【正月休み】
「正月ですねえ」
「…正月だな」
「さて問題です、正月といったら!?」
爛々と輝かせてこちらを見つめる千夏の眼に、いい思い出はない。
「こたつで蜜柑食いながら本を読む、これに限る」
即答すれば、中1の従妹はつまんないを連発している。
「正月といったら羽子板だよ!やろうよ羽子板!」
「羽子板なんて今時何処にも無いよ」
「じゃあバドミントンでいいよ!」
「何を好き好んで文化系文学少年がこの寒空の下スポーツしなきゃいけないんだよ」
そうだよ。スポーツなんて体育位で充分。第一俺は冷え症なんだ。不公平はいけないことだから、千夏を含め人類はすべて霜焼けの呪いを受けるべきだと思います。あの苦しみを知れば、外に出ようなんてバカげたことを言わないだろうし。
千夏がこたつから無理やり引きずり出そうとするけど、そこは体格差。このときばかりは先に生まれてよかったと思う。お陰でこたつの脚に足を引っ掻けながら蜜柑を食べることができる。蜜柑美味しいよな、蜜柑。
「千夏、揺するなよ。本が読めないじゃん」
「秋兄!バドミントン!やるの!」
「やらないの。あ、そういえば…年賀状届いたけどさ。」
話題転換をしてやれば単純な千夏は食い付くだろう。そう思う俺は悪い大人だ。…まだ高校生だけども。
「年賀状、まさか俺に送ったみたいなの他にも出したとか言わないよな…?」
「?送ったけど…」
思わず思い出し笑いをしながら、それをひらひらと千夏に見せる。
「なんだよ“ハッピーニューイヤーン”って。新年初笑いを、どうもありがとう」
“HAPPY NEW YEARN”と手書きで書かれた年賀状を見せると、千夏が真っ白になったり真っ赤になったり真っ青になったりした。忙しい奴だなぁ。
「どうしようッ冬休み明け、どんな顏してみんなに会えばいいのっ!?」
「いいんじゃない?千夏らしくて。あと俺の名前は片桐秋啓であって、片“切”じゃないから。まさか従妹に漢字間違えられるとは思わなかったよ」
「…あれっ!?ぎゃあホントだ…ご、ごめんなさい…」
「うぅぅ…」と呻きながら、こたつに頭を突っ込んだ千夏にまた笑いがこぼれてしまう。頭隠して尻隠さず。しかしながら、ジーパンとはいえこたつからお尻を出したままの女の子とは如何なものか。
「でも正直俺は千夏の頭が心配だよ」
「…」
「そんなんで高校どこ行くんだ」
「…S高に行くからいいもん…」
「S高って…もう少しがんばれよ。Nならがんばればいけると思うし。まずは冬休み課題やりなさい」
「…勉強やだよー」
完全にこたつに潜り込んで駄々っ子になりだした千夏に、やれやれと思いながらふと気付いた。
「あ、受験で思い出したけどさ。来年はあんまジャマしないでくれよ」
「……秋兄大進学希望だもんね。」
突然顏だけこちら側に出して、淋しそうに言う千夏。騒がしいくせに寂しがりやなのだ、千夏は。
俺は彼女に、にっと笑いかけた。
「俺が無事志望校に合格して、千夏が受験生になったら勉強教えてやるよ。数学以外な。」
スパルタだから覚悟しとけよ、そう言うと千夏がまた奇っ怪な悲鳴をあげた。