普通に学校が終って、帰宅する最中だった筈の俺は何故か今知らない所にいた。
しかも目の前には制服姿じゃないナツミ先輩がいる。
…一体どういう事だ、これ。

「あれ…ナツミ先輩?」
「え、ユウ!?なんでよ!?」
「おいナツミ!今召喚してたよな?何を使ったんだ?」
「え?あたしの世界から持ってきてたヤツだよ。出来るかなーって…」

ナツミ先輩は何やら後ろにいた茶髪の男と話し始めた。
何の話だかはわからないが、何だか様子が普通じゃない。
ここはどこだろう、と思い周りを見てみると、辺りには何もなかった。
荒原…だろうか。ただ砂漠のような景色が続いているだけだった。
そして今気付いたのだが、先輩とその男の他にも数人人がいた。
しかも何か、戦ってる?

「アイツは友人みたいだが…」
「うん、ってか後輩。って、もしかしてあたしが向こうの物で召喚しちゃったから!?」
「…ご名答」

男は呆れたようにそう言った後、俺に視線を向ける。
誰か俺に説明してくれよ、と思いながら口を挟む事は憚られた。
状況は全くわからないわけだが、今がそんなのんびりしていられる時じゃない事は俺にだってわかる。

「どうしよう…」
「おいおいナツミ!今が戦闘中だって事、忘れたんじゃねぇだろうな!?」
「わかってる!」

短髪の如何にもガキ大将っぽいヤツがナツミ先輩に声を掛ける。
持ってる物は…投げナイフ、だろうか。
良く見ると先輩も手に短剣を握っていた。

「ごめんレイド、彼を頼んでいいかな!?」
「ああ、わかった」

側にいた鎧を着た人にそう声を掛け、先輩は駆け出した。
敵らしき人に向かっていく先輩は俺が知ってる人とは別人のようだった。
そんな姿を見ていると、先輩に頼まれて俺の側にやってきた、レイドと呼ばれた人が俺を見ている事に気が付く。

「え、あ、なんすか?」
「いや、驚かせてしまったようだね、すまない。後でちゃんと説明するから、少し待っていてくれないか」
「はぁ…」

離れた所で先輩達が戦っている音が鳴り響いている。
そんな音を聞きながら俺はぼんやりと何処か夢心地で眺めていた。



そして戦闘は終わり、先輩は仲間を連れて俺達の所に戻ってきたわけだが、危険だから場所を変えよう、というレイドさんの言葉で移動する事になった。
移動した先は彼らの住まいだった。
先輩も今ここで暮らしているらしい。
俺は出されたお茶を飲みながら先輩の話を聞いていた。
ここが俺達がいた世界とは別の世界だという事、召喚術という魔法で先輩がこの世界に間違って呼ばれてしまった事、先輩が何故かその召喚術を使えるという事。
そして、先輩がそのチカラで俺を呼んでしまった事…。

「ごめんね、ユウ。巻き込んだみたいになっちゃって」
「いや、大丈夫っスよ、驚いたけど」

さっきの戦闘を見たからか、意外とすんなり状況を呑み込めた。
でもまさか別の世界があって、しかも先輩がそんな所にいるなんて。
申し訳なさそうにしている先輩は頻りにどうしようどうしよう、と戸惑っている。

「おいナツミ、召喚したのはお前なんだ、送還出来るという事を忘れてないか?」
「あ、そっか!」

茶髪の人―――ソルというらしい―――がそういうと先輩の表情はすぐに明るくなった。
先輩が嬉しそうに俺の手を取る。

「良かった、帰してあげられるみたい!さ、外行こう!」
「え、ちょっと待った!…先輩は?」
「え…?」
「帰れるなら先輩も一緒に帰りましょーよ」

外に連れ出そうとする先輩の腕を軽く引いて止めた。
どうやら元の世界に帰れるらしいけど、今の言葉だと俺だけが帰るみたいだったから。
すると先輩は先程の嬉しそうな表情から一変、悲しそうに目を伏せた。

「あたしはね、帰れないんだ」
「え?なんで…」
「あたしを呼んだ人、もう死んじゃってるから。…でも安心して。ユウはちゃんと帰すから」

そう言って先輩は無理矢理笑顔を作った。
事情はよくわからないが、先輩が俺と一緒に帰れない、という事だけはわかった。
なら俺の選択はひとつ。

「だったら俺もここに残ります」
「ちょ、何言ってるかわかってる!?」
「わかってる。先輩が帰る方法がないってんなら、一緒に探しましょう。俺も手伝うから」
「ユウ…」

先輩だけ残して俺だけ帰るなんて、そんな事俺には出来ない。
そう伝えると先輩は僅かに涙ぐんだあと、いつものような笑顔を見せた。




サヨナラはまだだね






■ソルとガゼルとレイドに友情出演してもらいました!(ガゼル名前出てないけど)なんか連載になりそうな話ですけど続かないです。



お題元:たとえば僕が