▼ 甘い菓子
「やあ、ななし」
そう言って声をかけた男――――レムレスの方へ顔を向ける。
レムレスは相変わらず何を考えているかわからない笑顔で笑いかける。
「今日はなんだか張り切ってるね」
「ななしは今日が何の日か知らないのかい?」
レムレスはそう言いながら飴を取り出した。
私は一体何のことか?と思い、ハッと気が付く。
「もしかして、ハロウィン?」
「大当たり〜! そんなななしにはお菓子をあげよう」
「何時もと変わらないじゃん」
私はレムレスから飴を受け取りつつ、突っ込んだ。
レムレスは相変わらず何を考えているのかわからない笑い顔のまま更にお菓子を差し出そうとしてる。
「ななしにはオマケとして更にチョコレートをあげよう」
「ありがとう。私も何か返さなきゃ」
私はなにか手持ちのお菓子を探そうとすると、レムレスに止められた。
「別にお返しだなんてもらわなくても大丈夫だよ」
「でも、さすがに……」
「そうだ、これならどうかな?」
そう言ってレムレスは私の頬に顔を寄せた。
一瞬だが生暖かい感触が残る。
「えっ、これって」
「キスだよ。これも甘いよね」
私は急に顔が熱くなり、レムレスから目をそらした。
レムレスはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、私の方を見ている。
「じゃあ、ななし。よいハロウィンを」
レムレスはそう言って去っていった。
この場には唖然と立っている私が残されるのだった。
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