サイジェントの騎士団長のイリアス様、私の憧れの人。
5年前、私は彼に助けてもらった。だから、なんてベタかもしれないけど私にとってはそれは凄く重要な事だった。
だってあの時、彼に助けてもらわなければきっと私は死んでいただろうから。
その事があってから私は騎士団に入る為に猛勉強した。
彼に少しでも近づく為、なんて理由を知られたら直ぐに不合格にされるだろうけど。
そして数日前、私は見事騎士団に入る事が出来た。
これでまた彼に会える…、そして、これからは彼の下で働けるんだ。

「騎士団長のイリアスだ。合格おめでとう、君達には期待しているよ」

今日は初めて騎士団の皆さんとの顔合わせだった。
イリアス様の挨拶の言葉が、合格者全員に向けられた言葉だというのにまるで特別なもののように嬉しい。
少しでも彼の瞳に映れるだけで満足だった。

――筈だった。



「君、…確かハルといったか。少しいいか?」
「はい!なんでしょうかイリアス様」

顔合わせが終わった後、何故か私だけ呼び止められた。
一体なんの話なのか、私には検討もつかない。
何も粗相はしていない筈だ。

「間違いだったらすまないが、君は5年前の暴動の場にいなかったか?」
「え…?覚えていらっしゃるのですか…?」
「やはり、自分が助けた女性で間違いないようだな」

イリアス様の口ぶりはまるであの時私を助けた事を覚えているようで。
私の聞き間違いでなければ、それは確かだった。
あの時、私は彼にとって一市民でしかなかったのに。

「あの時は市民の安全を確保するのが遅くなってしまって、君のような市民を危険な目に合わせた事が申し訳なかった。でも、元気なようで安心したよ」
「イリアス様…」
「ん?どうした」

今イリアス様の目の前にいるのは私で、そして彼が笑顔を向けているのも紛れもなく私。
まさかこんなに早くイリアス様とお話する事が出来るなんて思ってもみなかった。
私は今、彼にとってただの新米騎士のひとりにすぎないというのに、5年前の出来事が再び彼との間を結んでくれるなんて。

「あの時、イリアス様が助けて下さらなければ私は今ここにいなかったと思います。助けて下さって有難うございました。」
「いや、当然の事をしたまでだ」
「それでも、イリアス様が私の命の恩人であるという事に変わりはありません」
「感謝の気持ちは受け取っておこう。では、失礼するよ」

そう言ってイリアス様は去って行った。
その後姿はあの時に見たものと変わらずに輝いていた。
そして私は自覚してしまうのだった。
もう”憧れ”なんて言葉じゃ足りない。
さっきまで少しでも彼の側にいられればいいと思っていただけだったのに、もうそれだけじゃ満足出来そうにない。
いつから私はこんなに貪欲になったのだろうか。
だけど、この胸の高鳴りだけは、誤魔化せそうもなかった。




最初は憧れだった





■殆ど捏造ですすみません。ただイリアス夢が書きたかったんです。需要あります、よね…?



お題配布元:雲の空耳と独り言+α