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憎い。憎い。己が憎い。

嫌い。嫌い。己が嫌い。

大嫌い。自分なんて大嫌いだ。

時折首を締め上げたくなるくらいには自分が大嫌いだ。

たまに腕を切り刻みたくなるほどには自分が大嫌いだ。

憎い。憎い。憎い。

嫌い。嫌い。嫌い。


毒物劇物取扱責任者の資格でも取っておけば良かった。

そうすれば、この体に硫酸をぶちまける事だってできたろうに。


ああ、憎たらしい。気持ち悪い。己とやらが気持ち悪すぎて吐き気がする。

左腕の醜いリストカットの痕も、掻きむしった皮のめくれた指も、硫酸で溶かしてしまえばきっと、目立たなくなるだろう。

でも、それを手に入れるなんて俺にはできない。

首を絞めたくなった。両手でぐうぐうと細い首を圧迫する。

頭がぽうっとあったまってきたところで手を離した。
そして、額に手のひらを当てて深くため息をつく。



ああ、ああ、忘れていた。


この体は俺の体じゃないんだ。
そう思い込んでいないと止めどなく傷付けてしまいそうで

これは、俺の体じゃない。他の人から借りた大切な大切な借り物の体だ。
自分の体だと自覚したとたんにボロボロにしたくなってしまうから
だから傷付けてはいけない。痛め付けてはいけない。どうしてそのことをすぐ忘れてしまうのだろう。
これは俺の体じゃないんだ。俺の体じゃないということは、すなはち、大切にしなければならないといふこと。
借り物の体なら大切にできる
あゝ、あゝ、ごめんなさい。傷付けようとしてごめんなさい。
己の体は大切になどできない……
目に浮かぶ。人の視線が、目に浮かぶ。

もう、そんなようなことを考えないから、だからどうか指をささないでくれ。俺が悪い事は重々承知している、だからどうかこれ以上責めないでくれ。
涙が、涙が、出てくる。今まで俺に傷つけられた、この体の涙が。俺の精神じゃない、この体からの涙。



ひとしきり泣いた。体が泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。俺がそう呟くと、体は一層泣きわめいた。

体を抱えてうずくまった。
ごめんなさい、ごめんなさい。今まで酷い事をしてきてごめんなさい。俺は、床に頭を擦り付けて謝った。


こんな俺の姿を見たら、他人はどう思うだろう。



心配なんてしてくれなくていい。
そんな事思っていない
俺を心配するなんていう気持ちがあるなら、俺ではない人に向けてあげてほしい。
そんなのただの強がりだ
俺には、心配される価値なんてない。
違う、心配してくれるなら心配してほしかった
独りで苦しい思いをしていればいい。
ただ、素直に受け取れないだけなんだ……
独りで自分を憎んでればいいのだ。
俺は、俺を憎むことしかできないのか
独りで……。
独りは……寂しい、それは己自身がよく知っているだろうに





どうして自分を傷つければ非難される世界に生まれたのだろう。

こんなにも憎くて仕方がないのに。
憎いのは本心だ
こんなにも嫌いで仕方がないのに。
嫌いなのも勿論
ああ、ああ、自分なんて、傷付いて生きていけばいい。
そんな事を言うのはやめてくれ
誰からも見向きもされずに、傷付いて生きていけばいい。
独りは寂しいんだ
誰も本当の俺を知らないんだ。俺さえも知らない。


苦しめばいい。
苦しいのは嫌いだ
辛い思いをすればいい。
辛いのも好きではない
俺なんて、俺なんて
やめろ……
誰からも相手にされやしない。
どうして思ってもいないことばかり口にするんだ


こんな天邪鬼な奴、誰も気にかけてはくれないだろう。
ああそうだ。俺は、天邪鬼だ。意地を張ってわざわざ苦しい思いをする天邪鬼だ。
それでいいんだ、それで。
よくなんてない……
俺を気にするだけ時間の無駄だ。
どうしてそう自分を傷つける事を口にするんだ
もっと有意義な事に使ってくれ。
有意義かどうかなど、他者が決めることだろうに


俺は、苦しむだけ。
苦しいのは嫌いだと口にしたかった
それでいいだろう。
どうして反対の事ばかり口から出るんだ
俺が独りで苦しめば、誰にも迷惑をかけなくて済む。
本当にそうなのだろうか
俺はきっと
自己評価の著しく下がったこの頭では断定できない……
俺は、
この性格が嫌になってくる



…………やめた。
言いたいことを上手く言えない。本心を上手く伝えられない。そんな性格が大嫌いだ。
ポジティブな事は嘘偽りなく言えるのに、どうしてマイナスな事はこうも上手に伝えられないのだろう。

こんなことを言っても誰も何も思わないだろう。
ああ、誰か、誰か気付いてくれ……俺の本心に。嘘偽りで固められた建前を崩して、俺の本心に触れてくれ。苦しいのは嫌いだ。辛いのも好きではない。これが、俺にできる精一杯の事だ。素直に口に出せず、どれだけ苦しい思いをした事だろう。そしてこれは一生、死ぬまで直らないのだろう。生まれ持った性格を変えることなど、そうそうできないのだろう。
疲れた。
理解してくれなど言わない。ただ、誰かに、知ってほしかった。俺はこのまま、苦しいまま生き続けねばならない。思ったことを素直に口に出せぬまま、自分に不都合なことを無理やり受け入れて、苦しいことを苦しいと言えずに飲み込んで行かねばならないのだろう。きっととても辛いだろう。だがそれも、所詮全部自分のせいなのだ……
疲れたんだ……。




俺とは何か、問い続けて。




そして、疲れた。













ああ、



ああ、……意味なんてなかった


































俺は、何なのだろう。


独りなのだろうか。

結局誰からも知ってもらえない、りかいされない
その答えはきっと、その時が来たら、俺か俺以外の人が教えてくれるだろう。



ならば……諦めよう



END







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