▼ 落ちてきてくれないか
私が廊下を歩いていると、ある人物とすれ違った。最近カルデアにやってきた蘆屋道満という陰陽師だ。
話を聞く限りでは敵として相対し、何度も苦しめた相手だ。なんでか召喚に応じたのかは謎だがただの気まぐれだろうか。
私はそんな道満さんが苦手だった。なぜだろう、あの目を見ていると何かを見透かされているみたいで怖いのだ。
「ンンンンン、おや、そこにいるのはななし殿」
「……なんですか」
「おや、ずいぶんな嫌われようですね」
「そんなことないです」
そう言って、私はこの場を去ろうとする。が、道満さんの手が私の腕をつかんだ。
振りほどこうとするが強い力で握られているせいか振りほどくことができない。
「放してください」
「嫌だ、と言ったら?」
「人を呼びますよ?例えばキャットさんとか」
「それは困りますな」
「何を、わっ!」
突然私は廊下の床にたたきつけられる。いや、正確にいうなれば転がされたのか。
床に仰向けに倒れていると道満さんの手が私の手首をつかむ。私は床に張り付けにされてしまう。
「ンンンンン、これで貴女は逃げられませんね」
「これから何をするつもりなの……!?」
「なに、ちょっとおとなしくしてれば済む話ですよ」
道満さんがそう言うと、私の首筋に顔を埋めた。くすぐったいのと羞恥で私は恥ずかしくなってしまう。
ああ、誰も通りませんように、と思っていると、突然首に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
おそるおそる首筋を見ると、首には噛み後と血が少しにじんでいた。どうやら道満さんは私の首筋に食らいついたのだ。
「な、なんでこんなことを」
「貴女、拙僧が怖いでしょう?」
「そ、そんなことはないです……」
「声が震えていますよ、ななし」
道満さんはそう言って私の頭を撫でた。怖いはずなのにその手は優しかった。
落ちていきそうな自分がいる。それを見透かしたように道満さんは、私の耳元に顔を寄せた。
「落ちてきてください、ななし」
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