▼ 気まぐれナイトタイム
私は仕事を終え、自室へ帰る。今日もよく働いた。
だがまだ終わりではない。明日に備えて眠るとしよう。
「よし、眠るか」
「ンンンンン、ななし殿はもうお眠りですか」
「うわあ!」
寝ようとした矢先、突然声がした。声をした方を向くと、蘆屋道満―――道満さんが自室の椅子に座っていた。
道満さんは私をジロジロ全身を眺めまわした後、にこやかに笑いながら近寄ってきた。ぶっちゃけ怖いんですが……。
「あのー、もう眠いんですが」
「もう寝てしまうとは勿体ない。せっかく拙僧がよく眠れる方法を……」
「ロクなモンじゃなさそうなので帰ってください!」
私は道満さんの背中をぐいぐい押す。道満さんの体はびくともしない。
それどころか、足が固定されているかのように動かない。くそう、動けや。
「ンン、なんだかくすぐったいですな」
「いいから出ていけや!」
「まあまあ、そんなにカリカリすることはないでしょう」
「誰のせいだと思ってるんですか!人呼びますよ!」
「それはいけません」
私が叫ぶと、道満さんはニヤリと笑って。私をトン、と突き放した。バランスを崩した私は布団の海に沈んだ。
立ち上がろうとするも道満さんが覆いかぶさってきた。逃げられない、助けて。
「ちょっ、どいて、道満さん」
「静かにしていてくだされ」
「な、にを……!」
道満さんが私の顎をくい、と持ち上げたかと思えば、突然口をふさがれた。目の前には道満さん。つまりキスだ。
それどころか舌も入ってきている。い、息ができない。
「んー!」
私が暴れていると、口の中から舌が抜かれ、道満さんが離れた。道満さんが話した途端、私はむせこんだ。
「ゲホゲホゲホ」
「おや失敬。手ひどくやりすぎましたか」
「な、なんでこんなことを」
「拙僧の気まぐれです故。気にしないでくだされ。では、ななしさん、よい夢を」
道満さんがドアを開け、去っていった。気まぐれ、にしろタチが悪い気がする。
まあなんにせよ、これについては深く考えるのをやめよう。私はそのまま布団の上で眠り始めるのだった。
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