▼ すれ違い
私はNEXUSの社員だ。私はいつものごとく仕事をこなしていた。
仕事と言ってもやることはそんなにない。とはいえ休憩ばかりでもいられない。
ここ最近はMCが消えたとかなんとかで親衛隊みたいなのを入れたらしい。MCのバックについていたとはいえそんな簡単に入れていいのかと思ったが、一端の社員である私には割とどうでもいいことだ。
「そろそろ戻った方がよさそうだな……」
私は休憩から職場に戻ろうとする。その時、力強い足音とヒールの音が聞こえた。
この音はあの方だ。と思い、廊下の隅に寄る。
「シュバイニー様、MCが消えたとはいえ油断は禁物です」
「うむ。トミー君、このことについては細心の注意を払ってくれたまえ」
あの方、とはこのNEXUSのCEOであるシュバインシュタイガー様その人だ。秘書のトミーさんも一緒だ。
実はシュバインシュタイガー様、もといシュバイニー様にほのかに思いを寄せている。そんなこと口に出してはとても言えない。
ここ最近、シュバイニー様は神経質になっている気がする。まあ、MCが消えたとはいえ油断は禁物なのだ。
そろりと私が戻ろうとした時、シュバイニー様がいきなりこっちを向いた。いきなり振り向かれてドキっとしてしまう。
「ご苦労様なのである、ななし君」
「は、はい!僭越ながら恐縮です!」
私は思わず敬礼にしてシュバイニー様とトミーさんを見送った。私は思わず緊張が解け、その場で座り込んでしまう。
やっぱり威圧感あるなあ……と思いつつ、私はフラフラと立ち上がりながら呟いた。
「……名前、憶えてたんですね」
この呟きは誰にも気が付かれないまま社内の空気と共に消えて行った。
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