詭弁家の倫理論 | ナノ





俺は一般論で言えば恵まれていること位、知っているさ。まぁ、識りたくは無いんだけどなーあ?


詭弁家(ソフィスト)の倫理論


産まれ落ちた瞬間から俺は待望の令息だった。独りっ子だし、明治から脈々と続く伝統のあるらしい、そして莫迦みたいに血を大切にする俺の会社は俺に、最高級の贅沢という、選択肢の無い人生を歩ませてくれる。

金も地位も学歴も、名声…は俺が何とかするとして、容貌も産まれたときから持ち合わせている俺には、凡人の抱く渇望と言うものなんざ、知ったこっちゃなかった。

兎に角、総てどうだって良いのだ。執着心が無い、と言ったところか。会社だって多分跡を継げと言われたから継ぐだけで、別に誰かに替われと言われれば、くれてやったっていい。それこそお金も豪邸も盗られたって、俺は別に何も感じないのだ。

生に対する執着心も、実は無かったりする。
尤も、同様に死に対する執着心も全く無いから、結果的に生きてはいるが。



執着心がない。が、それを悲しいとは思わない。寧ろこうやって敷かれたレールの上を行く人間には、素晴らしい特技だとすら思っている。


全ては一族と会社のために、である。産まれ落ちて勉強して政略結婚でどこぞの令嬢と結婚でもして出来た子供を次の跡継ぎにし死ぬ。そうその総てが。


だから一族と会社に都合のよい、女にさえ執着しない、本気にならないこの性格は、もはや両親の最高傑作ではなかろうか?


そして血筋なのか、俺は異常に自尊心が高かった。


俺はガリ勉にはなりたくなかった。だから授業中は寝て、人前で勉強したりはしなかった。高校から髪は染めたし。
馬鹿にされるのも嫌だった。だからこっそり夜中の1時に起きて5時まで勉強してから二度寝した。

友達がいない一匹狼は馬鹿としか思えないから、建前上のオトモダチは多くつくっておいた。

そんな打算的で可愛げのない俺にも、大学からようやく、悪友つーか親友?のようなやつができた。

そいつは、一見俺とは真逆のストイックな風貌に、優等生的微笑を湛えていた。
ただ、その眼は静かに、柔らかい物腰でカムフラージュした他人への嘲笑・侮蔑、自分への傍観、諦感が妖しく揺れていた。

俺の眼だ、と瞬間思い、初めて他人に興味が湧いた。
それから密かに素性を調べ、虎視眈々と話す機会を窺った。


それから仲良くなったものの、やつは親の跡を継がず(まぁ俺の会社とは違い政治家は跡取りはあまり大事じゃねぇけど)俳優業に走っていった。俺が心底どーでもいいと感じる読書にすがるあいつは、自分の存在理由を他人に求めているようだ。

俺が生きるのはただ暇だからだ、自分の為でもなくましてや他人の為でもなく。そんなもんでいいんじゃないか?どうせ他人には分からねぇし。
そこの部分だけはあいつとさえ相容れないなぁ、俺は嘲笑った。

俺はやっぱり会社を継いで、下らない統計と睨めっこだ。めんどくせぇが、そうだな、負けず嫌いの俺は後世に残るほどの名誉でも求めてみようか?手持ちぶさたは嫌いだし、それが世のため人の為になんなら万々歳じゃね?
相対的に良ければさ、この世界なんてものはうまくいくんだ。


ソフィストの倫理論
(別に人の役に立つ理由が暇だからでも、それはそれで『有』だろう?)


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