそんな気にするほどでも」
「……ちょっと見せてみろ」

ヘクトールさんは私の人差し指をまじまじと見つめる。指とはいえそうまじまじと見つめられると恥ずかしいものである。
ヘクトールさんはポケットから何かを取り出した。ハンカチのような薄い布だ。
その布をビッと破いたと思えば、私の人差し指に巻き付けていく。応急処置というやつだ。

「ほい、こんなもんでどうだい?」
「ありがとうございます。でも、布」
「ああ、そんなもん気にすんな。とはいえ応急処置ってやつだから、そこまで過信すんなよ」

ヘクトールさんは頭をポリポリかきながら答える。応急処置とはいえ少し楽になった気がする。

「じゃあな、お前さんも頑張れよ」
「ヘクトールさんこそ、無理しないでくださいね」

そう言って、ヘクトールさんと別れた。私はヘクトールさんに応急処置してもらった傷を触る。

「……少しだけ、そのままにしておこうかな」

私のつぶやきは、誰にも聞こえずに廊下に消えていった。


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