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すっかり空になった器を盆に乗せると、越知は部屋から出ていった。階段を降り、台所へ盆を持っていくと、食器を水に浸ける。今は毛利の事を優先させたいので、食器洗いは後に回した。部屋を出ていく際に、棚に入っていた風邪薬と冷えピタを箱ごと掴むと、また階段を登った。
寝室に入ると、自分のケータイをいじっているその姿が目に入る。画面を見ていて頭が痛くならないのか心配だったが、どうもその素振りはないらしい。
つかつかと歩み寄ると、ベッドの縁に腰を降ろした。
未開封の箱を開け、中から小分けの袋を取り出す。その封もぴりりと破き、ジェル状の熱冷まシートを1枚取って残りは箱に戻した。

「寿三郎、前髪を上げろ。」

言いながらぺりぺりとセロハンを剥がし、両端をつまむようにして持つ。
メッセージのやり取りをしていた毛利は、ちらっと声のした方を見やった。画面を落とし、スマホを傍に置くと、片手で越知の白い前髪を掻き上げた。勿論越知は顔を少し曇らせる。

「……俺のではない、お前の前髪だ。」

呆れたような青い2つの瞳が、毛利をじっと見つめる。けらけらと笑いながら彼は言った。

「ふはっ、月光さんの目ってやっぱり綺麗ですわあ、メンタルアサシンって物騒な二つ名の割にっ!」

くすくすと片手で口を覆いながら毛利は笑う。
相方の笑顔は嬉しかったが、からかいはまた別だ。
越知は、相手の額に前髪の上から無造作に冷えピタを貼り付けてやった。

「ぶぁっ!」

「全く……貼ってやろうと思ったがそれは無しだ。自分で貼れ。」

セロハンをゴミ箱に捨て、風邪薬を開封し始めた越知を見て、毛利はまたひそかに笑った。これが今流行りのツンデレなんやろか、と幸せな思考を巡らせている。やや斜めに貼り付けられたそれを丁寧に剥がすと、自分でデコに収まるように冷えピタを貼る。

「しまった、水を持ってこなかったな……。」

シートから薬を押し出そうとする直前、越知は動きを止めた。それから数秒の静止の後、“取ってくる”とだけ言って、早足で水を取りに向かった。
一人残された毛利は、置いてたスマホをいじり始めた。先程の間にたまっていたメッセージに返信すると、別のアプリをタップして一人ゲームを始める。
モンスターを倒しながら、毛利は何やら色々考え始めた。

(薬かー……確かに喉痛いんは敵わんし怠いのも嫌やから治したいのは山々なんやけど……。そうすると甘々対応な月光さんを沢山味わえへんし……けど風邪のままやと色々出来へんままやし……。)

想像がみるみる内に大きく成り行く。ももももっと、煙が広がるようだ。風邪引きのまま甘い恋人の対応を取るか、一刻も早く治ってベタベタするか。彼にとっては真剣に悩むべき題目だ。
そんな事を考えている内、扉が開いた。毛利専用のマグカップに並々と水を注いだ越知が戻ってきたのだ。

「水を持ってきたから薬を飲め。」

優しくカップを置くと、水面に少しの波がたった。
丁度ステージをクリアした毛利は、何やらよいアイディアを閃いたのだろう。ふふっとにやけた後に、真顔を向けた。

「月光さん、俺薬苦手やさかい口移しがええっす。」

ピタッと、ティッシュペーパーの上に錠剤を押し出していた越知の手が止まった。しかし数秒後、ぷちっと音がして薬はころんとティッシュの上に乗った。

「……馬鹿を言っていないでさっさと飲め。」

同様にもう1つ錠剤を出すと、水をこぼすような勢いでマグカップを押し付けた。どうやら拒否されたようだ。ちぇっ、と聞こえないように言いつつ、毛利は慎重にそれを受けとると、白い紙の上の薬を水と共に胃に流し込んだ。

「なら月光さんが風邪引いた時にでもやったりますわ。」

3分の1程水の残ったカップをベッド横に置くと、にやにやと妄想全開の笑顔を見せる。

「……勝手にしろ。」

完全に呆れた声色で言葉が放たれた。





その後越知は看病も兼ねて、二人でベッドの上でゲームをし読書をし、一緒に食事を取った。そうして、トークを続けながら寝落ちるまで1日を過ごした。

















翌朝、先に目を覚ましたのは毛利だった。
カーテンの隙間から差し込む朝日をぼうっと見つつ、おもむろに額に触る。寝る前に貼り変えた筈の冷えピタは、かぴかぴに乾燥していた。すっかり水気の無くなったそれを剥がしてゴミ箱にぽいした。
昨日ほど倦怠感のない体をもぞもぞ動かしつつ、喉に手を当てた。唾を飲み込む時の痛みも、昨日より引いている。そう言えば寒気もないし、頭もすっきりしていた。きっと全快に近付いてる証拠なのだろう。
背後を振り返ると、こちらに体を向けて眠っている越知がいる。静かな寝息を立てて、しっかり目を瞑っていた。

「月光さん、昨日はほんまおおきに。」

たった一日でこんなに良くなったのは、彼のお陰だろう。起こさぬように小さな声で礼を言うと、感謝の意を込めて、額にキスをした。

(さて、昨日は月光さんが全部ご飯作ってくれたし、今日は俺が作ったろっと!)

昨日、家事一つこなせなかった詫びと言っては何だが、まあそれに近い思いからその考えに至った。体も軽いし、ご飯なら余裕で作れる気がする。
にこにこと笑みを浮かべつつ、何を作ろうかと着替えながら思考を巡らせる。ホットケーキやフレンチトースト、焼おにぎりも良い。どれにしようか迷う。
ぴしっと服装を整えると、スマホでレシピを調べながら、意気揚々とキッチンへ向かった。







ぱたんと扉の閉まる音がしたその後、越知はゆっくり目を開けた。部屋に自分一人しかいない事を確認すると、のっそりと布団を捲り上体を起こした。

「……面映ゆい言動を照れもせずに…………。」

前髪を片手で掻き上げ、口付けをされた部分に指の腹で触れる。恋人の温もりが残っていそうで照れ臭さを隠せない。
実は彼が起きる15分前に、越知は目を覚ましていた。朝に強くない為、毎朝30分ほどは布団の中でじっとしてから起きるのだ。
しかしそれは毎日の事で、毛利が知らない筈はない……のだが、いつもその時間は本を読んだりタブレットをいじったりしているので、起きているか寝ているかがはっきり分かる。ただし、今日は何もせずに目を瞑っていたので寝ていると思われたらしい。
まだ起きていないと思い込んでキスをされた時、越知は寝たフリをして照れを隠した。もしかしたら、彼が自分より早く起きた日には、いつもこんな事をされているのだろうかと思うと、また恥ずかしくなってくる。ストレートに想いを告げられるのは得意ではないのだ。

「…………寿三郎の朝食を楽しみに、二度寝といくか……。」

恋心に顔を仄かに紅く染めつつ、越知はもう一度布団に潜った。

恋人に、ゆさゆさと起こされる様を想像しながら。



































































その後、張り切って朝飯を作った毛利は風邪をぶり返して、またダウンしたとか何とか。




End





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