愛してるから壊したい10題 | ナノ
▼ 4.でもきみは、逃げない

※現パロ


「また、喧嘩でもしたの?」
「るせー……」

私は喧嘩から戻ってきた忠弘にタオルを渡す。
3か月前に私の家のお隣に引っ越してきた肥前忠弘という男は、何時も喧嘩を買っては毎回傷だらけになって戻ってくる。
忠弘が言うには「売られた喧嘩を買っただけだ」だの言っているものの、傷だらけで戻ってくるのは心配だ。
お隣さんだから、ではなく、個人として心配しているのだ。

「お前も俺に構ってるんじゃねえよ、お前まで嫌われちまうぞ」
「でも、やっぱり心配だよ」
「ああ、クソ。今度から俺の心配はすんじゃねぇよ」
「……夕飯持っていくね」

忠弘はそう言って、タオルを私に乱暴に投げ捨てる。
私はタオルを玄関に置き、キッチンへ向かうのだった。



「忠弘」
「……なんだよ」
「夕飯持ってきたから食べよう? ね?」

私は忠弘の家のインターホンを押す。すると、忠弘はすぐ家から出てきた。
私は、夕飯の入った鍋を忠弘に見せる。忠弘が反応する。
忠弘は鍋を受け取り、そのまま帰っていこうとする。

「ちょっと、待って」
「あ? まだなんかあんのかよ」
「あんまり喧嘩とかしないで」
「……なんでお前は、俺を見ても逃げないんだ。ただの隣人だからか? え?」

急に忠弘がドスの聞いた声で脅してきた。私から彼に干渉することはあっても、彼から言及することなど、なかった。
忠弘から言及することはないだろうと思っていたので、私も驚いて後ろに後退してしまう。
私は後退した足を進め、忠弘の目の前に立った。

「……心配だからだよ」
「それは偽善ってヤツか? そうなんだろ?」
「そんなつもりはない! 私はただ、あなたが心配なだけだよ!」
「……わーったよ。偽善とか言っちまって悪かったな」

忠弘は頭をかきながら謝罪した。私も「こっちこそごめんね」と返す。
忠弘はこのまま家に戻っていった。私もまた、家に戻るのだった。



「……俺にここまで言ってくるヤツはお前だけだ、ななし」

その声は独り言のように呟き、誰にも聞こえることはなかったという。
彼はそう呟いた後、キッチンへ向かうのだった。



4.でもきみは、逃げない
お題:確かに恋だった

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