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「トリックオアトリート」

かぼちゃの被り物を身につけた毛利が、魔法のステッキらしき棒を持って話しかけてくる。可愛らしい衣装に包まれているのは、純粋な笑顔だ。意気揚々と貰った菓子の入った篭を振り回している。一体誰に貰ったのか、かなり儲けていた。
だが、会話の対象である越知は本から顔を上げない。ベッドに腰をかけて、まるで一人で読書をしているようだ。……無視されたのだろうか。

「……トリックオアトリート!」

今度は少し大きめのボリュームで決まり文句を言ってみた。しかし反応はない。向かい合わせになっている彼の耳に確実に届いている筈なのに。
不機嫌になった毛利はむすっと頬を膨らませて腕を組む。ぷんすこと威圧をかけた。
そんな彼とは反対に、越知は黙ったままぺらりとページをめくった。厚めの前髪の隙間から活字の羅列を黙読する。そして聞こえぬようにひっそりと溜め息を着いた。
実は、無視をしている訳ではなかった。菓子を持ち合わせていなかったので、どうすべきか悩んでいたのだ。
元々越知は間食をあまりしない方なので、菓子を保存している、或いは持ち歩いているという事は稀だ。持っていたとしても、大抵飴やらミントガムやらと小物ばかり。恐らくクッキーやプリンを期待している毛利に、そんなちまちました物をあげてしまってはがっかりするだろう。そして、今日がハロウィーンだったという事を知らず、菓子の一つも持っていないとなれば、それはそれでしょんぼりするだろう。
どうすればがっかりさせないか、もしくはしょんぼりさせないか……かなり真剣に思考を巡らせていた。

(今から菓子を買って来るか……はたまた正直に言うべきか……それとも他のものでなんとかするか……。)

もはや書籍の文字などは頭に入らず、ただただ相方の事を考えていた。
だがその相方は、越知の頭の中をまるで知らずに催促する。

「月光さーん……何かくれたってええやないですかあ……いたずらしまっせー?」

先ほどぷんぷん怒っていたのとは打って変わって、今度は寂しそうな声色だ。構ってもらえていないこの事態が、悲しいのだろうか。おや、と越知は少し顔を上げた。

「催促したんは謝りますからぁ……そんな怒らんで下さいー……」

どうやら腹を立てていると勘違いしているようだ。お前とてついさっき怒っていただろうと、思わず心の中で突っ込む。
……致し方ない。越知はぱたりと本を閉じると、ゆっくり立ち上がった。少々驚いた毛利はびくりと身を震わせてはその長身を見上げる。

「……済まない寿三郎、実は生憎菓子を持ち合わせていなくてな。無いものはあげられないから、いたずらをしてくれて構わない。」

毛利はぽかんとその言葉を聞いていた。ぱかーんと口を開けたまま、眉一つ動かしていない。……菓子が貰えぬと知って、落ち込んだのだろうか?そう危惧した越知だったが、それは杞憂に終わった。

「ほなら、月光さんに色んな事してもええんでっか?」

斜め上を行く答えに、越知は吹き出しそうになった。
いたずらと言うのだから、本棚の巻数の順を変えられたり、CDを簡単なところに隠されたりするものだと思っていたが……これでは俺自身が何かされそうだ。越知は首を横に振ろうとした。が、そのきらきらした瞳を向けられると、NOとは言えそうになく……思いと裏腹に首を縦に振ってしまった。
またまたぱあっと顔を輝かせた毛利は、マッハの如き速度で胴体に突進して来る。菓子よりも嬉しそうだなと安心したのも束の間、勢いに負けた越知はバランスを崩し、ベッドに仰向けに押し倒される。衝撃で前髪が全て後ろに撫で付けられてしまった。クリアな視界には、相方の笑みがくっきり映る。

「ほなら、いたずらさせてもらいますわぁ!つっても今は昼やさかい、甘々スイーツは夜にとっときますー!」

そう言って顔を近付けてきた毛利は、目を瞑ると共に唇を己のそれで塞いだ。柔らかく温かな感触がぴたりと吸い付くようだ。心地よい愛に、越知も瞼を閉じて応える。
最初は触れるだけのキスだったが、段々と貪りつかれ、求められ、舌が侵食してきた。体温の上昇に伴い、絡みも激しくなって行く。角度を変えて、口内を何度も引っ掻き回された。されるがままになりながら、時折熱と酸欠に侵されて声を漏らす。越知は長い腕を回して、夢中でがっつくその後頭部をやんわりと撫でてやった。

……この場合のスイーツとは、夜の営みの事を指すのだろう。越知は口を犯されながらも、痺れる頭で考えた。


……今夜は大変そうだ。
そう感じた、あるハロウィーンの昼の出来事。








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