【チョコの日】

さてさて、今日はバレンタインデー。貰う予定もないし、まして逆チョコ贈る予定もない。
しかしながら本日は学校な訳で?
つまり、あのチョコの匂いと二酸化炭素(寒さを嫌がって誰も換気なんてしないからだ)が充満した教室に行かなくちゃならない。

なんて気鬱なんだろう、でもしょうがない。学校なんだから。


案の定朝から、女の子達が色めきたっていた。本命というよりは、友チョコを贈りに色んな教室を出入りしているだけであって。ああも皆出払っていると、探し人も見つからないだろう上に廊下は大混雑、つまりただでさえ少数な僕たち文系少年は尚更肩身が狭い訳だ。クラスには四十人中十二人しか、男子が居ないからである。因みにA組からC組は理系、D組からF組は文系。A組とここF組がそれぞれの特進クラスであり、理系と文系ではクラスが離れるほど纏う空気も異なるもので。
理系の親友に「こっちはむさ苦しくてかなわねえ!女の子、俺に女の子をくれえ」などと泣きつかれたけど、あのな。はっきり言って貰えもしないのにチョコの匂いの教室で授業を受ける僕らの方が辛いと思う。いや、正直な話。


「おはよー」

女の子の波をなんとか潜り抜けて、僕はへなへな教室に入る。エアコンの一番近くが、少数男子の今のたまり場だ。ちょうど席替えでエアコン直下に来れたから、僕は今結構幸せだ。周りが女子しかいないのが、不服ですけども。


「おはよっース、ちゃんと持ってきただろうな?」
市川が僕の席に座っていたのでとりあえず無理やり下ろして、席に着く。

「一応、クッキーなら買ってきたけど。チョコだとなんか虚しいし」

「くそう…俺女の子に貰いたい。俺ホッキー」

「僕はチョコあればソレでいいや…だって…チョコはストレスに効くそうですし…あ、マープルチョコだよ」

教壇と僕の机に腰かけている、泣き真似人間とトリップ人間は沢田と野々村だ。
因みに僕だって騒ぎはしないけど、出来ることなら貰いたい。

「ホッキー、マープルチョコだと?量が少ないじゃないか。オレ様はスティックチョコパン持ってきたぞ!崇めよ!」

と、高木。今いるのはこの四人か。まだ早い時間だしな。

「おいおい、スティックチョコパンって菓子か?」


いくら文系少年でも男な訳で、こんなにチョコの匂いがすれば腹はめちゃくちゃ減る。
がさごそ教室の片隅で菓子パーティを開いているけど、女の子たちはこちらより廊下にいるため、静かなものだ。


「あー、やっぱりもっと腹持ちのいいやつ持ってくるべきだったな」

「だな…」

「…」


やっぱり、静かなものだ。

チョコパンを皆で頬張っていると、ふと沢田がぼやいた。
「姉妹のいるやつ、羨ましいなぁ…義理とはいえ貰えるんじゃん」

「クッキーの切れ端が関の山だよ。それなのに姉さん、お返しは三倍返しを僕に要求するんだ…。まぁ切れ端の三倍返しってことで、安物で返すけど」
と野々村。

「お前も妹居たよなー」

市川の言葉に僕は訂正を入れつつ答える。

「従妹だよ、家隣だし妹みたいな感じだけど。確かに三倍返しは辛いんだよな…」

高木が会話に割り込んできた。

「従妹ってギリギリ近親相姦から外れるんだよな?お前は意識したりしないのー?こういうイベントの日とかさ」

「それは無いって。マジで妹としてしか見てないし、向こうも同じだからさ」

「つまんねーの…」

「変な面白さを求めるな、俺に」

どっと皆で笑っていると、
「STやるから席につけよー市川、号令。」

担任の菊地先生が教卓についた。



チョコの日の放課後、皆はそそくさと部活に行くが僕はふらふら帰ることにした。だが、断じてサボりでも帰宅部でもない。僕は毎週木曜日と日曜日にしか活動しない写真部に所属しているから。余力があれば図書館に入り浸るんだが、まぁ明日小テストがあることだしな。


家に帰ってとっとと自分の部屋に来て、予習と小テスト勉強をしようと椅子に座っていると、千夏がバタバタ入ってきた。

「秋兄、義理チョコ持ってきた!」


「おー、ありがとう。あれ、今年手作りなの」


「だって皆手作りするからさ、私も母さんと頑張ってみたの!ホワイトデーは三倍返しだよッ」


「金欠の俺にタカるなよ。安物な、安物。」

「えー、ここは想いに応えて高級チョコでしょ」

「…実は今菓子持ってるんだが、これが欲しかったらホワイトデーは安物な。」
「秋兄のその手には乗らないもん!」

「そ?じゃあ腹減ったし今食っちゃおっかなー」

にやりにやり、千夏の顔を見ながら袋を開ける。こいつの好きな、パイノミの袋を。


「秋兄…!ずっるい!人でなしー!」

ぴょんぴょんと僕のベッドで跳び跳ねる千夏に、にやりにやりと問いかける。

「千夏、食うだろ??早くしないとなくなるぞー」

「うー……。…食う」

目先の利益に負けた彼女の顔は、とても面白いことになっていた。

「ま、ホワイトデーも何かしら菓子買ってくるしさ。機嫌直せって」

「うー、絶対なんかちょうだいね」

「はいはい」



大学生になったらだれかに本命貰えるかなぁと将来に想いを馳せつつ、今年のバレンタインデーは過ぎた。

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